「speCtate steLLas, VIDete et peDIbVs」
先日、秘封蓮花蝶の公式猫さん(Twitter:notebookphotos)の中の人から絵の依頼を頂いた。アナログでモノクロ、且つ暗い絵ばかり描くミゾヲチにとっては初となる依頼で、驚きが先に来た。何度も確認したが俺でいいらしい。
趣旨を聞くと、12/31のオンライン秘封に向け12月(秘封月間)に上げるイラストの1枚を描いて欲しいとの事。秘封月間は毎日何かしらの語呂合わせを以て秘封の作品が上げられる祭のような月で、蓮花蝶もイベントの一環として何枚か絵を上げる事にしたようだ。そして、俺の担当は12/12(秘封秘封の日)らしい。なんとまあ重要な日じゃあないか。
猫氏「この日付に合う作品をお願いしたく」
ゾ「難しい事言いますね〜〜〜〜」
猫氏「すいません!
難しいですけどミゾヲチさんならお願い出来きそうなので、お願いしました」
そう言われては断れない。やってみる事にした。俺の売りといえば絵の描き込みと文章の衒学趣味だが、であれば単に秘封っぽい絵ではなく寓意的に1212という数字を表せるようなものが描ければそれが良かろう。難易度は高いが、ミゾヲチが仕事をするとはそういう事なのだ。
色々調べ、或いは友人から案を募り、やる事は決まった。へびつかい座、平面アストロラーベ、クロノグラムの3つを軸にした絵だ。のんびりダクソなどしていた為2週間で描かねばならなくなったが、辛うじて形にはなったのこれで納品。
順に解説していこう。先ず目につくのは蓮メリの後ろの円形カレンダーと黄道十二宮であろうか。目盛りの形で並べられた日付に黄道十二宮を配置させ、その絵を載せるというカレンダーである。12/12が1番上にくるように回してある。そして射手座のケイローンが燃え(蚊取り線香で実際に燃やした)、奥からはへびつかい座のアスクレピオスが姿を覗かせている。
黄道十二星座は文字通り黄道(太陽の見かけ上の通り道)上にある星座で、シュメールの頃からある極めて歴史の深い概念だが、十二星座と言いつつ実際の星座は13個ある。13では都合が悪いので省略された、即ちずっと秘されてきたのがへびつかい座という訳だ。そして大変都合の良い事に、20世紀に生まれた13星座占いにおいてはへびつかい座の期間は11/30〜12/17、今回の目的たる12/12が該当するのである。暴かでか。
蓮メリの足元にあるの平面アストロラーベである。これは占星術や天体観測等に用いられた古いアナログコンピューターとでもいうべきもので、使い方は10世紀の天文学者アル=スーフィーの解説書によると1000通りにも及ぶという極めて密度の高い代物ながらも、省略版(章の数でいえば10分の1)しか残っていないが故に現在では使用法が限られているというロマンの塊である。こんなん秘封やろ。描かでか。
この絵に描いたアストロラーベでは、へびつかい座のα星ラサルハグェが12/12に登る時間を示している。パースのついた円を大量に描かねばならずかなり苦労した。
下の枠の中の文章はラテン語である。意味は『星々を見上げよ、足元を見るな』。誰の言葉かというと・・・・・・蓮子の持っている本を見ればわかる。ご存知、「車椅子の物理学者」スティーヴン・ホーキングである。「remember to look up at the stars and not down at your feet」をラテン語訳し、ちょっと弄ったものになるのだ・・・・・・ここが重要。
クロノグラムというものがある。特定の文字と数字を対応させ(対応の仕方は規定)、その文字だけ大文字で表記したものである。碑文等に使われ、出てきた数字を全て足すとその碑文の内容と合致する西暦が出てきたりするようなギミックである。上手く目的の年が出てこなかったが故に本来大文字にされるべき、即ち数字を示す文字を飛ばして表記した場合は「美しくない」とされる。そりゃあそうだ。・・・・・・しかし、美しくなってしまったんだなこれが。
今回はローマ字なので、シンプルにM=1000、D=500、C=100、L=50、X=10、V=5、I=1。文章は、speCtate steLLas, VIDete et peDIbVs。C+L+L+V+I+D+D+I+V=100+50+50+5+1+500+500+1+5=1212、となる。秘封秘封になったわけだ。美しい! ラテン語面で協力してくれた化学魔さんに感謝である。
あとは細かい意匠だが、例えば格言の左右にあるのはランタン時計(17世紀頃の物で、当時は「分」という概念が実装された頃である為本来は分針も分の目盛りも無いのだが、わかりにくいので普通の時計にしてしまった。時刻は勿論12:12)と本、これらを「足元」に配置するという事は、書物や時計に頼らず己の眼で空を見上げた方が確実に時(と場所)を読める蓮子にとり、真実を視る事を意味するものであろう。その上の対になった円は、日の象徴たる向日葵と太陽、夜の象徴たる芥子と月。元ネタはミュシャの『黄道十二宮』である。これらは時を意味する。
こんなところか。この後紅茶染めともう少しばかりの焼き(上の空白は"焼きしろ"だったりする)等を以て完成とし、額縁に入れて応接間に飾りたい。一応来年の京都秘封に持っていくつもりだが、なにしろゾ邸の応接間に飾るのが似合う為売るか否か悩んでいる。A3サイズ(デカかった・・・)の絵の為画像の容量が大きいが、潰れてしまって細かいネタ(アストロラーベをよく見るとRasalhagueの文字があったりするのだ)が見れなくなっている為次はもっとまともな機器でスキャンしたいところだ。そうそう、ミリペンで描いただけのものなので元絵は焦げを除きモノクロなのだが、編集した際に偶然アストロラーベの側面が真鍮のような色になってくれたのは中々良かった。
因みに、ペン入れ時は全てフリーハンドだ。下描きにしても使ったのは直線定規のみ。頑張った。