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クレジットの恩恵を受けるのは誰か?

SBTiの「Scope3 Discussion Paper」やVCMIの「Beta Scope3 Claim」など、吸収除去系のクレジットをネットゼロ達成の手段に使うことを許容する動きがあることは皆さんもご承知でしょう。他方、この新しい潮流は、環境NGOやNPOなど非国家アクターから強い反対の声を招いていることも事実。

特にハイテク業界がクレジット使用の最大の恩恵を受けるとする批判も見受けられますし、AI技術の急速な発展に伴う膨大な電力消費を背景に、SBTiやCDPなどの非営利団体がスポンサー企業の意向に影響を受けているとの指摘があることも認識しています。
 
確かに、非営利団体が企業スポンサーの影響を受けることは避けられない現実かもしれません。しかし、「クレジット使用で恩恵を受けるのはハイテク業界をはじめとする排出量の多い企業である」という話を及び聞いたときには、甚だ疑問を抱きました。
 
クレジットの恩恵は誰に渡るのか?
 
自助努力を欠いたクレジット依存はモラルハザードを招くため論外です。しかし、排出削減努力を行った上でクレジットを購入するのであれば、ウェルカムです。ですので、削減オプションが増えるという点で、クレジット購入者は恩恵を受けるでしょう。

ですが、真に恩恵を受けるのはクレジットの供給者(プロジェクトオーナー)です。
 
クレジット販売による収益は、プロジェクトの継続を可能にし、その結果として排出削減が進みます。この供給者の多くは、資金や技術が不足していた中小企業や地域コミュニティ、あるいは個人だと考えます。

つまり、クレジット市場の活性化は、従来削減が困難だった領域での排出削減を後押しし、「地球全体」での削減に寄与するのです。
 
革新的な企業もクレジット供給者になり得る
 
さらに、クレジット供給者は自然保護プロジェクトに限りません。排出削減に寄与する革新的な製品を開発する企業もその一例です。

クレジット販売収益により生産を拡大できれば、将来的にその製品をリーズナブルな価格で提供できるようになります。その結果、一般消費者が排出量の少ない製品を手に取りやすくなり、日常生活での排出削減が進むでしょう。
 
バウンダリーを超えた視点が重要
 
「オフセット」という概念は、企業や国といった境界(バウンダリー)が存在するから生まれる考え方です。もし、視点を「地球全体」に広げれば、削減は誰がどこで行っても意味があると言えます。

Scope3クレジットが自社の排出削減としてカウントされることで、結果的に恩恵を受けるのは、クレジットを購入する企業だけではなく、排出削減に取り組む多様な主体たちなのです。
 
高品質なクレジットが不可欠
 
もちろん、前提となるのは「高品質なクレジット」です。追加性や永続性が不十分なクレジットであれば、いわゆる「グリーンウォッシング」の誹りは免れません。

しかし、環境への実質的な貢献が保証されるクレジットであれば、その購入はBVCM(Beyond Value Chain Mitigation)として十分に意義があります。
 
そうです。「高品質なクレジット」が十分に市場に供給されて初めて「BVCM」となり得るわけです。そうなってこそ、単なる企業の利益ではなく、地球規模の排出削減に大きく寄与する取り組みとなるのですね。

ということで、クレジットエバンジェリストの、「クレジット利用の一方的な批判」に対する反論、擁護になってしまいましたが、お許し下さい。

繰り返しお伝えしているように、「持続可能な社会の実現」という目的に対して、可能性のある選択肢を精査し、適切な形で活用していくことが何よりも重要であることを、ご理解頂けたのでしたら幸いです。

これからも、「合目的的」に考え、行動していきましょう。


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園田隆克@GHG削減サポーター
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