歳出超過から収支均衡を実現・長久洋樹さんに聞く「庁内合意の図り方」-財オタインタビュー②
税収は伸びないのに歳出は増える一方…。
このような厳しい財政運営を打開するため財政健全化を訴えても、原課や上層部との合意形成がうまくいかず、悩んでいる財政課職員の方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、平成29年度に財政健全化緊急プログラムを策定し、全庁的な合意形成に奔走されたご経験を持つ高岡市の長久洋樹(ながひさ・ひろたか)さんに、前例にとらわれない財政運営や合意形成のポイントについてお伺いしました。
―「財政健全化緊急プログラム」はどのような経緯で策定されたのでしょうか?
平成29年度に財政課長に着任した後、前年度(平成28年度)の決算作業のプロセスにおいて、今後の予算・決算の見通しを立てていたのですが、これからは今までとは違ったトレンドが来ることを感じ
「財政状況について再点検しなければいけないのでは?」
という危機感を抱きました。
しかし、今後の見通しとなると、どうしても今年度(平成29年度)の普通交付税の状況や税収の見通しなど、年度中の歳入トレンドを追いかけて、私たちの見立てに間違いがないか確認するのに時間を要しました。
一方で、内容が固まりきる前ではありましたが、スピードを重視し、予算編成方針を出す10月のタイミングで「緊急プログラム」を作り、改善レベルはともかく財政の見直しをしっかりとやりましょうという意思表明をしました。
財政状況や今後の見通しを丁寧に分析し、緊急プログラムの策定準備を進めていましたが、当市のお金が足りないという話が12月定例会前に突然、新聞に掲載されることとなりました。
そのため、12月定例会では、緊急プログラムの概要版を提示し、財政健全化に向けた計画期間や取り組みに向けた大まかな方策についてお話ししました。
ただ、財政健全化には、緊急プログラムに掲げる方策を計画通り進めることが必要でしたので、新年度予算編成作業で盛り込んだ具体的な改善案を踏まえたうえで、最終的には、平成30年度の新年度予算案とともに緊急プログラムを提示し、これに基づいてしっかりと5年で見直しをしていくというのが当時の打ち出し方でした。
―財政健全化緊急プログラムは、長久さんが「このままでは財政が危ない」と感じたところから始まったということですよね。
私だけでなく、財政課の職員と意識を共有しました。
私が
「このままだと将来、本市の財政が危なくなるかもしれない」
と危惧した情報を部長にお伝えしました。
今から思えば、もう少しおとなしいやり方もあったとは思いますが、当時は「緊急プログラムを策定し、市民に公表、お願いする」以外の手法は思いつきませんでした。
当時、新たな大型公共施設が建設予定であり入札中でしたが、物価高騰などの関係で不落になりました。
これまでであれば、見積内容を見直し議会に諮り再入札、といった流れになるところでしたが、財政上の課題はもとより、そもそも大型公共事業であったため増額の規模感次第では市民からの理解が得られるのか、という課題もあったことから、様々な視点から再入札を出すかどうかの判断も求められていましたので。
―財政健全化緊急プログラムについて、市長からはどのように理解を得たのでしょうか?
市長には大きい判断をしてもらうことになるので
「とにかく、お金がありません!!」
という、オオカミ少年的な理由で政治判断を仰ぐわけにはいきません。
「これまでの実績と現状を踏まえると、あくまでも推計値ではあるが、一般財源ベースで単年あたり最大40億円規模の歳出超過が生まれる」
といった具体的な数字と論拠を積み上げ、判断を仰ぎました。
エビデンスがなかったら市長も腹をくくれないので、私たちがエビデンスを準備して説明し、理解をいただいたということです。
―他部署の方々にはどのように周知していたのですか?
全庁の幹部の会議がありますので、そこで市長への説明と同じような資料を使って説明しました。
「せっかく新しいことを始めたのに後になって急に財源不足で廃止」といった事態を避けるには、申し訳ないけれどここは一回ブレーキをかける必要がある、これからの時代に応じた市民ニーズをしっかり拾っていくためには、少なくとも現状のお金の使い方では限界があるので全庁あげて、無駄遣いだけでなく過大な予算措置や事業の優先順位の整理など、予算要求のあり方について再考してもらわないといけない、と。
当時の部長級は同期の方々が多く、日ごろから人間関係も良好でしたので、市としての全体最適に必要なことを判断することには長けており、どのような話でも皆さんしっかりと話を聞き、適切な議論をしていただけました。
また、当時の副市長が県庁のOBで人事や財政の経験がある方だったので、財政のテクニカルな内容も含めてしっかりと理解・対応してくれました。
その意味で、私や総務部長だけが頑張っていたのではなく、トップレベルで財政のテクニカルな内容も含めて理解してくれていたことや横の連携がうまくいっていたことも大きかったと思います。
―元足立区財政課長の定野さんが、大きな物事を動かすためには、「形式」「大きく」「賛同者」の三要素が必要といったお話をされているのですが、長久さんのお話を聞いて、改めてそのことが大事だなと思いました。
例えば「補助金2割カット」といった策を打ち出したとしても、一般財源に占める割合は意外と少なく、一方で、多くの市民を巻き込んでしまいます。
なので、効率良くお金を削ることを考えると、例えば、内部系のシステムをクラウドで改修するなど、基本は、庁内執務経費や施設管理費など、サービスの質はほぼ変わらず、市民への影響が少ない見直しが良いと思います。
ただ、補助金のカットには別の効果もあったと思います。
というのも
「市民に何かいわれたときはめんどくさいので市が援助する仕組みを簡単につくってしまおう」
という職員の雰囲気を止められたのではないかと感じたからです。
これは市民に対しても同様です。
補助金という制度は必要だけれど、当該補助事業自体が未来永劫必要とは限りません。
あくまでも行政上の課題があり、その解決に向け間接的な支援が最も効果的、効率的と判断された際の手段が補助金制度です。
例えば、根拠法令が廃止されたり、同じ政策分野で新たな法令が整備されたりした際、これまであった関係補助金をそのまま続けることはナンセンスですよね。
それは市単独の補助金でも同様なので、そこで補助金を流動化するようなガイドラインを作り「原則3年間で終了、再点検して必要なら継続」という制度に改めました。
補助金が「時代のニーズに合わせた行政サービスを効率よく提供できる手段」となるような制度にし、時代にマッチしない既得権は認めない方向にもって行けたのはプラスだったと思います。
―現場の担当職員に財政健全化緊急プログラムの実行意識を持ってもらうために工夫されたことはありますか?
私からは
「必要なものでも結局お金がなかったら何もできない。これまでも行政サービスは時代に応じて変わってきた。だから、従来通りのやり方にこだわる必要はない」
といった話をしました。
これを理解してくれた原課の課長は、スクラップ&ビルドの思想でいろんな仕組みを作ってくれました。
我慢するところは徹底的に我慢していただきましたが、その代わり、災害時のみならず緊急対応が必要な事案が生じた際、課題解決にかかる直接経費のみならず職員の労働時間やストレスの問題をお金で解決できるならそこにお金を使えるように、とか、コスト減の仕組みを作るまでに必要な増嵩経費は認めて業務改善の芽を育てようとするなど、従来よりも柔軟な予算編成・執行に心がけました。
節約するメリットをしっかりと皆で共有する成功体験を持ってもらうことで、上層部~現場職員まで意識が浸透していったと思います。
―「成功体験」という視点は面白いですね。
財政課としても、最低限守らなければならないルールは守ったうえで、制度として認められるものであれば仕事の負担が軽くなるように迅速に対応し、過去のやり方にはこだわらないという方針は徹底しています。
財政課が変わるほうが市職員の労働生産性が向上し市役所のパフォーマンスが向上するのであれば、変わるべきは財政課のほうですから。
例えば、債務負担行為の設定ですが、従来は、主に12月定例会に特定の施設管理業務だけを上程することが通例でしたが、年間1億円くらいの道路修繕費があれば、そのうち2,000万円くらいを前倒しで債務負担行為を設定しておくと、4月、5月に工事が発注でき、年間事業量が平準化できます。
春先は工事量が少ないので落札額が下がる傾向にあり、結果、同じ予算でも修繕できる範囲が広がります。
ほかにも、3月定例会の前は、役所全体としては比較的余裕がある部署が多いと思うので、同様に、通年の施設管理や業務委託に関するものを事前に債務負担行為を設定しておけば、その時に経験のある職員が翌年度分の業務委託等の契約の準備ができ、新年度で新しい担当者がするよりもミスが減ったり作業時間の短縮に繋がったりします。
また、繰越明許の設定でも、従来は3月補正でしか対応していなかったのですが、補正予算の場合、年度内に工期が十分確保できない場合が多いので、補正予算上程時にあわせて繰越明許の設定を行うことで、発注時、十分な工期を条件提示できるようになり、無意味な契約変更業務を減らせるようになりました。
財政課との協議で情報をいろいろと聞かせてもらう機会は多く取っているので、トータルでみれば原課の職員の手間は減っていないかもしれませんが、いろいろな情報をいただくことで庁内全体を俯瞰した業務の優先順位の判断が可能になっています。
予算のやりくりの判断がしやすくなることで、原課に対し「お金がないからダメ」というステレオタイプな言い方ではなく、即断即決もそうですが、そこまでいかなくても他課の対応状況を踏まえて予算化に必要な具体的な条件提示が可能となりました。
そのため
「説明資料作る時間がなければ口頭でもいいから」
と言って、とりあえず話を聞き、いろいろな情報を集めることは意識していました。
―前例にとらわれず、柔軟な制度運営によって業務の効率化もできるということですね。本日はありがとうございました。