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ULTRA STUDIO/LANDSCAPE GOES DOMESTIC展評スケールレス・スケール

スケールレス・スケール

執筆:谷繁玲央

 すかっとした展示だ。模型があり、図面があり、写真があり、建築家による一般的な展示の形式を踏襲している。しかし、そこには彼・彼女らが手掛けた建築の姿もこれから建てる予定の建築の姿もない。ULTRA STUDIOのLANDSCAPE GOES DOMESTICは、展示自体が作品であって、展示全体で建築のイメージを構成しようという試みだ。

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筆者撮影

 根津the 5th floorにてが10月9日から10月23日土曜日まで開催されている(火水木休廊)。以前ULTRA STUDIOの御三方にはメニカンで「FUNCTION FOLLOWS SYMBOL」と題したレクチャーをしていただいた。レクチャーでも明らかだったが建築を自律的な表現として扱うその手法は、彼・彼女らのヨーロッパでの経験という背景を超えて、現在の日本の建築界に対してカウンターであろうとする姿勢の表れであり、本展にもその態度が明確に表れている。

 会場のThe 5th floorは、社員寮だった建物の5階にある。展示室は元々寮だったこともあり、ほぼ同じ間取りの3つの部屋が外廊下でつながっている。この横並びの経験が、展示自体の構成を強く拘束する。(ULTRA STUDIOの前に展示を行っていたのは、偶然にも同じくメニカンでレクチャーいただいた大岩雄典さんだったが、この展示でも部屋同士の並び方がクリティカルな要素だった。) LANDSCAPE GOES DOMESTICでは、1部屋目で主題を提示して、2部屋目で種明かしがあり、3部屋目で解説がある。わかりやすいキャプションがあるわけではないが、文脈さえ共有できれば明解な構成である。

 ただこの明解な構成にもかかわらず、各部屋に置かれる様々なオブジェクトのスケールがわかりやすく明示されていない。建築家による展示に慣れた観客はここでいささか不安になる。寸法は明示されていないからこそ、部屋ごとにそこで扱われているスケールが変化する、あるいはスケールは変化せずとも私たちの認識の中での尺度が変わるような感覚を覚える。展示を見終えて振り返ると、寸法が無く不安定だった展示物もスケールを持ち始めて、輪郭がはっきりとする。このスケールがあるはずの物のスケールが隠されているのは、彼・彼女らがこの展示の中心に建築を置いていない、あるいは建築を別のメディアで再現しようとしていないからだろう。(置かれている模型は、ある建築の200分の1の模型ではなく、ただの「模型」であるというように。)

 主題であるLANDSCAPE GOES DOMESTICは、landscapeを外(都市)、domesticを内(部屋)と捉えれば、外と内が短絡的につながる、あるいは反転することを表現している。そこには壁や屋根のような建築はなく、人間の身体といくつかの家具、そして象徴的に柱が呈示されている。この主題のレベルでも、建築が存在しない。この「建築の不在」は、展示の冒頭から表明されている通り、1960年代のイタリアのラディカルアーキテクト(Archizoomが念頭に置かれている)を追いかけるものだ。ただ本展におけるパフォーマンスがArchizoomと異なるのは、この展示がサイト・スペシフィックなものであり、現実の都市への諦めよりも期待を感じさせる点だろう。

 本展で呈示されているものを個別に見れば、それほど真新しいものではない。前提としてミースとArchizoomという二つの補助線の交点の上に成立した展示であるし、そこで行われる活動自体も類似した例をあげることができる。しかし、そうした内容を建築展の形式を踏襲しながら、あえて建築がぽっかり抜け落ちた展示にはめ込むことで、「建築の不在」が前景化するという知的な試みなのだ。展示全体のからっとした雰囲気も、建築史的な文脈の参照も、家庭的で生活感のある額縁が使用しているところも、ULTRA STUDIOの知的な遊び心、悪く言えばスノッブさを感じさせる。長らくこういう展示はなかったのではないだろうか。あらゆるアウトプットを建築の副産物として語ってきた結果、建築表現の幅をかえって狭めてきたのではないか、この試みからはそんな批判を読み取ることできる。


ULTRA STUDIO : site→ http://ultrastudio.jp/about/       instagram→ https://www.instagram.com/ultrastudio_jp/
The 5th Floor :    site→ https://ja.the5thfloor.org/
会期 2021年10月9日(土)ー10日23日(土)
開場時間 11:00 - 19:00
閉場日 ​火、水、木曜
​会場 The 5th Floor: 東京都台東区池之端3−3−9花園アレイ5階
(上記The 5th Floorサイトより引用)


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筆者撮影

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