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「強い財政」ってなに?_自治体総合フェア2023カンファレンス「ウィズコロナ時代の自治体経営~強い財政をつくる人・組織とは~」

こんにちは。
今回は財ラボ初のオフラインイベント「自治体総合フェア2023」で開催したカンファレンス「ウィズコロナ時代の自治体経営~強い財政をつくる人・組織とは~」の内容の一部をご紹介します。

多くの方にご参加いただきました@東京ビッグサイト

当日は、佐倉市財政課長・塩浜克也(しおはま・かつや)さんの基調講演でスタート。塩浜さんには「持続可能な財政運営」や「人づくり、組織づくり」といったテーマでお話しいただきました。

その後、裾野市副市長・及川涼介(おいかわ・りょうすけ)さん、川西市副市長・松木茂弘(まつき・しげひろ)さん、横浜市評価制度推進担当部長・安住秀子(あずみ・ひでこ)さん、公益財団法人日本生産性本部上席研究員で月刊「ガバナンス」の元編集長・千葉茂明(ちば・しげあき)さんにもご登壇いただき「強い財政ってなに?」「強い財政を支える人・組織をつくるには?」といったテーマでパネルディスカッションを行いました。

今回は塩浜さんの基調講演とパネルディスカッションから「強い財政」についてお話いただいた部分を抜粋してご紹介します。

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基調講演「強い財政に必要なこととは?」


Speaker:佐倉市財政課長・塩浜克也さん

強い財政に必要なこととは?

まずは「柔軟性」です。
前例にとらわれないこと。
根拠を確認すれば、可能性が見えてきます。

次に「計画性」です。
計画とは「誰が」「いつまでに」「何を」行うか、ということです。
行政の継続性の拠り所でもあります。
国庫補助金の拠り所になることもあります。
これが負担になると否定的にとらわれる面もありますが、事業のたな卸しという点での意味はある。

計画性について、もう少しお話します。
計画性とは

“具体的な現実の事象を基礎とした正しい現状認識と、利用可能な行財政上の能力とを考慮して、一定の目標年次までに到達可能と考えられる具体的な行政目標とその実現手段(目標プログラム)を示す手法”

山本博史著「行政手法ガイドブック」

と説明できます。
これは、自治体が作る基本構想といったようなものだけを指しているのではありません。

例えば、窓口でお客さんに記載してもらう書類が分かりにくくて苦情が多い、といった場合、
長期的には「次回のシステム更新の際に対応しよう!」
中期的には「来年度の帳票発注の際に対応しよう!」
短期的には「窓口に注意書きを明記しよう!」
といったように、どんなものでも長期・中期・短期で分けてみると対処方法が見えてきます。

「現場主義」も、忘れてはいけません。
私は10年前に財政課に配属となったとき、上司の言うように予算を切って(「切る」という言い方も、あまり好きではないんですが)、現場の方々に「これでやってください」とお願いするのが嫌でした。
このことを『自治体 予算要求の実務』(学陽書房)の著者で、札幌市の職員だった吉田博さんにボヤいたところ
「コンサルティング型の提案は、できるはずだよ」
とおっしゃっていただき、非常に感銘を受けました。

パネルディスカッション「強い財政」ってなに?

モデレーター:裾野市副市長・及川涼介さん
パネラー:川西市副市長・松木茂弘さん
     佐倉市財政課長・塩浜克也さん
     横浜市評価制度推進担当部長・安住秀子さん
     公益財団法人日本生産性本部上席研究員/月刊「ガバナンス」元
     編集長・千葉茂明さん
     
※以下、敬称略

裾野市副市長・及川涼介さん

及川:安住さんの所属されている横浜市では、庁内向けに市の財政情報を伝える動画を作成されていますよね。

安住:はい、そうなんです。財政部局が公表しているデータを基に別の部署が作成したもので、可愛らしい見た目のゆるキャラが明るい口調で、分かりやすく「このままだと横浜市の財政は危ない」ということを伝えていて、職員から人気の動画となっています。

及川:こういった取り組みも「強い財政」に繋がってくるんですね。

安住:この動画の中で長期財政推計の話が出てきますが、これは、3年前に横浜市が作成した2065年度までの45年間の推計のことです。それまでも財政が厳しいということは発信していましたが「どのくらい厳しいの?」という具体的なものは見せられていなかったので、具体的に数値で示したんです。こういった動画で長期財政推計について発信したことで、多くの職員が市の財政状況に危機感を抱くきっかけを生めたと思います。長期財政推計は市民や議員の皆さんからも反応をいただけて、庁内外の多くの人に財政状況を把握してもらえたのは、大きな強みだと思っています。
また、長期財政推計で見えてきた財政危機への処方箋として「財政ビジョン」というものも策定しました。今はこの財政ビジョンに沿って、庁内一丸となって「持続可能な財政運営」と「必要な施策を遂行する」を両立できるよう市政運営を進めています。長期財政推計で財政状況の理解を促し、「財政ビジョン」という指針に沿って職員が同じ方向を向くことができた、という意味で、こういった動画をはじめとする財政状況の発信は「強い財政」に繋がっていると思います。

横浜市評価制度推進担当部長・安住秀子さん

及川:続けて松木副市長にお伺いします。「強い財政」を作っていくためには、先ほどの横浜市の事例のように、工夫をしていく「強い財政担当部署」が必要だと思いますが、こういった財政担当部署に必要な取り組みはありますか?

松木:私は「強い財政」という言葉には少し違和感がありまして、「強い財政」というよりも「強い現場」をつくる必要があり、財政課はそのサポートをしなければならない、と考えています。塩浜さんの講演にも「現場主義を忘れない」という言葉が出てきますが、財政課は現場主義ということを忘れがちになってしまいます。私たちも現場主義ということを20数年やってきていますが、まずは直接住民に接するフロント部分である現場がPDCAを回せる仕組みを作るということが大切だと思います。
川西市では毎月、現場が全ての事業について「事業のプロセスシート」というものを作成し、経営層・幹部職員と共有しながらHPで公開しています。このように見える化することが現場に緊張感を走らせ、良い結果を生むのではないかと思っています。
また、PDCAの「C:チェック」は企画や財政がやるのではなく、現場が自ら行う必要があります。このためには、「市民実感調査」「職員満足度アンケート」「行政窓口の実感調査」の3つを長い期間行うことでエビデンスをしっかりと持つことが大切です。そして、これをサポートするのが企画や財政部門の役割だと思います。

及川:こういった仕組みづくりは現場に浸透させることも大変だと思いますが、工夫されていたことはありますか?

松木:まずは1番頭の固い財政課が変わらないといけないと思います(笑)財政と人事が保守的だと、なかなか動きません。私は20数年、財政部門にいましたが、「自分で自分を変えなければいけない」と強い信念を持ってやってきました。現場を変えるには、現場と財政・企画部門の信頼関係を作って組織が一枚岩になる必要があるので、ここにエネルギーを注ぐべきだと思います。

川西市副市長・松木茂弘さん

及川:塩浜さん、これまでのお話を踏まえていかがでしょうか?
 
塩浜:安住さんのお話にあった「分かりやすい動画」というのは、とても響きました。というのも、「財政」の「政(まつりごと)」の意味には「合理性」だけではなく「納得性」という意味も含まれていて、この納得性をどう積み上げていくかが、財政に求められているのだと思います。
また、松木副市長の「強い現場」という言葉にもグッと響くものがあります。これを、財政や企画部門がどのようにサポートしていくか、という点は、とても参考になりました。

佐倉市財政課長・塩浜克也さん

及川:「財政や人事が変わることで全庁が変わる」というのは、とても前向きになれる言葉だと思います。こういった形で、役所内部で工夫をしているところですが、市民・議会・首長などには伝わりにくいこともあるかと思います。市民や議会の目線から見て、「強い財政」に向けた良い取り組みはありますか?

千葉:私はこれまで約700の自治体、270以上の自治体議会、約470人の首長を取材してきました。これらの取材を通じて「強い財政」を脅かす存在として、経済・景気、災害といった要因のほかに「国」「公選職=首長・議員」があると感じています。
「国」については、最近、とある自治体の広報誌で新年度予算を紹介する記事を読みました。この記事では自治体予算を家計に例えて紹介していたのですが、地方交付税が「親からの小遣い」と書かれていました。
2000年の地方分権一括法で国と地方自治体は「上下・主従」から「対等・協力」な関係になったはずですが、自治体が地方交付税を「親(国)からの小遣い」という捉え方をしているうちは対等・協力といった意識は芽生えてこないのでは、と思います。
また「公選職」について、最近ですと奈良県知事が就任直後に新年度予算の一部の凍結を決めるなど、財政課の皆さんは首長が変わるたびに、その対処に苦慮されているんだろうと思います。
「強い財政」をつくるための取り組みとして岐阜県多治見市の事例を紹介させてください。同市では前々市長の西寺(雅也)さん、前市長の古川(雅典)さんの時代に財政規律の条例(「多治見市健全な財政に関する条例」)を策定し「総合計画にのせていない事業はやらない」と自ら縛りを入れました。議会もこの点を理解しているので、総合計画を作るときには議員も積極的に参加しており、良い仕組みづくりの好例だと思います。

公益財団法人日本生産性本部上席研究員/月刊「ガバナンス」元編集長・千葉茂明さん

及川:おっしゃる通り、トップの方針が変わることで財政の方針が変わることは多々あることかと思います。この点について、松木副市長はどのように対応されていますか?

松木:首長は民意で選ばれているので、首長の意向に沿うことは当然だと思っています。首長の意向によって変わる、というのは自治体職員の強みでもあり、厳しさでもあると思います。ただし、安定した行政運営のために自治体はしっかりとした総合計画や行政計画を持っていますので、首長が変わった場合でも極端な変化は起こらないと思っています。

及川:ありがとうございます。

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最後までお読みいただきありがとうございました。
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