財政状況を理解してもらえない…枠越え要求への対応はどうする?
こんにちは!
今回はこちらの記事でご紹介した分科会の第3弾「原課がビルド&スクラップを積極的に行うための準備~枠越え要求への対応はどうする?~」の内容をご紹介いたします。
※第2弾はこちら
当日は、サブテーマ「枠越え要求への対応はどうする?」に関して会員の皆さんから事前にいただいていた下記の質問について深掘りしていきました。
枠設定が難しい
・そもそも守れるような枠設定ではないとクレームが来る
・越えてくるだろう、と見込んだ枠を設定しているので本末転倒ですが、どうしようもない財政課のへそくりをあてにしている
・財政課が、お金を隠していて、じつは枠を超えてもやりくりできると思われている。
・財政状況を説明しているが分かってもらえない。現場の予算査定スキルが足りていない
・財政経験者を配置しないと枠配分はワークしないのでは。
・収支バランスの考え方(稼ぐ事業の創出など)をすぐに身に着けさせるのは難しい。枠を守らねばならない、という文化がつくれていない
・財政課だけが孤軍奮闘している
・守らないことは恥ずかしい、というよりも、強い気持ちで予算を獲得してくることの方が現場リーダーとしてふさわしいという雰囲気がある救済措置の設け方
・導入時や突発事項などにより、枠内で処理できない場合後からの救済をどうするか
・救済の線引きと説明(見せ方)が難しい。なしくずしになるのでは。制度の仕切り直しが難しい
・導入時の設計で年月が経ってしまい、いまから対応方法を変えるのが難しい。
・制度の整理のためにいっそ一件査定に戻そうかとも思うが、そうすると無責任な要求が増えるのでは…と懸念も。どうすればいいのか…。
本記事では、事前質問のひとつ「財政課のへそくりをあてにしている」についてご紹介いたします。
※その他の質問については、会員限定でご紹介しています。
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本記事のPOINT
枠上限額の算定は「正しい財政状況」から外れないように注意
実績ベースだけで算定せずに、地方交付税算定基礎や単位費用など公式な基準も加味し、「正しい財政状況」から外れない仕組みづくりを。枠に入れるもの・入れないものを他自治体と比較・検討するときは定義を確認
「政策的経費」「義務的経費」など共通のキーワードを使っていても、自治体によってその定義は様々。
また、「投資的経費は枠内だけど、一部枠外もある」といったケースもあるので、他自治体と比較・検討するときは定義の確認を。「現場でなんとかしなくては」の理解を広めるためには部局長から攻める
部局長が「自分たちでなんとかしなければ」と理解できれば、トップダウンで部署全体に理解が広まっていく。
Speaker
財オタ/高岡市・長久 洋樹、元足立区教育長・定野 司
事務局/徳原 七海
※敬称略
議論のポイント整理
枠の上限額算定のスタートは「予算(当初+補正)」or「決算」?
徳原
事前質問を深ぼる前に「自治体によって違うけど共通認識を持っていた方が良いな」と思うポイントが2つあるので、整理させていただきます。
1つ目は、枠の上限額を算定するスタートの金額の根拠をどうしているか?という点です。
足立区や高岡市では何を根拠にスタート額を設定していますか?
定野
足立区は「本当の財政状況」を見るため、スタート時は前年度実績を加味せず、地方交付税の算定基礎(特別区の場合は特別区財政調整交付金)を発射台に科学的に算出していました。
本当の財政状況が見えない状態で単独事業をガンガンやっていくと財政破綻してしまいます。
まずは本当の財政状況を見てから、前年度予算や決算を加味しながら最終的な上限額を設定していきます。
長久
高岡市は、要求のタイミングでは前年度当初予算の中から枠の対象となる経費部分だけを集めて、ここから「〇%カット」という形で設定しています。
以前は単位費用ベースで標準的な予算の必要額を款別くらいの粒度で算出し「これ以外は任意事業なんだよ」ということを認知してもらう作業をやっていたこともあります。
「他の自治体もやっているから普通」ではなく、「今が特別なことをやっているんだよ」と市民に説明できるような考え方を原課に促していました。
枠に何を入れているのか?
徳原
2つ目は「枠に入れるものの定義」についてです。
これまでのヒアリングから、枠に入れるものについての定義が自治体によって様々であることが分かりました。
このため、今回の分科会では下記のような定義で整理させていただきたいと思います。
政策的経費(首長肝入りなど)
投資的経費(Build的事業)※
義務的経費(硬直性の高い経常経費:家賃、公益団体への運営補助など)※
経常経費(柔軟性の高い経常経費、上記以外の単年見直しが可能なもの)
人件費
扶助費
特に※のものは総務省の定義と異なる設定となっていますので、ご注意ください。
この定義に当てはめると、足立区や高岡市では何を枠に入れていますか?
定野
足立区では政策的経費、投資的経費以外を枠に入れていました。
政策的経費は首長が判断する、投資的経費はやる・やらないの判断がしやすく、かつ長期的な視点で見なければならないので基本的には枠外にしていました。
長久
高岡市は大型修繕や投資的経費はサマーレビューで査定をしており、その他の予算とは全く別で査定をしていました。
また、新規事業などの政策的経費、義務的経費の経常経費のうち債務負担を打つもの、人件費、扶助費も枠外です。
財政課のへそくりをあてにしている
徳原
・財政課がお金を隠していて、実は枠を超えてもやりくりできると思われている
・財政状況を説明しているが分かってもらえない
といった相談が届いていますが、長久さん、定野さん、いかがでしょうか?
長久
高岡市の場合は危機的な状況が迫っていたので「なぜこのような状態が生まれたのか」「将来見通しはどうなのか」という点を丁寧に分析しました。
そして、その分析結果を基にトップ、庁議での部局長以上への説明、予算要求説明など様々なタイミングで所属長、係長への説明を行いました。
「どんなにいい事業でもお金がなければ切るしかなくなる。であれば、自分たちで事業の取捨選択をした方がいいよね」という話をし、各部局長一丸となって進めることができたので上手くいったんだと思います
定野
予算は公開の原則があるのでへそくりなんて作れないよね(笑)
「財政課が何とかしてくれる」と思っている人たちにこれを分かってもらうには「財政課が理解させる」のではなく「自ら理解せざるを得ない状況を作る」ような設計にすることがポイントだと思います。
足立区の場合は、各部の予算編成について各部長が首長に説明するようにしました。
こうすると、各部長は「予算編成ができませんでした」とは言えないので、何とか枠内に収めてきます。
もし枠内に収められなければ、その理由を首長に説明しなければならないので、そうならないために必死に収めていました。
すると、必然的に部長が本当の財政状況を理解してくる。
こうして部長が理解できると、課長、係長、職員とトップダウンで理解が広がっていきました。
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