タダで業界調査をする方法
はじめに
「〇〇業界について調べといて」
そんなお題が上司から振られたあなた。
よし、〇〇業界について調べるか。
そう意気込んでPCの前に座ったあなたの手は、だが動かない。
「そもそも業界調査ってなんだ?」
「どうやって調査したらいいんだ?」
そう、業界調査のやり方がわからないのである。
この記事はそんなあなたに贈る、どうやって業界調査するかを解説する記事だ。具体的にはGoogleを活用して業界調査と呼ばれるものを行う方法を伝授する。
ちょっとしたレポートを買うだけで50万円とか100万円かかる(今は円安なので海外系のレポートはさらに高い)のだけど、そんな予算は取れそうもない。でも提案書に簡易な業務分析を載せたい、メーカーで新規事業を検討しているが参入予定の市場がよくわかっていないので調べたい、そんなときにオープンソースから業界調査を行う方法だ。
割と具体的なノウハウなので有料設定にするか迷ったのだけど、無料公開にいったんする。最後に有料枠をつけておくので、実際に役に立ったらぜひおひねりを投げてほしい。場合によってはそのうち有料化するかもしれないので、こっそり保存するなら今のうちかもしれない。
では以下本編。
目的を確認する
まずは調査の目的確認である。
調査するということは何かを知りたいわけだが、それを確かめずに調査を開始すると路頭に迷う。依頼した側も大して何も考えてない可能性があるので、必ず受けるときに確認しよう。
参入を検討しているので市場を調べたい、みたいなのがよくあるケースなのでいったんそれで仮置きして書いていくが、目的によって強調する部分や出すべきメッセージが変わる。
一方、調べる内容はそこまで大きく変わらないのでだいたいこの記事記載の方法でなんとかなるだろう。
ちなみに業界調査は基本的に3C分析で、市場と所属企業(競合)を合わせた概念であると理解している。これに自社の要素を加えると3C分析になる。
市場全体を調べる
市場全体の規模と推移を調べることが最初の一歩である。
具体的には、「○○市場 推移」「○○ 市場規模 推移」「○○ marketsize trend」とかでググろう。2030年が知りたければ2030とかも検索ワードに追加だ。
グラフを探す場合は画像検索をしてみると良い感じのものが見つかったりもする。pdfで良く出る公的なレポートを効率よく抽出するなら、「filetype:pdf」を検索ワードに追加するのもいいだろう。
大概の調べたい分野は矢野経、富士キメラ、グローバルインフォ、フロストアンドサリバン等のレポート屋がレポートを書いているので、まずはそれを探そう。予算が付いたときに買うレポートがあるかを把握できるし、調査のヒントも入手できる。
また、過去の推移は割と公開されてたりする。未来の推計はあったりなかったりだが、例えば2030年の市場規模あたりは調べればだいたい引っかかる。
可能であれば、複数のレポートを探して数字の整合性を確認しよう。桁が1個違うとかだと信憑性が低いので、もう1個レポートを探すか自分で想定販売数×単価とかで推計して検算してみよう。とりあえず中間地点あたりを使うという手もある。
足元の市場規模もググればわかるから、その間のCAGRを計算可能だ。
CAGRは年平均成長率で、市場成長の表現でよく使用される。計算式はググれば出るし、エクセルで簡単に計算できる。
逆にCAGRだけわかることもあるので、それで2030年とかの将来の数字から現在の数字を計算することもできる。
過去から現在まではわかるが将来の推計が見つからない場合、とりあえずCAGRを過去から引いてそれが継続する前提で推計をかけてもよい。今までの市場規模の推移の原因が大きく変わっていないならば、それでもあながち間違いではない。
マニアックな市場になると、もう少し工夫がいる。
例えば愛用しているトラックボールの市場規模推移を調べる場合、ポインティングデバイスの市場規模は見つかるが、トラックボールのものがピンポイントになかったりする(実際は調べると出てくるが…)。
そんな時こそフェルミ推定で、ポインティングデバイス内のトラックボールの比率を市場全体にかけるとか、販売個数の推移だけわかる場合は単価×個数で市場規模を出したりする等で工夫しよう。もとになった数値と計算式はちゃんと記載することを忘れないように。
これで過去から現在、未来に至る市場規模の推移が記載できるようになったはずだ。棒グラフで記載しよう。どこからどこまでのCAGRが何%で推移しているかを添えれば、市場規模推移を記載した1枚の資料ができる。
過去の推移が凸凹してる場合、あるいは途中から角度が急に変わっている場合、何らかのイベントが発生している可能性がある。後々PEST分析を行う際に使うので、頭に入れておこう。PEST分析で凹み等の原因がわかれば戻ってきて追加で記載しよう。
市場の変化を調べる
市場規模と推移のほかに、市場の大きな変化は押さえておきたい。基本的にこの変化を分析するフレームワークはPEST分析が適している。PEST分析自体はググれば出るので各自確認してほしい。
各要素に関しては、例えばPであれば「○○市場 規制緩和(強化)」とかでおおよそ引っかかるし、Tでも「〇〇市場 技術トレンド」「技術革新」とかでググれば見つかることが多い。Eは景気指標や為替、経済成長率に関してだが市場固有のものがあまりないのでパスしても大きな問題はなく、Sに関しては人口動態や世帯数だがこれも市場固有のものはそこまで多くない。しいて言えば社会の意識の変化とかに言及することはあるだろう。
これで市場の大きさと過去の推移、将来の推計、その原因となるドライバが2-3ページ分程度の資料として作成できたことになる。次は所属企業を調べていこう。
所属する企業を調べる
当該市場に所属する企業がどこか調べる場合、まず手っ取り早いのは有料レポートの目次に記載されている企業リストを見ることだ。その業界で押さえるべき企業がだいたい書かれている。
ほかの手段で、「○○市場 シェア」で調べて運よく何かしらの情報が引っかかるのを祈る、その業界団体のホームページに行って所属企業のリストを入手する、という手もある。利用できるのであればSpeeda等のデータベースを引くのもいいだろう。
所属企業がわかったら、各企業の戦略を調べていく。ここで注目すべきは、「その市場で何を売っているか」「その企業はその市場で強いのか」「強いならば何が強いのか」「どんなことをしてきて、今後しようとしているのか」である。
「その市場で何を売っているか」はホームページやカタログから製品ラインナップを確認することでわかる。1社だけだと特に何も示唆が出ないが、何社かラインナップを比較するとその違いや市場内の得意分野(高級品セグメントが得意、特定用途に強い等)が見えてくる。時にはラインナップがそろっていること自体が強みになるケースもある。だいたい業界トップの企業は最も広いラインナップを持っていることが多い。
「その企業はその市場で強いのか」「強いならば何が強いのか」に関して、まず強いの定義はシンプルに言えば「営業利益が多い、利益率が高い」やつが強い。結果指標として、営業利益はほぼその事業の強さを表現できる。稼いでるやつが強いのだ。事業ごとの営業利益は公表されている場合とされていない場合があるが、公表されている場合は中計の振り返りや有価証券報告書の事業の説明で記載されていることが多い。
一方、何が強いのかはかなり難しい。本格的にこれを調べるためには、仮説を置いて有識者へのインタビューやその製品を購入している人へのインタビュー等で裏を取っていく必要がある。各社の中計資料や有報を読みながら、どこで差別化しようとしているかを捉えることを意識して仮説を立てる程度にとどまるだろう。ただ、何がその市場でキモになりそうなのかというのは参入検討を行う等であれば極めて重要な要素なので、仮説でもいいから何か書きたいところである。
「どんなことをしてきて、今後しようとしているのか」に関しては、過去の沿革を見るのが手っ取り早い。日本の製造業だと、統廃合の歴史とかが垣間見えたりする。ちなみに統廃合の歴史は経産省の資料でたまにまとまっていたりするので、そこらへんが知りたければ「○○業界 統廃合 typefile:pdf」とかでググると発見しやすい。
直近の動きでM&Aを追うのであれば、ニュースリリースを追うとほぼ記載されている(M&Aを実行してニュースリリースを出さない企業はまずいない)。M&Aや投資で何を強化してきたか、という点を明らかにしよう。
今後何をしようとしているかは、中計に頼ることになる。どの業界にどれくらい投資をするか、何を強化する市場として定めているか、という点から示唆を導こう。
これでその市場にどんな企業が所属し、何を各社考えて日々競っているのか、ということが見えてくるだろう。だいたい各社の情報をまとめた紙が1枚(ここでどんなメッセージを語るのかはセンスが出る。業界のKSFとかまで言及できると強い)+各社の情報(各社1枚、あるいは2社で1枚くらい)で3枚程度、合計4-5枚で所属企業の分析となる。前述の市場の分析と合わせて、10枚いかないくらいの業界分析のパッケージが完成したはずだ。
有料で調査をブーストする方法
数万円程度の予算があれば、以下のような行動が追加でできる。活用すると深みが出るし早くなる。
〇〇市場がわかる本、みたいな本を数冊買って読み、共通項を探す
Speeda等のデータベースの会員となり、情報をそこから引っ張る
展示会に参加し、所属企業を探索しつつ情報収集を行う
ビザスク等で安めの業界人を探して話を聞く
〇〇協会にアポを取り、菓子折り持ってインタビューする
業種別貸出審査辞典を読む(銀行が金を貸す際のポイントが書いてあるため、KSFがわかる場合がある)
四季報業界地図を読む(関連する会社とか競合する会社がわかりやすい)
コンテンツは以上である。何か思いついた点があれば追記していく。
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