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最近聴いているアルバム2024.08
来週から怒涛のリリースラッシュ・レビュー祭りになるので、少し早いけど投稿。
どのバンドもなぜかスネアの録音が軽すぎること以外は、1996〜2002年頃のイギリスのロックはやっぱ最高だなと改めて思う。後追いの自分からすると、ブリットポップより遥かに良いバンドとアルバムがたくさん出ていた。
Longpigs 『The Sun Is Often Out』 (1996)
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切なく胸を抉るタイムレスな名盤。ボーカルもギターも叫んだりは一応しているけど、本質は明らかにメランコリックな歌もの。これがアメリカのバンドだったならオリジナルエモとしてSDREなどと並び称される存在になっていたかもしれないが、イギリスなのでそうはならず人々の記憶から抹消されたままとなっている。
先月書いたCatherine WheelやAdorable、My VitriolやJJ72なんかもそうだけど、90年代〜00年代序盤のイギリスの非ブリットポップのオルタナバンドはUSエモ等と比べると再評価の機会が著しく少ない、というか全く無い。烏滸がましいけど、私だけでももっと取り上げて人々の記憶のテーブルに乗せてあげたい。
Marion 『The Program』 (1998)
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1stはシンプルなギターリフがグイグイ引っ張る勢いのある佳作だったけど、本作ではソングライティングを磨いて歌の上手さを活かした歌ものアルバムになっている。元The SmithsのJohnny Marrがプロデュースしておりほとんどの曲でギターも弾いているので、演奏も安定感がある。なおギタリストのPhil CunninghamはMarion解散後New Orderに加入し、『Waiting For The Sirens Call』以降の作品全てでギターを弾いている。
私の中ではこれぞUKロック!という感じで結構好きだが、Adorableや後期Geneなどと同様に、このバンドも永遠に再評価の機運など訪れないんだろうなと思うと悲しくなる。ただ2024年の若者が聴いたらどう響くのかは気になる。
Mansun 『Six』 (1998)
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複雑な曲展開・美しいメロディ・カトリックを皮肉る歌詞ばかり語られるアルバムだが、録音の素晴らしさについて語られているのは見たことがない。シンバルとスネアの鳴り、ディストーションギターの粒の細かさ、シンセのトレブルの加減、鉄琴やハープシコードの繊細な響きまで、一つ一つの音が極限まで澄み切っている。同時期のUKロック傑作『OK Computer』『Blur』『Without You I'm Nothing』などとは比べ物にならないし、Steven Wilsonだってこのレベルに到達したのは『Hand Cannot Erased』(2015)以降だ。もはやオーパーツ。
そしてこれをやったのがボーカルPaul Draper自身ということも驚きで、この人はソングライティング・歌・歌詞・プロダクションだけでなくエンジニアリングの方面でも相当な才能を持っていたんだなと改めて感嘆してしまう。いずれにしてもオルタナティヴロック好きならマストの歴史的名盤。
Muse 『Showbiz』(1999)
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シンプルなNirvana×Jeff Buckleyフォロワーとしての魅力を、ドラッグの匂いを漂わせることなく生真面目に隙なく仕上げている。特に"Falling Down"や"Unintended"といった歌ものの哀切な表情や、"Uno"や"Sunburn"など激情をサラッとスタイリッシュに聴かせる巧みさは、90年代オルタナティヴロックの歴史においても特筆すべきレベルにあると思う。John Leckieが自らプロデュースを申し出た数少ないレコードの一つでもある。
Radioheadの『Pablo Honey』と同じく、それだけ見れば明らかに抜群の傑作であるのにも関わらず、のちの作品が個性的すぎるせいで過小評価されている。「あのMuseの初々しいデビュー作」「その後の飛躍の予兆がある」などという見方ではなく、これ一枚単独で「オルタナティヴロックの傑作」として捉えると、また違って見えてくる。
Placebo 『Black Market Music』 (2000)
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Placeboとは、ブリティッシュロック・グラムロック・ニューウェーブ・オルタナ・グランジというロック史上重要な各ジャンルの魅力を全て兼ね備えた、意外と他に類似例がいないバンドだった(過去形)と思っている。
本作は歴史的名盤だった前作の浮世離れした美しさを保ちながら、この時代特有の退廃的な禍々しさを存分に取り入れた作風になっている。そのムードの中で、"壊れた家庭の壊れた少年"が依然として壊れたまま、VUやThe DoorsやDavid Bowieの神性に恐れ多くも接近してしまっている様を目撃できる。そのリアルなスリルは00年代以降のロックには数例を除いてほぼ存在しない。
Christopher Owens 『A New Testament 』(2014)
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サウンドはゴスペルやサザン風カントリーだが、あくまで線の細い白人若者らしく繊細かつ薄めに解釈しているのがよい。なにしろグルーヴが無い。ノリも迫力も皆無。代わりにあるのはクラシックな風格を湛える極上のメロディ。5,10,11,12なんて人生の特別な一時期のサウンドトラックに任命できるほどの名曲。
この人はアルバム一枚作る時に全曲名曲で難なく埋めてくるような典型的な天才なので職業ソングライターの道もあったと思うが、何か歯車が噛み合わなかったのか、その才能をポップシーンにおいて発揮できているようには見えない。もったいない。
Jacob Slater 『Pinky, I Love You』(2023)
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“A man on a mission”という言葉がその男——Jacob Slaterを表す合言葉になりつつある。素描集たる本作を聴けば、世に溢れる90’sオルタナ風ロック再ブームの流れに何も考えず乗っかっている有象無象などとは次元の異なる、明確なイメージと使命に基づいたソングライティングとメロディの傑物であることが再確認できる。
メインストリームのトップダウン型ロックとは別世界で鳴り響くストリートのノイズ。”I’m ready to die”という叫びを今ここまで切実感を持って聴かせられるバンドが今Wunderhorse以外にいるだろうか。
Grian Chatten 『Chaos For The Fly』 (2023)
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趣味的作品。私が彼の音楽に惹きつけられ、聴かずにはいられないのは、他でもない彼の声と言葉と目つきから滲み出るこのオーラのせいだ。このオーラに魅せられて、そこから発せられる言葉を聴きたくて、私たちはFontaines D.C.というバンドの作品を回す。そんなロックバンドが今他にいるだろうか?(※Wunderhorseは除く)
蛇足
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今月はAjaとHatsという二大名盤のリマスター盤を購入。Hatsは長らく入手困難が続いていて今年数量限定でリイシューされた貴重なもの(の割にちょっと紙質がショボい)。
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今月のビーチリゾート。先月行ったところほどではないけど楽しめた。世の喧騒から離れた、自分と自然と音楽しかない時間。こういう時間が無いと人は余裕が無くなり、視野が狭くなり、人間らしさを失う。
今年残りはダナン、ホイアン、クアラルンプール、マニラ、そして日本旅行に行く予定。海外在住者には分かってもらえるかもしれないけど、日本に行くのが一番緊張感がある。