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海外若手建築家勉強会レポート3

筆者:寺田慎平

遅くなりましたが、「海外若手建築家勉強会(仮)」第3回のレポートになります。

-第1回のレポート-

-第2回のレポート-

今回の発表者は佐伯さん。ゲンスラーに勤務しながら、個人での活動も時折されています。大学の時から付き合いがあること、それからtwitterでたびたび海外若手設計事務所を紹介していることから、今回発表をお願いしました。

今回佐伯さんから提示いただいたテーマはズバリ「アルド・ロッシの影響を感じさせる海外若手建築家」。前回の大村さんの発表「貧しい建築」を踏まえて、また近年、アルド・ロッシの再解釈を促すような書籍も刊行されていることから、このようなテーマで発表いただきました。

以下、佐伯さんのテキストとともに、12組の建築事務所を紹介します。

*  *  *

「ロッシらしさ」というものを考えた時に、わたしが最初に思い浮かべるのは『都市の建築と『科学的自伝という2つの著作でした。

『都市の建築』はモダニズム以降ヴェンチューリの『建築の多様性と対立性と並んで特に影響力を持った理論書といえますが、一方で後年に執筆された『科学的自伝』は、自伝という名の通り理論書とは真逆でロッシの個人的な記憶や経験等が自由な形式で書かれています。
(とはいえ「科学的」とロッシが名付けていることから、やはりこうしたものも「科学」として提示したいというロッシの意志が感じられます)

ここでロッシは自らの外にある現実を観察すること、そして一方では自らの内面を観察すること、その両面を創作活動に反映させていたのではないでしょうか。そして、このことはロッシの建築を実際に訪れた時に感じるものにつながっているような気がします。

他には、たとえば『科学的自伝』の中の次の一節にもロッシらしさを感じます。

先にも語ったように、この本の題名としては「建築を忘れること」とした方がより適切だと思われる。というのも、学校、墓場、劇場について語りながら、生とか死、想像力について語っているという方が正確だからである。

アルド・ロッシ(三宅理一訳)『アルド・ロッシ自伝』より

生とか死とか想像力とか、そういったものを考えなければいけない、とは思いませんが、少なくともわたしはこういった、建築物以外のところまで思考を巡らせてつくられたものに魅力を感じるし、街の中からこういった建築物がなくなってほしくない、と思います。

他にも「ロッシらしさ」というものを考えるときりがないのですが、実は今回は言語化できてきていないけれども、なんとなく自分の中にある「ロッシらしさ」を感じる建築家たちをかなり感覚的に集めています。しかし以下のリストを改めてみてみると、上で述べた「ロッシらしさ」みたいなものが紹介した建築家たちの作品に反映されていて、さらには自分が建築に求めているものが彼らの作品や活動に現れているように感じました。
(佐伯)

イタリア

01 Salottobuono (Milan, IT)

Matteo Ghidoniによる建築事務所

02 baukuh (Milan, IT / Geneva)

Paolo Carpi (1974), Silvia Lupi (1973), Vittorio Pizzigoni (1975), Giacomo Summa (1976), Pier Paolo Tamburelli (1976), Andrea Zanderigo (1974)による建築事務所

03 Piovenefabi (Milan, IT/ Brussels, BL)

Ambra Fabi とGiovanni Pioveneによる建築事務所

スイス

04 MacIver-Ek Chevroulet (Zürich, CH)

Anna MacIver-Ek(1991)と Axel Chevroulet(1991)による建築事務所

05 Truwant + Rodet+ (Basel, CH)

Charlotte Truwant とDries Rodetによる建築事務所

06 Schneider Türtscher (Zürich, CH)

Claudio Schneider(1981)とMichaela Türtscher(1984)による建築事務所

07 BAUKUNST (Lausanne, CH / Brussels, BL)

Adrien Verschuereによる建築事務所

オランダ

08 Monadnock (Rotterdam, NL)

Job FlorisとSandor Nausによる建築事務所

09 Point Supreme (Rotterdam, NL→Athens, GR)

Konstantinos Pantazisと Marianna Rentzouによる建築事務所

10 Enzo Valerio (Rotterdam, NL)


ドイツ

11 Kuehn Malvezzi (Berlin, DE)

Simona Malvezzi, Wilfried Kuehn, Johannes Kuehnによる建築事務所

スペイン

12_Guillermo Santomà(Barcerona, ES)

*  *  *

たとえば理論的な活動でいえば、01_salottobuonoの Matteo Ghidoniと03_PiovenefabiのGiovanni Piovene、そして02_BaukuhのメンバーはSan Rocco Magizineの設立や編集に関わっているし、11_monadnockのJob FlorisはOASE Journalのエディターをしています。
他にも04_MacIver-Ek ChevrouletのAnna MacIver-EkもTRANS magazineの編集をしていました。
彼らのそうした活動は、やはり『Casabella Continuità』誌の編集を務めていたロッシや、ロッシに影響を受けた建築家たちの活動を倣っているようにも感じられます。

既に竣工している実作の中では、01_salottobuonoの《CASINO’ DI VENEZIA》(2021)は明らかにロッシやヴェンチューリの理論的な影響がみられつつ、一方で彼らの現代的なセンスが反映されています。
11_monadnockの《LANDMARK NIEUW BERGEN》(2015)、02_Baukuhの《PORETTI PAVILION》(2019)等にも共通した性格や傾向が現れているように見えます。
07_Guillermo Santomaはこの中では異質ですが、《casa horta》(2016)等を見ると、ポストモダン的な影響(メンフィスからの影響を感じるというコメントもありました)と同時に、たとえばDogmaのような建築家たちからの影響も断片的に感じられるような気もします。
(佐伯)

*  *  *

佐伯さんからは、若手建築家の紹介とあわせて、ロッシの影響を感じさせるためのキーワードもいただいており、これらのキーワードをアップデートするような試みが若手建築家のあいだでなされているのではないか、という問題提起もありました。

・参照
・記憶
・自伝
・批評
・理論
・類推
・都市
・アドルフ・ロース
・エティエンヌ・ルイ・ブレ
・連続性
・伝統

今回紹介した建築家たちは、こう言ってよければ、ロッシの孫世代にあたるような建築家です。子世代の建築家のアプローチを経由して、より自由になった感のある彼らの活動を確認できると思います。

また、現代が、ロッシを参照しやすい状況にあるのではないか、という参加者からの意見もありました。そういう意味では、日本の若手建築家たちのアプローチにも、「ロッシらしさ」を感じることもこれから増えてくるのかもしれません。

「海外若手建築家勉強会(仮)」はマイペースに、引き続き活動中です。次回のレポートも楽しみにしていただければと思います。

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