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Wolf Alice - Blue Weekend (2021)
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9/10
★★★★★★★★★☆
決して作品ごとに劇的な変化を遂げてきたわけではない。自分達の音楽をじっくりと着実に深化させてきた。本作の最大の魅力はその堅実さと本格志向に他ならない。
霧深い森の中に誘うような独特の薄曇り感は、ここでも健在だ。特に本作はいつにもまして、神秘性や叙情性に身を任せているように感じる。
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始まりの三曲からして、酩酊を誘うサイケデリックな質感を全面に出したものになっている。The Beachは1stアルバムのオープニング"Turn To Dust"を思い出させる静かな導入。Delicious Thingsは分厚いコーラスワークとルーム系のリヴァーヴを効かせたギターがLDRやBeach Houseを思い出させる。Lipstick On The Glassも良い。暗雲から巨大な飛行船が顔を出すようなスケールの大きさ。いずれも、優れたセンスとイメージをエネルギーロス無くアウトプットし切った傑作だ。
SmileやPlay The Greates Hitsでは獰猛なリフやシャウトを聴かせるが、彼らの本領はそれよりもむしろHow Can I Make It OK ?やFeeling Myselfに顕著な、曖昧さを厭わない雑食性だろう。サイケデリックなムードの中、シンセポップとブリティッシュロックがマーブル模様の融合を果たす。この2曲、特に自己の解放を恍惚と歌い上げる後者はかなり良い。
一方、The Last Man On Earthは70年代ブリティッシュロックの再現。古臭い曲調だが、幸い本作のムードに合っているし、何より曲自体が名曲だ。ここまで王道の曲を、趣味やネタとしてではなくしっかり王道として響かせることが出来るのは、才能と気概の為せる業に他ならない。
アルバムは、Ellieの敬愛するKings Of Leonの一番良かった頃(4th)のようなNo Hard Feelingsと、シューゲイザーの軋みが雨上がりの大空に吸い込まれていくThe Beach II(名曲)で胸のすくようなラストを迎える。
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シングルカット出来るのは実際にシングルになった4,9くらいであり、これまで以上に地味な作風に仕上がっている。だがポップアピールの欠如を恐れることなく奥深き森にズンズン分け入るその本格志向は、本当に頼もしい。ライブ第一主義ハードロック野郎になることを危惧していたが、全くの杞憂だった。UKロックの頂点に君臨したことを示す最高傑作。