2024年ベストアルバム (旧譜)
今年よく聴いていた旧譜8枚を乱文と共にまとめておきたい。一応よく聴いた順にランキング形式。
8位 The Pale Fountains 『...From Across The Kitchen Table』 (1984)
自分という人間は社会にとってどういう存在なのか、他人より「上」なのか、それとも無能なのか、こんなことしたらどう思われるだろうか、そんなことを気にしながら人間は生きている。見ず知らずの他人のどうでもよい感情を優先するあまり、自分の素直な感情を押し殺してしまうこともある。
だから、本作でMick Headがやりたいことを自由にやっているのを目の当たりにすると、目が覚まされる。下手でも堂々とギターソロ弾いていいし、地味な曲でもストリングスで飾り付けてよいし、声がひっくり返ってもシャウトして良いのだ。笑う人がいればそいつを曲の中で笑い返してやろう。人間はみなそれぞれの人生においては一人一人がインディ的な存在だ。このアルバムの姿勢から何かを感じ取る人は結構多いのではと思う。
7位 Black Rebel Motorcycle Club 『Howl』 (2005)
アメリカ中西部の荒野を延々ドライブする夢を何度か見たことがある。映画でもそういうロードムービーを好んで観る。『マイ・プライベート・アイダホ』でリヴァー・フェニックスが眠りこける道路に私も横たわりたい。行ったこともないあの風景が私の心を掴んで離さない。
幸いなことに音であの風景を喚起させるアルバムというものが存在する。中学生の時からTSUTAYAで見かけ気になっていたアルバムだがレンタルするまではいかず、今年になってはじめて聴いた。まさに私の中のあの原風景が繰り広げられている。良し悪しを超えて、これはもう私にとって聴かねばならぬアルバム、出会わなければならなかったアルバムなのだ。
6位 Christopher Owens 『A New Testament』 (2014)
いつでもできることはいつになってもやらないのと同じで、いつの時代にも存在するようなタイプの音楽は、いつの時代にもあまり注目を浴びない。この人もその典型例で、ソロ作の素晴らしさが語られることはほぼ無い。しかし少なくとも私はこの人の音楽を聞いて毎回感動している。1人を感動させられるのであれば、10人を感動させられるだろう。10人を感動させられるのであれば、100人を感動させられることもできるはずだ。足りないのは機会だけなので、私が少しでも機会になればと思ってしつこく書いている。
5位 Belle And Sebastian 『Dear Catastrophe Waitress』(2003)
私がポップアルバムに求めるのは、聴く前と聴いた後で少しだけ世界の見え方を変えてくれることだ。どれだけ鬱々とした心を抱えていても、寄り添って少しだけ励ましてくれるなら、そのアルバムは本当に良いアルバムだ。そしてそれを歌詞ではなく、音やメロディでやってもらいたい。歌詞は対象や効果が限定的だが、音やメロディには限界が無いから。さらに、これ見よがしな泣きメロやドラマティックな音ではなく、そのアーティストの生活や理念と地続きの等身大の音でやってもらいたい。そんな私のわがままを全て満たすのが、本作。このオーダーメイド感は、まだ他で感じたことは無い。
4位 Alcest 『Shelter』 (2014)
シューゲイザーが我々を魅了してやまないのは、普段の忙しい生活の中で私たちがあえて表に出そうともしない「ノスタルジー」という感情を、この罪深い音楽はいとも簡単に呼び起こしてしまうからだ。シューゲイザーを聴けば、現実世界から離れて、失われつつある人生最初の記憶、たとえば父母の背中に揺られていた記憶、2歳で初めて見た海の輝き、暗闇の恐怖、そして更にそれ以前の本当に存在していたのかも分からないセピア色の記憶の海に漂うことになる。
他の人がどうかは知らないが、私はその言葉では言い表せないノスタルジックな感覚を得るためにシューゲイザーを聴く。その感覚をどれだけ強く与えてくれるかが、私のシューゲイザーに対する唯一の評価軸。そして本作がその最高峰。
3位 Rachel Goswell 『Waves Are Universal』 (2004)
シンプルなアコースティックソング集。別に特筆すべき音や歌詞や背景があるわけではないし、特別名曲がそろっているわけでもないが、個人的に落ち着いた曲を求めていた時期だったので、こればっかり聴いていた。本作ではタイの田舎のフィールドノイズが使用されているが、同じ土地のビーチで寝そべりながら聴いていたこともあり、親近感が湧くというのも大きい。
2位 Eels 『Electro-Shock Blues』 (1998)
妹の自殺と母の末期癌発覚という考え得る中でも特に悲痛な出来事を、時にシンプルなアコースティックで、時に宅録ジャズ風のヘンテコな音で作り上げた感情の結晶。アルバム前半~中盤の混沌としたとっつきにくい曲群はまるで彼の衝撃と混乱をそのまま表しているように聴こえ、胸が痛い。一方で後半から終盤に並ぶシンプルで美しいアコースティックバラードは、起こったことを受け止めた後の静かな胸の内を表した曲調になっている。特に後者の静謐な美しさは筆舌に尽くしがたく、悲劇的な出来事を美しい芸術作品に昇華させるというアーティストの本分/本懐を見事に成し遂げている。
妹の葬式の後、ガソスタで車の修理を依頼しに来た老人に店員と間違われクラクションを鳴らされたというなんでもない出来事を、悲劇はあっても人生は続いていくということの示唆として捉えたのはなんか分かる気がする。ひどく感覚的でうまく説明できないけど。
1位 Wunderhorse 『Cub』 (2022)
今年の2nd『Midas』がとても素晴らしかったWunderhorseのデビュー作。今年6月に初めて出会ってすぐに他のバンドとの違いを感じ、一気に魅了された。2ndと比べるともっとソングライティング重視でメロディをしっかり聞かせようとする意識が感じられる。加えて、特定の人物に対しての後悔と懺悔、感謝を歌う"Teal"や一人の女性の強い個性に翻弄される様子を詩的に歌う"Purple"など、ほぼすべてが第三者たる"社会"の入る余地のない"自分"と"あなた"だけの関係について歌っており、だからこそ言葉が切実で強い。
かつて「新作タイトルの"Villains"とはトランプのことですか?」とインタビューで問われたJosh Hommeは「あんなクソ野郎のことなんか歌うかよ」と答えた。今年Grian Chattenは「社会問題なんか歌ったら自分たちのイマジネーションが汚れる」とまで発言している。自分の中に歌うべきテーマを既に持っているアーティストは、外にテーマを求める必要が無いのだ。