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自治体は潰れない?~財政状況を全庁が理解し、収支バランスを意識させるには~

こんにちは!
10月4日に開催したオンライン特別講演会「持続可能な自治体づくり」についてはこちらの記事でご紹介させていただいたところですが、この講演会内や開催後のアンケートにおいて、参加自治体の皆さまからご質問やご相談をたくさんいただきました。

特に、

〇結局のところ、枠はどのように配分すればよいの?
 →基準は?調整不可欠だがその手法は?枠内で政策的経費も要求する?等

〇原課が枠を超えて要求してくるのだが、、、。
 →原課が積極的なスクラップ含め自律的に予算を組み立てるには?枠を超えさせない仕組づくりのコツはある?理事者や管理職と危機感を共有するには?等

といったご質問・ご相談が多かったです。

そこで、2022年度後半は、これらのお寄せいただいた課題感から「原課がビルド&スクラップを積極的におこなうための準備」をテーマに分科会を開催しております。

財オタを交えて、会員の皆さんと一緒に課題感を整理しながら、弊会のエレメント集(業務フロー)や具体事例などと照らし合わせて、よりよい財政のために「研究」していく分科会としていきたいと思います。

今回は10月31日に開催した第1回分科会「原課がビルド&スクラップを積極的に行うための準備~財政状況を全庁が理解し、収支バランスを意識させるには」の内容を一部ご紹介いたします。

本記事のPoint

・自治体は潰れない?
 →本当の破産はしないが経済難による組織運営の悪化はある。それは自治体が魅力的ではなくなるという意味で致命的なのでは。
 
・自治体は財政が厳しい?
 →本当に悪化する前に兆候を察知すべき。
 
・財政状況を理解している/していないのは庁内のどの層?
 →首長はうすうす分かっているが認めたくない。部長以下は丁寧な説明が必須。
 
・どこから財政難を理解してもらうべき?
 →部長級への説明が最初。それから課長係長へ。
 
・どうやって周知するべき?(皆さんからのアイデア)
 →説明会を折に触れ開催する
 →歳入捻出の泥臭さを見せる
 →マスメディアなどをうまく使う
 →議員の巻き込み

Speaker

財オタ/高岡市・長久 洋樹、元足立区教育長・定野 司
事務局/徳原 七海
※敬称略

自治体は潰れない?

当日は、今回の分科会のテーマ「原課がビルド&スクラップを積極的に行うための準備~財政状況を全庁が理解し、収支バランスを意識させるには」に関する事前質問の研究からスタートしました。

****

徳原
「質問ではなく愚痴なんですが…」ということでお送りいただいた事前質問です。

これまではビルドもスクラップもできなかったんだけど最近はビルドはできるようになってきました。
でも、やっぱりスクラップは全然できてません。
ビルドばかりじゃ財源不足になるよ、とかなり強い言葉で
「自分の給料削ってもやるんですか?」
と言ってもなかなか響かない。
危機感がない。
しかも、とどめに首長でどっちもやりたい、と。
「こっちだけ我慢してやって」
と言っても
「どっちもやりたい」
仕方なく財政主導で薄く、薄くカンナ削りにしていって、ぶつ切りにして、数千万をなんとか捻出しても、首長から
「いやそれは継続だから」
ということでひっくり返る。
ということが、よくあります。
どこも似たり寄ったりだと思うんだけれども、職員も首長も「削減をする」「スクラップをする」というところに、なかなか思考を巡らせることができません。
それでも「もう十分だろ」というものを細々とカットするんだけれども、そこで捻出できる金額ではどうにもならない規模の新規事業がどんどん立ち上がります。
財政破綻に向かってるって毎年言ってるんだけどなぜか自治体は潰れません。
何で潰れないんですかね?

ということで、愚痴を頂きました。
定野さんとは以前「自治体は財政破綻をしても潰れることはない」といった話を、させていただいたことがありましたね。

定野
そうですね。
皆さんご存知のとおり、夕張市も潰れてはいません。
人や職員はどんどん市外に出ちゃってますけど潰れてるわけではないですよね。
ただ、市民も職員も夕張にいなくなっているというのは間違いない。
最近は鉄道もバスになっちゃったりとか、色んな事をやっているし、夕張はリゾート地ですけど売却されたんじゃないかなと思うんですよね。
結局、外国の資本が買ったりとか、そういうこともされてる。
「それでいいのか?」
といういろんな疑問が夕張についてはありますが、いずれにしても地方交付税で支えられてるから簡単には潰れない。
潰さない。
ということだと思います。

翻って、多くの自治体がどうなっているかというと、足立区でも小学生までだった子ども医療費の無料化が
「中学生はやれないのか」
「高校生はやれないのか」
と、そのうち、みんな医療が無料化になっちゃうんじゃないかと心配してますけど、そういうことが始まっている。
あるいは最近、給食費を無料化にしている自治体が現れてきて
「それはどうなんだ?」
ということも議論されている。
でも、当然ですけど、財源は限られているので、これら全てをやっていたら、潰れはしないけど、やりたいことはできなくなってくるのは間違いないです。

今、まさに渡れない橋がいくつもあるという自治体も実際に出てきています。
耐震化されていない庁舎や学校が問題になっていますが、どこかで歪みが出てきているのは間違いない。
潰れないけど歪んでる。
ということだと思います。

それから「『財政難である』という認識をいかに浸透させるか?」については「財政難ということを首長が認識する」ということだと思います。
首長に認識させるために我々、財政部門がどうやって材料を突きつけるのかというところがポイントだと思います。
「そうだよね」
「わかってるよ」
と言いながら
「だけど、やってよ」
と、首長にひっくり返されたことは、財政課長時代に私も何度も経験しているので、そういったところを丁寧に浸透させるということ。

もう一つ、「議会をどうやって巻き込むか」ということも重要だろうと思います。

徳原
潰れないというのは
「漫然と運営しているだけで楽しいの?」
というところですね。
やりたいことができなくなって、全然面白くない組織になっていってしまう
というところを、少しずつ(首長、庁内職員、議員市民など)皆さんに分かっていただけるようにしていきたい。
それから「分かってもらう相手はまずは首長」ということでコメントいただきました。
長久さんは、財政難であるということを原課に認識してもらうために様々な手法をとられてきたと思うんですけれども、この辺りいかがでしょうか?

長久
私が財政課長になったのは平成29年4月ですが、当時、決算作業などを行っている中で
「あれ?なんかやばいんじゃない?」
という話が事務レベルで出てきました。
そこで、前年度決算だけでなく、現年度の月次の収支を追いかけてみたところ、歳出は見えているんだけど、歳入が今までの感覚とちょっと変わってきている、と感じました。
もしかしたら、過去からこういう傾向があったのかもしれませんが、この感じがずっと積み重なってきていて、私が財政課長の時に見えやすくなったのかな、という感じがします。

ですが、このような財政状況を原課に実感してもらうのは難しい。
これまでも、結局は何とかなってきてしまっているので。
なので、この危機感を庁内のみならず市民にご理解いただくためには、外に
「大変なんです」
と発信し、情報をオープンにしていくことが大切だと思いました。

徳原
「『まずい』ということは外に言わないとだめだよ」
とのお話がありましたが、外というのは、市民や議員のことですか?

長久
そうです。
私の場合は議員さんへの説明からスタートしました。
まずは、財政健全化緊急プログラム作成前の10月の予算編成方針を出したタイミングで
「緊急プログラムみたいのを作りますよ」
という話をしました。
この時点では詳細が未定だったので
「とりあえずそういうものを作りますよ」
ということだけを言っていたのですが、これが対外的には伝わらなかった部分があったようです。
私どもとしては
「今の財政の状況は、そんなに良い状態ではありません」
と事前メッセージを出してはいたのですが、それを皆さんには聞いてもらえなかった。
なので、実際にプログラムの作成がマスコミから公表された時には「唐突だ」という話になってしまいました。

徳原
なかなか興味深いですね。
行政の皆さんの書かれるものは上品な文章が多いので、事前に情報を出したとしても市民には危機感が伝わりづらくなってしまう。
行政としては喜ばしいことではないけれど、マスメディアなどでインパクトの強い報じられ方をされると「伝わる」という意味では強いかもしれない、ということですね。

定野
首長って自分から
「危ない」
とは言いたがりません。
理由は2つあって
「自分の能力がないんじゃないか」
ということと
「新しい政策が打てなくなっちゃう」
ということ。
だから
「危ないなぁ」
と思っても言わない、というか言えない。
という方が多いんじゃないかな。

長久
そういった意味では、私がプログラムの発表を進言したのは、市長が3期目の選挙に当選した年でした。
このタイミングで財政健全化プログラムを発表するということは、市長にとっては自分のこれまでの評価になってしまうので、とても発表しにくかったと思います。
将来の高岡市を心配して、自分のことよりも「市民の幸せ」ということを選択してくれた当時の首長には感謝しています。

徳原
財政課の中だけということではなく、内部でしっかりと察知するということ。
また、首長や議員を巻き込んで納得してもらうために多少、インパクトがある形でも良いので外に発信していく。
といったコメントをいただきました。

財政状況を全庁が理解し収支バランスを意識させるには


徳原
本日のサブテーマ「財政状況を全庁が理解し収支バランスを意識させるには」に移りたいと思います。
サブテーマについて、事務局の中で出てきたポイントとしては
「そもそも財政状況って厳しいの?」
というところです。
「財政状況が厳しい」
にはグラデーションがあると思うのですが、この辺の色合いの違いが現場には、なかなか分からなくて、いつも厳しいと言ってるみたいに見えてしまっている。
本当に厳しくなってきているというのが、なかなか伝わらない。
という部分があるのかなと思います。
これを解消するには
「財政状況を理解してる層はどこ?」
「理解できてない層はどこ?」
というところを紐解いてく必要があるかと思いますが、定野さん、いかがでしょうか?

定野
経営者層は、ほぼ理解している。
だけど理解したくない。
ということだと思うんです。
首長も含めてですね。

また「全庁が理解するためにはどうすればいいのか」という話ですが、足立区の場合はそれを理解させるために「包括予算制度」による予算の枠配分を行ったわけです。
「財政課が予算作ってくれたからそれを歳出で執行するだけだよ」
となってしまうと、原課の理解は促されないだろうと思います。
包括予算制度によって原課にも厳しさが伝わると思います。

徳原
枠配分によって収支の見せ方の部分にまで配慮した、ということですね。

定野
やり方は他にもあると思いますが、足立区の場合はそうやって理解を求めました。

徳原
「理解が最も難しい層」
「最初に説得すべき層」
という部分はいかがでしょうか、長久さん。

長久
まずは部局長以上がどう理解してくれるか。
というのが大きいかな、と思っています。
部局長の言うことを部下は聞くので、部局長が
「財政課が勝手に言っている」
という認識を持たないことが重要です。
高岡市では部長級以上の会議の中で、財政の状況について、できるだけ数字に基づいた見通しを立てて説明しました。
そして
「中途半端に新しいことをやって急にお金が無くなって止めました」
とならないよう
「自分たちで整理、決断をして、事業の費用対効果を見定め、優先順位をしっかりつける」
というスタートラインを共有しました。

部局長への説明をしっかりと行った後、課長、係長などにも説明をしました。
説明は、原則、財政課長との各種協議の場ですが、予算編成方針・予算執行方針の発表時に所属長を対象にした説明会を別途やっていました。
係長全員にも財政の状況についての説明会をしましたが、後年は、新任係長研修で財政の状況についての説明を必ず入れて
「こうゆう要求では予算は付かない」
「こうゆう要求なら予算を付ける」
ということを徹底して伝えました。

どの課長さんもミッションを持ってると思いますが、私は
「高岡市を財政破綻させない」
というのが市長や市民へのミッションだと理解していて、この信念で事業の良し悪しを判断してきました。

徳原
部局長レベルが1番最初。
その後、課長や係長など立場別ですごく丁寧に細かく何度も説明会をされていたんですね。
お話を伺いながら、
「実際にどういう風に財源捻出をしているのか」という部分が見えてない原課の方って多いんじゃないかな、と感じました。
皆さんが頑張って捻出したものは予算配分される時に一度、一財になっちゃうと見分けがつかなくなってしまう部分なので
「これだけ足りない」
「どうやって削るの?」
というところをライブパフォーマンスで見せるというのは危機感を伝えるという意味では良いパフォーマンスかな。

と考えていました。

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