最近聴いているアルバム2024.05
今月はオルタナ気分。来月も多分オルタナ気分。
The Jesus Lizard 『Goat』(1991)
Steve Albiniの音と聴いて自分が一番に思い出すのは『Surfer Rosa』でもなく『In Utero』でもなく、本作のスネアの鮮烈な響きだ。特に1曲目。何回聴いても脳天を衝かれる感覚がある。天井や壁にマイクを設置して部屋の中で反響する音も録ろうとした結果こういう音になったらしい。ギターも、ジャズギターやクラシックギターをやってきた人間によるものだけあって他のハードコアバンドのそれとは明らかに異質。
頭3曲を聴くだけでこのバンドがいかに異質か、そして”コア”中の”コア”だということがよく分かるだろう。PixiesやNirvanaがメインストリームへのオルタナティヴだとしたら、このバンドは更にそれらのバンドに対するオルタナティヴだ。
Alice In Chains 『Jar Of Flies』(1994)
本人達曰くちょっとスタジオに入ってアコースティックっぽいのを気晴らしに作ってみた、という立ち位置のEPだが、いやいやグランジの本質とも言える陰鬱さが、アコースティックにしたことで却って分かりやすい形で漏れ出してきてしまっているではないか。笑っちゃうくらい堅牢なバンドサウンド、彼ら特有のウェルメイドなソングライティングとコーラス、そしてとんでもない声。普通の人間がどれだけディストーションギター鳴らしたところで永遠に辿り着けないオーラ(注:2017年のBrand Newは辿り着いてた)。
Hum 『You’d Prefer An Astronaut』(1995)
最高のオルタナ。エモでもハードコアでもヘヴィゲイザーでもある。焦燥感だけが先走る、お世辞にも上手いとはいえないノイジーな演奏。挑戦心が垣間見える試行錯誤の数々。そこから滲み出るのはアメリカの田舎に燻る若者の鬱屈、真っ直ぐな瞳。ここからBiffy ClyroにもCave InにもBrand NewにもNothingにもTitle FightにもHeavenwardにも繋がっていく、根源的な作品。ジャンルを超えてDeftonesやDeafheavenのメンバーに多大な影響を与えたアルバムでもある。
R.E.M. 『Up』(1998)
誰が見ても過渡期なので代表作に挙げられることは無いが、ホワホワした独特の緩さで包まれている感覚(死?)と、でも同時に現実を見据え力強く踏ん張っている感じがかなり好み。その感覚は『Automatic For The People』以来のものだ。曲は地味だが、シングル以外も“Sad Professor”, “Walk Unafraid”, “Diminished”など名曲が揃っているし、“Why Not Smile”なんかはこのバンドの最高傑作曲の一つだと思っている。”Airportman”の歌詞は自分のことみたいに共感した。
世間の評価はかなり低い。でも評価やシーンでの立ち位置を気にしているうちはアルバムを聴いているのではなくアルバムの情報を聴いているのと同じで、自分個人の中でどう響くかをもっと感じながら聴くべき、ということを強く学ばせてもらったアルバム。14曲65分とちょっと長いので私独自の10曲45分版を記念に貼っておく。
Sparklehorse 『Good Morning Spider』(1998)
前作の1stと基本は同じだが、前作の方が曲自体のメロディライン、わかりやすさという点では遥かに上。こっちは一曲一曲の力で聴かせると言うよりも、張り詰める緊張感と沈み込んでいく雰囲気を聴かせるアルバム。埃の舞う薄暗い部屋で死を考えながら演奏された音楽。それでいて牧歌的ですらあるのが逆にリアル。いずれにしてもMarkが敬愛していたNick DrakeやTom Waitsの諸作に比肩する名盤だし、”Pig”と”Sick Of Goodbyes”はオルタナティヴロックを代表する名曲。両曲とも歌詞が切なすぎるよ…
Eels 『Electro-shock Blues』(1998)
私の中でSparklehorseとツインタワーのように聳えるのがEels。同じような作風だけど、こっちの方がサンプリングやリズムに90年代の遊び心・匂いを感じるし、そういう曲の中にたんぽぽのように咲くアコースティックな曲⑤⑫⑬⑮のクラシックな美しさと言ったら…! 制作背景を知ってから聴くと歌詞もタイトルもより切なく悲しく胸に迫ってくる。アルバムジャケットも最高。
本作とSparklehorseの1stは、私の中で最も好きなアルバムの座を常に争っている。ちなみにこれらを超える数少ない作品の一つがHappynessのデビュー作『Weird Little Birthday』(2014)だ。あのアルバムはすごい。人生で1位かもしれない。
Blackfield 『Blackfield』(2004)
Steven WilsonとAviv Geffinによるプロジェクトの1stアルバム。2004年といえばStevenのメインバンドであるPorcupine Treeが両傑作『In Absentia』と『Deadwing』の間にいた時期で、つまりヘヴィ志向が強かった時期。その時期にひっそり始まったのが本プロジェクトで、Stevenの持つ別の顔=薄暗さ&シンプルポップロック要素の捌け口としての役割がある。タイトル曲はその路線が簡潔にまとめられた、Stevenのキャリアにおいて重要な曲。セピア色の10曲37分。
Pure Reason Revolution 『Above Cirrus』(2022)
ポストプログレだがSteven Wilsonのような陰鬱さは無く、機能的かつ即効性のあるリフでゴリゴリ押す。ただし破壊や逸脱というワードからは程遠く、完成度や洗練を優先するのはいかにも2020年代。Porcupine TreeやThe Pineapple Thief的なバンドが好きな人はもちろん、MuseやBring Me The Horizonが好きな人にぜひ聴いてもらいたい。前者と後者のバンド群って親和性あるのにファン層はあんまり重なっていない気がする。
余談
Apple Musicの選ぶ史上最高のアルバム100枚が公開された。私は上位30枚で言えば心から好きと言えるのは6, 17, 25, 28位くらいだし、もっと言えばこの100枚のどれよりも去年リリースされた世界で数十人しか知らないLeave Yourself Aloneのアルバムの方が断然好きだ。ということで私史上最高のアルバム100枚を作成したので今度投稿しようと思う。
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