エネルギーのフェイズシフトに備えよう(2)
先日開催された第65回基本政策分科会で、IEAのラウラ・コッツィ持続可能・技術・展望局長が、世界エネルギー見通しについて説明を行いました。
その紹介noteの第2回目です。
第1回目はこちら。
アーカイブもありますので、お時間のある方はどうぞ。
局長の説明、後半は、脱炭素電源の話に移っていきます。
左側のグラフは、2010年から2035年までの世界の電力供給における主な電源の推移。太陽光及び風力は大幅に成長し、主要な電源として台頭。石炭火力とキレイにクロスフェードしていきます。水力や原子力はベース電源といった感じですね。
ただ、再エネ電力の導入を進めるに当たっては、需給をバランスさせたり、電圧・周波数といった電力の質を安定させる施策が重要。電気主任技術者を生業とする私にとっては、こちらの方が最優先課題だったりします。
それを説明するのが、右側のグラフ。「短期的(Short term)」および「季節的(Seasonal)」な電力システムの安定化を担う電源、システムの要素及び割合を示したものです。
「短期」は数時間から1日以内、「季節的」とは文字通り季節ごとに発生する変動に対応するために発動されるものです。
短期では、水力・火力という従来型の電源と蓄電池が均等に担う構成から、蓄電池主・水従へ移行する一方、季節的では、水力・火力という従来型電源が、2050年でも、依然として重要な役割を担うと予想されています。
この予測には私も納得、合意。
同時に局長は、「火力はクリーン水素、アンモニア必要」と述べられていましたが、この点は、専門ではないので、コメントは差し控えます(^^ゞ
とはいえ、環境系イニシアチブが、再エネだけで将来の電力需要はカバーできる、というレポートを出していたりしますが、許容できるコスト及び時間軸を考えると、現実的ではないように思っています。
さてさて、エネ庁主催の分科会に招かれての講演なので、日本に対するリップサービス(?)も盛り込まれていました。
このグラフは、主要国別の2023年における非森林地帯(non-forested land)に設置された太陽光発電(Solar PV)の導入容量と、土地利用強度、つまり、太陽光発電の密度を表しています。
日本は1km²当たりの土地利用強度が最も高く、800 kW/km²を超えています。局長曰く、「日本は限られた土地を効率的に利用して、太陽光発電を積極的に導入していることを示している」とのこと。
他方、中国やUSは広大な土地を持つため、土地の密度が低くても多くの太陽光発電が設置されていることを示しているらしいです。
このグラフからだけでは判断できませんが、韓国も同様の傾向であることを考えると、狭隘な国土において最大限活用しようとすると、このような結果になることは当然かなと。
原子力も、立派な脱炭素電源。それに対する分析がこちら。
2050年までに原子力発電の導入が大幅に増加することを示しており、ネットゼロ(NZE)シナリオに向けて原子力の役割が重要になることを強調しています。
左側のグラフはInstalled capacity(導入容量)、右側のグラフはAverage annual capacity additions(年間平均の導入容量)を年代別に示したものとなっています。
福島の原発事故を受け、様々な議論があったものの、今後、特に中国と新興国・開発途上国における原子力発電の増加が顕著となり、2050年までに、世界の原子力発電容量は現在の2倍以上に増加することが予測されています。
福島の原発事故を受け、様々な議論があったものの、世界の導入容量は、今後、飛躍的な増加を見せ、2050年までに、世界の原子力発電容量は現在の2倍以上に増加することが予測されています。
導入量は、2020年代以降、急激に上昇。来年2025年にピークに達する見込みだとか。新興国や開発途上国と中国が2030年代以降、急速に原子力発電の設置を進めることが予想され、全体の導入容量増加に寄与するようです。
局長によると、ウクライナ侵攻を受け、特に欧州において政策が変更され、安全性担保されたものについては寿命を延長を容認したり、新設する動きが顕在化。小型モジュール炉(SMR)の開発にも注力しているそうです。
なるほど、右側のグラフを見ると中国に決してひけをとっておらず、2040年代に至っては、一強になってますね。この時期にSMRが実用化、普及段階に入るのでしょう。
最後は、2050年までにCO2削減を達成するために必要な技術の割合を、「市場に出ている技術」、「開発中の技術」、および「その他」に分類したグラフ。
言わんとするところは、削減目標を達成するためには、現在開発中の技術の導入と、既に市場にある技術の普及の両方が重要であるという点です。
現在開発中の技術の11%が、市場実装されることで、削減目標達成に近づくとの主張ではありますが、それには、達成に寄与する技術の見極めと、それを後押しする支援策が重要になってきます。
SDGsのスローガン「誰一人取り残さない-No one will be left behind」よろしく、現在そして将来の「地球に住む全ての人」に寄り添った舵取りをしていきたいものです。