サイダー序文|散文
学校での僕は仮の僕だ。本当の僕は学校から帰ってきて、鉄でできた重く古いドアを開け、自室に入り、半分壊れかけている古いデスクトップのPCの電源を入れたところから始まる。
少し日焼けした画面がコールサインを僕に投げかけ、僕の支持と指示を待っている。僕はそこにいつものように手打ちで認証をいれていく。IDとパスワードを5つづつ入れたところで、僕はやっと深呼吸をする。通学カバン代わりのバックパックから冷えた炭酸水を取り出し、勢いよく蓋を回し、一口飲む。部屋は死体安置所のように冷えている。僕はぐるりと部屋を見回す。時代遅れのなにもかもがコピペされたような公営住宅の一室。夏の日差しが程よく差し込んでいる。そこには何故か特別なものがあるような気がする。不思議と蝉の声は聞こえない。ここには僕しかいない。画面には「ようこそ」の文字が点滅し続けている。遠い昔のゲームの懐古趣味のフォントで。