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みんなで作って食べて人の繋がりを作る

随分久しぶりの投稿になってしまいました。
改装したり、商品開発したりといろいろとやっていたわけですが、地域活性学会という学会でちょいみせキッチンを事例とした研究発表をしてました。

研究ってどういうこと?ってよく聞かれるんですが、顕微鏡使って試験管振ってみたいなイメージがもしかしてあるかもしれませんが、わたしは、食を通じた人の繋がりや地域コミュニティについて専門に研究しています。

シェアキッチンが人や社会にどのような影響を与え、どのような価値を生んでいるのかを、観察したり、実験的なイベントをしています。これまでにも研究については、時折記事にしています。

研究の目的

ちょいみせキッチンを2018年7月から運営をするなかで、人と人が繋がり、新しい何かを生み出すことが多く見られました。シェアキッチンが何か作用しているのではないかという問いにいたり、次のような研究目的を立てました。

シェアキッチンが誘発している、コミュニケーションはどのような人の繋がりがあるのか

この研究テーマについて、1年間にわたりちょいみせキッチンでのオープンイベントを対象に人と人のコミュニケーションの発生について細かく行動観察をして、分析していくことにしました。

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イベント内で発生するコミュニケーション

ちょいみせキッチンでは、親密度が低い人(初めてあった人、またはそれに近い人)と一緒に同じ料理を作って食べる縁卓(えんたく)というイベントを行っています。この縁卓イベントの中では、SNSで呼び掛けた人と一緒にパエリアやカレーなどを一緒に料理を作って食べます。
このようにシェアキッチンで食を共にすることで、人と人がどのようなタイミングでどのような会話をしたのかを観察していきました。

研究方法は以下の通りです。
興味ない方は読み飛ばしてください。M-GTA分析も興味ある方はググってください。

調査期間:2018年7月〜2019年8月
調査対象:オープンイベント(SNS等で告知をして来場者を募集する)
      64回中20回を調査対象とする
調査方法:M-GTA分析法(修正版グランドセオリーアプローチ)

ちょいみせキッチンで行った1年間にわたるイベント64件のうちそのうち20件を対象として、行動観察及び分析を行いました。イベント中の参加者の発話のタイミングや会話の内容、動きなどを細かく観察します。特にコミュニケーションが発生したタイミングやその内容を分類分けをすると、以下の図のように時系列でコミュニケーションの出現に一定の法則があることがわかりました。

図表21-07

余白の多いレシピが会話を生む

イベントが始まった最初の方は、主催者が参加者同士の共通点を見つけて話かけたたりするのですが、ぎこちない会話が続きますが、このイベントはどうやって知ったんですか、今日は暑いですね。など天気の会話など当たり障りのない会話で、職業や住まいなどプライベートな内容は避ける傾向にあります。

次第に店内にある装飾品や掲示物などをきっかけに少しずつ会話が始まります。

ホワイトボードにレシピを書いたら会話が発生するのではないかと置いてみました。

集まりました。

レシピを確認ちゃんちゃん


参加者同士の共通の話題は、これから作る料理でありレシピを見ながら会話を始めます。
レシピを見るとつっこみ所が満載の余白の多いレシピです。
たとえば、「キャベツ手でちぎる」とだけしか書いていません。

接続詞もなく暗号のよう

あえて細かな情報を書かないようにしています。

このとき、参加者からは、どれくらいの大きさでちぎればいいのだろう。
包丁ではなく手でちぎることに意味があるのだろうかという、会話がありました。実は、手でちぎる意味は、コミュニケーションを生み出すためにしていることで、味に関して意味があるかどうかは、わかりません。

調理がはじまると徐々に会話が生まれていきます。初めて参加する人は、積極的に役割を探そうとします。手待ちや作業が傍観する人が出ないように作業を多めに用意しておく必要があります。キャベツを手でちぎるというのも、作業量を増やすために包丁ではなくあえて手でちぎるようにしています。

単純作業で初対面同士の会話の気まずさを解消

今回のイベントのように、キャベツを手でちぎるという単純作業は、料理が得意でない人や子どもでも出来る作業は、コミュニケーションが生まれやすいことが観察されています。
例えば、作業に集中しないと出来ないような千切りのような作業では、相当料理に慣れている人でないと会話をしながら作業をすることが難しいのです。

初対面の人同士の会話の場合、顔を合わせながら会話をすることや、会話が中断したり沈黙が続くことは、気まずさを感じますが、作業しながら会話をすることで、お互いの目線が手元に向き、視線や沈黙が気にならなくなります。

芋煮会

協同で調理を進めると、料理が出来上がるにつれて気持ちがほぐれ、参加者同士の会話がスムーズになっていきます。

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食べる頃には、もう昔から知ってる人たちみたいに笑顔も出て楽しそうに会話をしています。

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食事が進むと、コミュニケーションが停滞するタイミングがあります。この時に席の離れた人とのコミュニケーションを誘発させる為に、自発的に席を移動させる仕掛けを作りました。

ちゃんちゃん焼きレイアウト

テーブル1の人とテーブル3に座っている人は、席が離れているためにコミュニケーションが取りづらい状況にあります。

自発的に席を移動させる目的で、ドリンクや協同で作った料理をテーブルには置かず離れた場所に置くことにしました。さらに取り皿を小さくすることでおかわりを取りに行く回数が増えるようにしました。このように自発的に席を立つことにより。離れた席の人とも鍋を囲んでコミュニケーションを取ることが出来ました。

シェアキッチンで発生するコミュニケーションの場

元々、人間は食を栄養摂取の目的の他にコミュニケーションツールとして利用していました。この話はこちらの記事に詳しく書いています。

シェアキッチンでは共食の前に協同で作る行為がある事により、より深く質の高いコミュニケーションが発生し、そのコミュニケーションは長く続くことが確認されました。さらに、後片付けの時には、ちょっとした悩みを相談したり、次はこんな事をしたいなどというアイデアのタネや自己実現についての内容の話をしはじめます。

ここで大切なことは、イベントの始まる数時間前はぎこちない会話をしていた初めてあった人達なのです。一緒に作って、食べて片付けるというプロセスを経ることで、プライベートな悩みを打ち明けるまでに変化していきました。
よく知らない人に悩みを打ち明けるなんてと思われるかもしれませんが、逆に親密度が低く、普段の生活に関わりがない相手だからこそ、話せることもあります。ちょいみせキッチンでは、日常生活の中で、親しいがゆえに自己開示できない愚痴や悩みを吐露する場になっているとも考えられます。

地域に食をシェアする場があるというのは、コミュニティを維持形成するツールとして必要不可欠なものであると思います家族間や地域の繋がりが希薄になった現代社会において、地域にシェアキッチンのような場は今後必要なものになってくるのではないでしょうか

よろしければサポートお願いします。いただいたサポートは、これから飲食店や菓子製造の小商いをしたい人のためのシェアキッチンの運営に役立てます。