Paul Draper 『Cult Leader Tactics』 (2022)
6/10
★★★★★★☆☆☆☆
音楽業界への不信感を露わにし引退宣言しながら、その3ヶ月後に何事も無かったかのように本作のリリースを発表するという情緒不安定ぶりを見せたPaul Draper。本作のテーマはずばり、業界の重役や政治家などの「自分を搾取する狡猾な人間」への嫌悪である。どうやったらそのような人間になれるかをパロディとして書き下ろした自筆の自己啓発本が元になっている。実際に歌詞を見てもBoris JohnsonやDonald Trumpはじめ各種著名人がコッテリと皮肉られており、その強烈さに鼻が曲がる。
一方サウンドはというと、意外にも前作『Spooky Action』(2017)と比べるとスッキリ聴きやすく仕上がっている。Steven Wilsonの『The Future Bites』(2021)に共通する若干アート/プログレ寄りのオルタナティブロックで、アコギ/シンセを基調に、ヘヴィなギターリフや打ち込み、ストリングス、コーラスなども織り交ぜた多彩なアレンジを楽しめる。
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しかし、一曲一曲を細かく見ると実はそこまで優れたアイデアやメロディに溢れているわけでは無く、どちらかというと彼のこれまでの手癖を感じさせるものが多いことに気づく。気になる引っ掛かりや違和感が無い。上手いことまとまってるな、という感想しか出てこないのである。Mansun『Six』であれだけの迷宮を作り上げた男だ。Steven Wilsonとまでは行かずとも、より大胆に自分のサウンドを破る度胸と姿勢を見たかったというのが本音だ。
全英22位にランクインしていることを鑑みても、彼の根強いファン層はいまだ健在。次回作ではもっと感性のままに暴れた変なアルバムを作ってほしい。大失敗作でも良い。『Six』もリリース当初は拒絶反応ばかりだった。
Steven Wilsonとの共作"Omegaman"が一番良い曲。共通のアイドルであるTears For Fearsへの愛を存分に振りまく。
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