Fontaines D.C. 『Romance』 (2024)
6/10
★★★★★★☆☆☆☆
有無を言わさぬ最高傑作を作ってくるものと期待していたら、どちらかと言うと新たなフェーズに踏み出した未完成の第一歩という印象を受けた。
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「本作の出発点として大きな礎」と語るThe Smashing PumpkinsやLana Del Reyに通ずる、暗く儚く消えていきそうなムードを持つ4,5,7,8,9のような曲調がメインだ。それを基調に、パニック発作がテーマのラフなヒップホップ2、耳をつんざくギターノイズが暴れる3,10、そして清冽なネオアコの11などが並ぶ。
率直に言えば「よく出来たインディロック」の域を越える驚くようなサウンドだとは思わない。このくらいの音を作るインディバンドは多く存在する。だが、The Cure “Just Like Heaven”の歌詞を書き写す少年期を過ごし自作詩集の自費出版までしたGrian Chatten率いるこのバンドがこの方向性に進むのはいかにも必然性・正統性があるし、このカリスマ性を持つこのバンドがやるからこそ、他に無い物語性が生まれる。それを見た次世代が彼らの後に続く。それは理屈ではない。
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そこで歌われる内容も良い。精神的な繋がりが失われていく現代社会を一種のディストピアと見立て、それに対峙する別世界、つまりロマンスとファンタジーの世界(≒自我の内面世界)を表現したとあらゆるインタビューで語っている。崩壊していく世界の中で紡がれる愛だとか、感性の麻痺した世界で鳴り響くノイズだとか、そういったイメージが基になっている。
「ロマンスの世界に現実の話(社会問題など)なんて入れたくない。それでロマンスの世界が汚されるのを見たくない。」「"これは今までで最もパーソナルなアルバムです" みたいなアルバムも好きじゃない。」とまで語っている。社会問題に対する退屈な意思表明ばかり溢れる20年代のメインストリームポップの真逆をいくのも実に信頼できる。
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一方で、飛躍的に大きくなっていくバンドのスケールと世界観に対して、肝心の曲が追いついていない感じを受ける。平たく言えば作曲が弱い。”Favourite”は明らかな名曲だが、それ以外、特に5,6,7,8,9は曲自体の魅力に欠ける。
また、各曲の持つ多様な感情をこの無表情かつ一本調子なボーカルでは表現しきれてないようにも感じる。特に5,6,7など。ギタリストConor Curleyの薄い声質のコーラスがそれを補う働きを見せてはいるが、Grian自身のボーカルも今後もう少し表現力が身についたら良いなと思う。
いずれも、モノクロのポストパンク時代ならそれでも良かったが、そこから離れ大きなステージに自ら進もうとしている中ではどうしても気になってしまうポイントだ。このバンドの最大の課題だと感じた。
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このバンドの最高傑作は本作ではなく、本作の欠点を改善した次作以降になると思う。このオーラを前にして目が眩んでしまうのもよく分かるが、未完成のバンドに対してリスナー側が結論を焦る必要は全く無い。