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Bill Ryder-Jones 『Iechyd Da』(2024)
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6/10
★★★★★★☆☆☆☆
Pavement的というよりはGorkey’s的なスラッカーロックの捻りの中で寂しい歌心を見せていた『West Kirby County Primary』(2015)。クリーントーンギターとディストーションギターのダイナミックな交差に荘厳なチェロを織り交ぜたスロウコア路線の名作『Yawn』(2018)。前二作ではどちらもインディロック的なサウンドを中心に据え、その中で喪失や暗中模索といったテーマを切実に、真剣に歌っていた。
一方、本作ではシンプルなボーカルメロディをまず中心に据え、それをピアノとストリングスでドラマチックに飾りつける、言ってみれば王道のソングライター志向に進んでいる。ここに来て彼が王道路線に進むとは予想していなかった。
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しかしその肝心のボーカルメロディ自体に、主役を張るほどの力が無いように感じる。端的に言って、これまでの方が良い曲を書いていたと思う。なんでもない曲を、まったりしたテンポでハスキーボイスで囁くように歌い、ピアノとストリングスでそれっぽく仕立てる。それ以上のものが無いように思える。
特にストリングスで壮大に祭り上げられた数曲はかえって曲自体の小ささが浮き彫りになってしまっている。王道の感動コード進行で子供コーラス隊と一緒に歌う"We Don't Need Them"などはまるでハウスメーカーのCMソングか何かのようで、一体どういう顔で聴けば良いのか分からない。"泣き"をこんなに安易に入れてくる人だったっけ。
本作を聴く上で参考になるのはRichard HawleyやElbowなどインディロックからこの手の路線に行った人たちだと思うが、彼らはまず前提として曲が恐ろしく書けるし、サウンドも声も一筋縄ではいかない個性を兼ね備えていた。この人の場合、このアルバムで見つけられる個性は特徴的な掠れた声質くらいだが、それもこの歌い上げるドラマチックな路線にはどうにもあっていないように思えてならない。
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前二作がともに★10を余裕で付けれるくらい好きな私としてはやや期待外れに終わった感じがある。野心作としてこういう作品を作ることにはキャリアの幅を広げるという点で意味があると思うが、これ一枚と向き合った時に、心揺さぶられるものがなかったというのが正直な感想。
"If Tomorrow Starts Without Me"が一番良い曲。