食を共にすること
前回の、つながりの変化と欲求では、つながりの変化となぜつながりが希薄化していったのかのお話でした。食を通じて、地域とのつながりを作るような取り組みが行われる例がしばしば見られますので、紹介をします。
食を通した地域とのつながり
フランスでは、住民が自家製パテやワインを持ち寄り、住民同士の交流パーティーを開く隣人祭りというものがあります。
同じマンションの同じ階に住んでいても見かけなかった人や挨拶を交わすことのなかった人が、各自持ち込んだお酒や食べ物をシェアすることで、リラックスして本音で語り合える場を作り、住民の困りごとを解決するためのキッカケとなります。
言い争いになってしまいそうな住民同士の不満や問題、意見や要望を気軽に話し合う場になります。そして、住民同士の助け合い、家族や地域の関係を見直す機会にもなっています(「隣人祭り」PERIFAN, 2008)。
イギリスでは、あらかじめ決められた日に、家の外にテーブルを出して、近所の人々とランチタイムを過ごすビッグランチという取り組みが行われています。
ビッグランチを開催することにより、ただ通りすぎるだけだった隣人と挨拶を交わし、何気ない会話することで、ゴミの集積所の清掃を自主的にしたり、同じ趣味を持つもの同士で読書を楽しむことが出来たり。これまでになかった繋がりや活動が生まれています。
ビッグランチ http://thebiglunch.com (2020年05月23日閲覧)
これらの二つの事例は、どちらも地域の人と共に食事をしています。年に一度のお祭りではありますが、ここで出会う事をキッカケにして、顔を合わせた時に挨拶をしたり、手の空いているおばあちゃんが子育て世帯の送迎を手伝ったり、料理を作って届けたりと、日常生活の中で住民同士の交流が続いています。
日本でも、地縁、血縁が強かった時代には、季節ごとの行事やお祭り、結婚式やお葬式など親類や地域の人がちが集まり食を共にしていました。
農村では、田植えや稲刈りの農作業の後に手伝ってくれた近隣縁者に御馳走やお酒を振る舞い労を労いました。会社でも忘年会や懇親会などの会食がつきもので「同じ釜の飯を食う」という言葉があるように、一緒に食事をすることで、お互いの心が通い、仲間との結びつきや信頼感を得ます。
家族との食事ではその日にあった出来事を話し、友人との食事では互いに近況の話をします。ビジネスの場でも共に食事をすることで互いの距離を縮め、親睦を深めたり、信頼関係を築くための手段として用いられています。
人間にとっての共食
霊長類学者の山際寿一は、家族や仲間と食べる、いわゆる「共食」は、本来、人間の進化の過程の中で生まれた重要なイノベーションであったと言っています。
人間は食事に時間をかけ、顔を合わせ言葉を交わすことにより、共感能力や連帯能力を高め、仲間のために何かをしてあげたいと思う互助精神と相互依存は人間本能に刷り込まれた行為である。同じものをいっしょに食べることによって、ともに生きようとする実感がわいてくる。それが信頼する気持ち、ともに歩もうとする気持ちを生み出すのだと思う(山際寿一,2018)
このように、人間の食事は、生存維持という目的以外に、他者との関係維持やコミュニケーションを目的としていたのです。しかし、現代の日本では、核家族化や単身世帯が増えたことにより、かつては当たり前であった一家団欒の食卓の光景は、今では貴重な時間となり食生活も大きく変化しました。
地域において、食をシェアする場所、人とのつながりを持てる場所というのは、孤立した人やつながりを欲する人のセーフティーネットの役割も果たしています。
ロックダウンや自粛生活が余儀なくされる現在、人との接触が極端に制限されさらに人のつながりやコミュニティが重要視されています。
今後、Afterコロナ、Withコロナ時代のシェアキッチンとしての大切な役割となるでしょう。
次回は食とオンラインについてです。
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この記事は、著者の論文「シェアキッチンから生まれる繋がりに関する研究−「ちょいみせキッチンを事例として」−」から抜粋、改編しています。
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