古民家に鼠が出た話
随分前から屋根裏に気配はあったが、実際に目の当たりにするのは初めてだった。
きっかけはヒカルが台所で「高速で動く黒くてデカい何か」を発見した事だった。冷蔵庫の裏を覗いてみると、反対側から走って逃げていった。探す内、応接間に入り込んだ。長い尾を除いても15cm程度ある鼠だった。どこに入ったかわからなくなったので、取り敢えずその日はドアを閉め切って寝る事にした。早朝4時の事だった。
翌日、流石にどこかの隙間から逃げて行っただろうかと思いながら応接間で煙草を吸うと、コーヒー用のミルクやガムシロップが食い荒らされている事に気が付いた。
いる。
すぐにヒカルやmiso氏(そういえば書いていなかった。5月半ばに引っ越していったヒトケン氏に代わり、9月末に九州から引っ越してきた同年の絵描きである)を呼び、戦闘態勢を整えた。前日に殺虫剤を嫌がる事は確認していたが、応接間で食い荒らしたガムシロや散らばった糞を見た私は殺す事しか考えていなかったので……もっと有効そうなものにした。電動ガンとエアコッキングガンである。他にも物理攻撃用にクイックルワイパーが用意された―――後はタクティカルライト以上に有用な物は無かった。木刀やナイフは鼠を殺すには向かず、ガムテープも鼠の足を止めるには粘着力が不足していた。
電動ガンのバッテリーの充電時間は1時間だった。箪笥の裏に入った事を確認した我々は、その場で煙草に火を点けながらポーカーを始めた。私がせいぜいワンペアかツーペアしか出せない内に、ヒカルは二度フォーカードを出していた。奴はブラックジャックも妙に強かった―――昨日miso氏と私が1対1でやった時は、私が10回も勝ち越したのだがなあ。この日の彼の勝負運の強さは、その後すぐに再確認される事となる。
充電が終わった。戦いの時間だ、私は空になったモンスターエナジーを机の上に置いた。
手順は簡単だ。私がライトで隙間を照らしながらエアガンを当てて弱らせていき、ヒカルがクイックルワイパーで仕留める。国内の既製品のエアガンに小動物を絶命させ得る威力はない。逃げ足が恐ろしく速かったが、常に私は視界の端に捉えて凡その居場所を察知していた。
箪笥の裏で撃つ、ヒット。逃げる。椅子を登り調度品の裏へ。
隙間から撃つ、ヒット。逃げる。飛び降りてソファーの裏へ。
ソファーをずらして威嚇する。箪笥の裏まで一足飛びに逃げていく。少しずつ隙間を減らし、逃げ場を限定してゆく。リロード。
これをずっと繰り返す。尻や背中に当たっても多少痛がる程度だったが、目や鼻辺りに直撃した感覚があった後はあからさまに足が遅くなっていた。弱るにつれ同居人達は恐れがなくなり殺意が高まっていくようだった。私はといえば、時間や金、発想を費やして整えた自慢の応接間を荒らされた事で最初から冷めた動きで鼠を追っていたと思う。電動ガンは調子が悪く、結局単発でばかり撃っていた。信頼性という点で、やはり私はコッキングの方が好きだ。マガジンも追加で一つ買ってあるしな。
箪笥の下で休んでいる鼠に、先端部を外してただの槍と化したクイックルワイパーが突き刺さるのが最期だった。ヒカルの一撃は頭部に決まり、鼠は血を流して動かなくなった。
達成感や安堵感と共に味わう煙草は、いつもと少し違っていた。
その後は掃除担当としてPrea氏が血を拭き取るなどし、我々は古くなった灯油や余っていた着火剤の使い道についてワイワイと語らっていた。Amazonで買ったブラックライトで鼠の尿を辿る作業、撃ちまくったBB弾や食い荒らされた跡、糞等の掃除は後日に回す事にしてこの日はお開きとなった。
今夜は気持ち良く寝られそうだ。
然らば。