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Touché Amoré 『Spiral In A Straight Line』(2024)

7/10
★★★★★★★☆☆☆


4th『Stage Four』(2016)以降、このバンドは音圧やパワーよりも切れ味とエモさで勝負する路線に移ってきたように思う。ディストーションの代わりにひしゃげたコーラスをかけてパワーコードを掻き鳴らしたり、刻みリフの代わりにリヴァーブを効かせた単音のフレーズを入れたり、はたまたエフェクターをオフにした弱々しいアルペジオを入れたり、感傷的なメロディに浸ったり。ミックスバランスも中高音を強調する方向に変わってきていて、初期の作品を再聴するとギターの録り方が別バンドのようだ。

それらの要素は彼らに貼られた"ポストハードコア"のラベルを剥がすほどではないとはいえ、それこそオリジナルエモ(Mineral方面)をそのまま受け継いだ繊細でヒリヒリした感覚を彼らの音楽に纏わせてきた。歌詞も自己主張より自己嫌悪、断言より逡巡が多く、そこにもエモの遺伝子を感じていた。

本作もその切れ味とエモさを更に突き詰めた、このバンドのやってきたことの完成系と言っていいアルバムになっている。

ギターの演奏の幅・音色の幅が更に広がっている。"Hal Ashby"や"This Routine"ではリヴァーヴとコーラスをかけた明るい音色のオブリガートが陽性のヴァイブを曲に加えている。そうかと思えば次の"Force Of Habit"ではフランジャーをかけたマイナー調のアルペジオが陰鬱なムードを生み出している。このように、曲ごとの陰陽をギターの音色の違いで明確に塗り分けようとする傾向が過去作より強まっている。

そして、やっぱり曲が良い。ザラついたボーカルで吐き捨てるように歌われるフックがどの曲も強力。"Mezzanine"の後半や"Hal Ashby"サビ終わりの半音クリシェ進行のようにエモーショナルなコード進行も迷わず使っている。

Rise Againstの前座をやった時に「あんな大きなバンドの前座をやるなんて魂を売ったな」と腐すハードコア界隈のバンドやファンもいたようだが、このバンドはそう言われる意味が理解できなかったという。そんな彼らの姿勢は、分かりやすくあることを恐れていない本作の曲を聴いていればよく分かる。

ゲストとプロデューサーのサポートも欠かせないピース。"Subversion"でSebadohのLou Barlowを、"Goodbye For Now"でJulien Bakerをゲストボーカルに迎え、大サビで盛大にハモっている。Louはメンバーが大ファンだったので依頼したら快諾してもらったそうで、Sebadohの代表曲"Brand New Love"の一節を歌っている。Julienは逆にこれが三作連続のコラボとなる。

プロデューサーは過去作も担当したRoss Robinson。彼はとても細かく、"Disaster"に「全てが壊滅的だ」という歌詞があるが、いつどこで何がどのように壊滅的なのか細かくメンバーに問い質したという。メンバーは彼を信頼しているからこそ、数え切れない再録音の要求に黙って従ったそうだ。

「自分たちはさまざまな影響を受け、さまざまな音楽を聴いているが、全員が同じ部屋に入り音を立て始めると、美しいことが起こる。それが私たちの音だ。すべての要素が揃うと、曲のスタイルは関係なく、Touchéの曲に聞こえる。その結束力は依然として存在する。」というコメントを残している。つくづく理想的なバンドだなと思う。



本作をインスパイアした曲をまとめたプレイリスト。


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