Mansur Brown - Heiwa (2021)
総評: 6/10
背景に敷き詰められたアンビエンス、蛍のように虚空を舞うギター、ファンク調のベース、トラップを基調としたビート、そしてたまに斬り込むラスティなギターソロ。基本的な構成要素は前作同様だ。
本作では、精神世界の奥へ潜り込むような観念的な方向へさらに進化を遂げている。リヴァーヴの使用量が格段に増え、スペイシーなシンセがSci-fi近未来感を曲に与える。音数で圧倒するのではなく、アンビエンスの海に一音一音が溶け込んでいくような音作りがされている。昨今の過激なヒップホップやアンビエントに慣れたリスナーの耳が本作に強い興奮や驚きを感じるとは思わないが、音の完成度は高い。
逆に、ファンクなベースと、そして何と言っても彼のシグネチャーであるラスティなギターソロの出番が明らかに減った。アルバム全体で5回くらいしかないのでは。間違いなく賛否両論を呼び起こすだろうが、彼くらいのプレイヤーになると最早テクニカルなプレイをこれ見よがしにひけらかすことには魅力を感じないのかもしれない。
彼のあのギターを楽しむというより、スピリチュアルなトータルアート性を楽しむための作品だろう。色々な見方があるだろうが、今後大輪の花を咲かせるための習作として捉えるのが適切だと思う。
前作の音を期待するなら、"Flight"がそれだ。逆に"Heiwa"では浮世離れしたユートピアを描く。