海外若手建築家勉強会レポート3
筆者:寺田慎平
遅くなりましたが、「海外若手建築家勉強会(仮)」第3回のレポートになります。
-第1回のレポート-
-第2回のレポート-
今回の発表者は佐伯さん。ゲンスラーに勤務しながら、個人での活動も時折されています。大学の時から付き合いがあること、それからtwitterでたびたび海外若手設計事務所を紹介していることから、今回発表をお願いしました。
今回佐伯さんから提示いただいたテーマはズバリ「アルド・ロッシの影響を感じさせる海外若手建築家」。前回の大村さんの発表「貧しい建築」を踏まえて、また近年、アルド・ロッシの再解釈を促すような書籍も刊行されていることから、このようなテーマで発表いただきました。
以下、佐伯さんのテキストとともに、12組の建築事務所を紹介します。
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「ロッシらしさ」というものを考えた時に、わたしが最初に思い浮かべるのは『都市の建築』と『科学的自伝』という2つの著作でした。
『都市の建築』はモダニズム以降ヴェンチューリの『建築の多様性と対立性』と並んで特に影響力を持った理論書といえますが、一方で後年に執筆された『科学的自伝』は、自伝という名の通り理論書とは真逆でロッシの個人的な記憶や経験等が自由な形式で書かれています。
(とはいえ「科学的」とロッシが名付けていることから、やはりこうしたものも「科学」として提示したいというロッシの意志が感じられます)
ここでロッシは自らの外にある現実を観察すること、そして一方では自らの内面を観察すること、その両面を創作活動に反映させていたのではないでしょうか。そして、このことはロッシの建築を実際に訪れた時に感じるものにつながっているような気がします。
他には、たとえば『科学的自伝』の中の次の一節にもロッシらしさを感じます。
生とか死とか想像力とか、そういったものを考えなければいけない、とは思いませんが、少なくともわたしはこういった、建築物以外のところまで思考を巡らせてつくられたものに魅力を感じるし、街の中からこういった建築物がなくなってほしくない、と思います。
他にも「ロッシらしさ」というものを考えるときりがないのですが、実は今回は言語化できてきていないけれども、なんとなく自分の中にある「ロッシらしさ」を感じる建築家たちをかなり感覚的に集めています。しかし以下のリストを改めてみてみると、上で述べた「ロッシらしさ」みたいなものが紹介した建築家たちの作品に反映されていて、さらには自分が建築に求めているものが彼らの作品や活動に現れているように感じました。
(佐伯)
イタリア
01 Salottobuono (Milan, IT)
02 baukuh (Milan, IT / Geneva)
03 Piovenefabi (Milan, IT/ Brussels, BL)
スイス
04 MacIver-Ek Chevroulet (Zürich, CH)
05 Truwant + Rodet+ (Basel, CH)
06 Schneider Türtscher (Zürich, CH)
07 BAUKUNST (Lausanne, CH / Brussels, BL)
オランダ
08 Monadnock (Rotterdam, NL)
09 Point Supreme (Rotterdam, NL→Athens, GR)
10 Enzo Valerio (Rotterdam, NL)
ドイツ
11 Kuehn Malvezzi (Berlin, DE)
スペイン
12_Guillermo Santomà(Barcerona, ES)
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たとえば理論的な活動でいえば、01_salottobuonoの Matteo Ghidoniと03_PiovenefabiのGiovanni Piovene、そして02_Baukuhのメンバーは『San Rocco Magizine』の設立や編集に関わっているし、11_monadnockのJob Florisは『OASE Journal』のエディターをしています。
他にも04_MacIver-Ek ChevrouletのAnna MacIver-Ekも『TRANS magazine』の編集をしていました。
彼らのそうした活動は、やはり『Casabella Continuità』誌の編集を務めていたロッシや、ロッシに影響を受けた建築家たちの活動を倣っているようにも感じられます。
既に竣工している実作の中では、01_salottobuonoの《CASINO’ DI VENEZIA》(2021)は明らかにロッシやヴェンチューリの理論的な影響がみられつつ、一方で彼らの現代的なセンスが反映されています。
11_monadnockの《LANDMARK NIEUW BERGEN》(2015)、02_Baukuhの《PORETTI PAVILION》(2019)等にも共通した性格や傾向が現れているように見えます。
07_Guillermo Santomaはこの中では異質ですが、《casa horta》(2016)等を見ると、ポストモダン的な影響(メンフィスからの影響を感じるというコメントもありました)と同時に、たとえばDogmaのような建築家たちからの影響も断片的に感じられるような気もします。
(佐伯)
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佐伯さんからは、若手建築家の紹介とあわせて、ロッシの影響を感じさせるためのキーワードもいただいており、これらのキーワードをアップデートするような試みが若手建築家のあいだでなされているのではないか、という問題提起もありました。
今回紹介した建築家たちは、こう言ってよければ、ロッシの孫世代にあたるような建築家です。子世代の建築家のアプローチを経由して、より自由になった感のある彼らの活動を確認できると思います。
また、現代が、ロッシを参照しやすい状況にあるのではないか、という参加者からの意見もありました。そういう意味では、日本の若手建築家たちのアプローチにも、「ロッシらしさ」を感じることもこれから増えてくるのかもしれません。
「海外若手建築家勉強会(仮)」はマイペースに、引き続き活動中です。次回のレポートも楽しみにしていただければと思います。