この空の下
娘は3歳になると不思議な話しをする様になった。夜寝る時間になると毎日話し始める。自分が生まれる前の事を。そんな話しをしたこともないし、生まれてからずっと一緒だし、まだ幼稚園にも行っていないので娘が人から聞いて知識を得るはずもない。
作り話とは思えない具体的な内容にただ驚いていた。
「あのね、りんちゃん生まれる前はお空にいたんだよ。そこにはいっぱい赤ちゃんがいて、皆ママを探してる。ママを見つけた赤ちゃんはママのお腹の中に潜り込むんだよ。」「りんちゃん、ママを見つけたよ。優しそうだからママを選んだんだよ。その頃から大好きだったよ。」
たまに夜空を見ると、
「前いたお空はいつも明るくてあまり暗くなかったから、怖いなぁ。でもたまに雷や雨の日があって赤ちゃんみんな怖がって隠れてた。淋しいと、うじゅうじゅとか話しをするんだよ。」
と言うこともあった。
長い間お空にいる子もいる。
雲は少し湿っていてふわふわしていて、その上でよく遊んだ。
りんちゃんは、ママと抱っこしたり遊んだりしたかった。後、色々な物を食べてみたいと思ってここに来た。
目も鼻も宇宙で創られる。
ブラックホールには気を付けた方がいい。
お腹の中は温かくて水の中でプカプカしていた。
など次々と新しい話しをしてくれた。
ある時私がある曲を流すと、「この歌、お腹の中でよく聴いてたよ。」と言って生まれてから初めて聴いたはずのその曲を歌いだしたこともあった。
しかし、最初は楽しそうに話していた娘がある日寝る時間になるとしくしく泣いて淋しいと繰り返す様になった。
「りんちゃん、またお空に帰らないとだめななのかなぁ。」
「またお空に戻っても、またママを見つけてママのところに行くからね。」
そんな言葉に何も返すことが出来ず、まるで時が止まったかの様に動けず、悲しみなのか不安なのか何か底知れぬ恐怖を感じた。
「どうしてママはたまに泣いてたの❔空から見てたよ。」
そう、私は娘を宿す数ヶ月前に一度妊娠初期に流産した事があった。その話しは娘は知らない。
でも娘が毎日泣くのである日
「ママね、りんちゃんがお腹に来る前に赤ちゃんが来てくれたんだけど死んでしまったの、それで悲しくて泣いてた。」
と言った。
すると娘は静かにこう答えた。
「そうなんだね。知ってる。」
そして声を出して泣いた。
しばらく泣いた後、
「これからずっと一緒にいようね。」
と言って笑った。
その日を境に、もう夜に泣くこともなくなり不安定になることもなくお空に帰りたくない、と怯えることもなくなった。
はっきりしたことは分からない。私はこれまで流産した子と娘は別の人間だと思っていた。
でももしかして、あの子の生まれ変わりかもしれない、それか、あの子を知ってる❔本当のことは分からない。でもとても不思議だった。
空にいた記憶がある娘。
そして空を見上げて、初めて世界が美しいと思えた私。
この空の下、私達はこれからもずっと一緒だ。
愛しているつもりが愛されてばかりいる。運命ってあるのかも。
こんなに無条件に誰かを愛せること
それが
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