Sam Gendel & Sam Wilkes - Music For Saxofone And Bass Guitar More Songs (2021)
ともにLAを拠点とするプレイヤー、Sam GendelとSam Wilkes。コラボ第二弾が7月にリリースされた。まず2人についておさらいしておきたい。
Sam Gendel
エクスペリメンタルミュージック界において今最も大きな注目を集めるサックスプレイヤー、Sam Gendel。1995年生まれとするサイトもあったが真偽不明。アヴァンギャルドなトリオ、INGAのリーダーとして2015年にデビュー。2017年にソロ1st『4444』、2018年に『Pass If Music』をリリース。2020年には脱構築的ジャズ再解釈作『Satin Doll』で世界的にブレイクを果たした。更に同年、ジャズから離れたエレクトロニカ作『DRM』をリリース。2021年には52曲入りデモ集『Fresh Bread』と、練習風景を盗み聴きしているような『Valley Fever』をリリース。更にPino PalladinoとBlake Millsのコラボ作『Notes With Attachment』で強烈な演奏を聴かせていたのも記憶に新しい。
彼のサックスの特徴はなんと言ってもそのあまりに抽象的で前衛的なフレーズ、アレンジにある。一回アンプを通すのは当然も当然、多様なエフェクトがかけられ、もはやサックスの音とはわからないと言うところまで換骨奪胎されたプレイには、ゾクゾクさせられるものがある。『Pass If Music』を聴けばそれが一番分かりやすいかもしれない。
Sam Wilkes
Sam Wilkesは、LA出身のベーシスト、プロデューサー、コンポーザー。2011年にPratleyというインディロックバンドでデビュー。超絶演奏集団Knowerへの参加も経て、2018年、自身初のソロ作『Wilkes』を発表。
サックスという一楽器に向き合い強烈な個性を発揮するGendelに比べ、Wilkesはより曲トータル、アルバムトータルでの世界観を重視する傾向があると感じる。それが分かるのが『Wilkes』だ。エスニックな管楽器が眩惑的なムードを作り出したかと思えば、シューゲイザーに近いノイズに覆われる場面もある。いずれも、「ここではないどこか」へ連れ出すサイケデリアがある。Fenneszのようなアンビエント感性、はたまた『Boo Boo』期のToro Y Moiのようなインディロック感性も感じる。またここでもGendelのサックスが大々的にフィーチャーされており、いかにWilkesが彼にぞっこんか、よく分かる (少々それがいき過ぎており、まるでGendelの作品をWilkesがプロデュースしたかのようにも聴こえるが)。
Music For Saxofone And Bass Guitar More Songs (2021)
総評: 7/10
コラボ第一弾『Music For Saxofone And Bass Guitar』(2018)に続く2作目。本作には2人の盟友であるInc. No WorldのDaniel Agedが数曲で参加している。
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1曲目、"Theem Prototype"。Gendelのサックスの背後でゆらめくアンビエンスが心地良い。それらは溶け合っているというよりも別々で並行しているかのような処理となっており、そのミスマッチ感に興奮させられるものがある。
2曲目、"Welcome Vibe"。ここではGendelのソロを背後に、雑踏のノイズがコラージュされている。Wilkesのベースは輪郭を掴ませない曖昧なプレイに徹し、抽象的な音像を立ち上げる効果を担っている。
3曲目、"I Sing High"。シューゲイザーやドリームポップのような(少しローファイな)ノイズに乗せて、サックスというよりはギターリフのような使い方のプレイが鳴り響く。中盤からトラップを模したようなパーカッションと、そしてギターノイズのようなサックスが重ねられる。MBVの未発表曲と言って誰かを騙せるかもしれない。
4曲目、"Cold Pocket"。一転してベースのファンキーかつ曖昧なプレイ。これはWilkesではなく、Daniel Aged(Inc. No World)のプレイだ。ソロ作ではスティールギターを中心にしているが、彼もまたファンキーなプレイを隠し持っている。
5曲目、"Streetlevel"。これも雑踏のノイズをバックに二種のサックスが無軌道に宙を舞う。2分弱のラフスケッチだが、得も言われぬざわめきが胸を貫く。
6曲目、"SG's Prius"。特にアバンギャルドなサックスを聞くことが出来る。ベースは単調。これもラフスケッチのような曲。Priusは固有名詞なので、Sam Gendelはプリウスに乗っているのか?音に似合わず車の趣味はコンサバのようだ。
7曲目、"Flametop Green"。Agedがベースで参加しているが、ここでは控えめなプレイ。アルペジオ奏法を駆使する彼のベースプレイの一端を垣間見ることが出来る。
8曲目、"Caroline, No"。やはりノイズの上でサックスが無軌道に漂う曲。終盤のWilkesのプレイは抽象的ながら、トーンが良い。
9曲目、"Greeting To Idris More Songs"。ボイスパーカッションとサックス、輪郭を滲ませたベース。途中から入るアンビエンスのオーロラも良い。一番本作の良さを味わえる曲かもしれない。
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全体を通して、前作ほどではないにせよ、やはりラフスケッチ集のような趣がある。彼ら2人プラスDaniel Agedのファン向けのような作品にとどまっているが、もう少し時間をかけてカッチリ仕上げれば、このメンツならもっととんでもない作品が出来るのではと思う。個人的には、Gendelが『4444』で見せていた歌もののような作風と、Wilkesのトータルアート感覚、そしてAgedのスティールギターが有れば、究極の作品が出来るような気がする。夢に終わるだろうが、そんな作品も一度聴いてみたいものだ。
Bandcampはハイレゾ。Leaving Recordのサブスクに登録すると、Sam GendelとSam Wilkesはじめ、所属アーティストの作品がハイレゾ含めダウンロードし放題となる。
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