どんどん増えるシェアキッチンの恐怖。
菓子製造業許可を持つシェアキッチンを作って間も無く5周年。
県内初と言われて、語り尽くせないほどの苦労をした。
挫けそうな事は何度もあった。苦労話や事件は、NHK朝の連続ドラマ小説になるほどネタはあるので追々書き綴ろうと思う。
5年経った今、これからのシェアキッチンがどうあるべきかをまとめておこうと思う。
シェアキッチン草創期
近隣にもシェアキッチンが増え、企業や行政もコミュニティ型のキッチンスペースを完備するようになった。
シェアキッチンが人を繋げるツールになる。まちづくりや起業のスタートアップに有効だと、言われている。
私が5年前に岐阜県大垣市で「菓子製造業付きのシェアキッチンをやりたい!!」と言い始めた頃は、シェアという言葉があまり伝わらす。「何かよくわからないけれど、応援するわ」と言われていた頃に比べたら認知度急上昇!!!
大垣市には弊社が運営するキッチンが5室ある他、近隣の市町村にもかなり増えている。
大変おこがましいけれど、先見の目があったと思っていただきたい。笑
よくわからないのに応援してくださった皆さんに感謝。
シェアキッチンの種類
シェアキッチンと言っても大きく分けて2つの種類がある。
保健所の許可があるか、ないかに分かれる。
食品を販売しようとする時に、家庭のキッチンで作ったものは販売することが出来ない。居住空間とは別にキッチンを作る必要があり、他にも様々な基準がある。販売用の食品と夕飯のおかずを一緒に作ってはいけないのだ。
お菓子作りが得意で、有名なパティシエで調理師などの資格を持っている人だったとしても施設基準に沿ったキッチンを持っていなければ販売することは出来ない。この時に大事なのは、人ではなくてあくまで施設基準がもとになる。
製造許可のあるキッチンを持とうとするならば、居住空間とは別にという制約があるために、家を改装するか、別で借りて許可を取らなければならない。お菓子作りが得意だからマルシェで販売したいとう気軽な気持ちでは、資金が潤沢で家族の理解がないと正直厳しい。
シェアキッチンは、使いたい時に予約を取って許可のある施設を使う仕組みなので、まずは試しに使って、見込みが立ってから自分の工房を持つという腕試しができる。スタートアップとしては有効だ。
保健所の許可を取るというのは、販売先が増えて外とのつながりが広がり、新しいチャレンジという意味では出来ることが増える。
その反面、許可があるために出来ないこともある。
製造型のシェアキッチンは、キッチン内には限られた人しか入ることが出来ない。
料理教室やワークショップ、友達同士で楽しむための食事会などでキッチンを使おうとしても、いろんなの人が出入りするということが出来ない。
飲食店の厨房にお客さんが入ることがないのと同じだ。カフェのスイングドアの向こう側とこちら側で隔たりがあるのだ。
魚を釣りすぎたから一緒に食べよう。美味しいお酒を手に入れたからみんなで飲もう!という時にはコミュニティ型のシェアキッチンがなら可能で、製造型では出来ない。私は、コミュニティ型はまちのダイニングキッチンと言っている。ダイニングキッチンでまちの人たちが食べ物を持ち寄り、集い、語らうのは家庭のダイニングキッチンの延長でもあり、コミュニティを創出する可能性がある。
近年、このタイプのキッチンが増えてきている。
責任の所在はどこか
私が5年前に製造型のシェアキッチンを作る時に、苦労をしたのは、保健所などの手続き系だった。食品衛生法は、飲食店や菓子店を基準にして作ってあるため、複数の人が使うことを想定して作られていない。前例のないことを説明するのは骨が折れる。細かな説明をし、事例をあげ、データを取り寄せ規約を作る。一番の争点は、作られた商品の責任だった。作ったものは誰が責任を取るのか。
保健所には、「作られた商品の責任は、全て私が取ります!!!」と言った。この頃私が想定していた、シェアキッチンを使う人は、趣味の延長でこれからお菓子屋さんになろう、将来カフェをオープンする夢を持っている、何かをしようとする前の段階の人で、まだまだ勉強中の身である人たちでこの人たちに責任を押し付けるつもりはなかった。
元々、飲食店で働いた経験や製菓学校などに通い知識を身についている人たちなら安心できるものの、そこまでに至らない人たちをフォローして、丁寧に教えていかないといけないと思っていた。
素人だけに任せるのは、私だって怖い。手間がかかったとしてもうるさいと言われながらも細かい事をいちいち指摘する、キッチンを守っていくためには口出しをする覚悟だった。
それは、今でも変わらない。
シェアキッチンは、新しいビジネスで法的な基準がまだない。全国各地に増えたシェアキッチンは各々の基準や規約で運営している。私が運営しているシェアキッチンや運営に関わったキッチンについては運営者が責任を取ることにしている。商品の裏に書く食品表示シールも利用者さんにどんな材料を使って、何を作るか、それはどんな商品でどこで売るのかを細かく聞き、全てこちら側が作っている。
「ちょいみせキッチンは、めんどくさい。どこで何を仕入れたって勝手だろ!使うのを辞めます」と言われたこともあった。
こちらとしては、どんな材料を使って、何を作られるのかもわからないのに責任を負うことは出来ない。
また、突然メールで「○月○日空いてますか?マルシェに出るので予約したいです」という一方的な問い合わせをいただくこともある。
何者かわからない人に対して、キッチンを使ってもらうことは出来ない。このようなお問合せは一切受け付けていない。
趣味のお菓子作りからビジネスへのステップ
ちょいみせキッチンでは、利用希望者全員に面談時にこれから作って販売したいという商品(正確にはこの時点では商品ではない)を持ってきてもらい、試食をさせてもらっている。それを「受け入れる人を選んでいる。誰でも使えないんじゃないか」と言われることもある。
しかし、考えてみて欲しい。私たちは、キッチンで作られる商品の全責任を負わなければならない。品質のよくないもの、菓子作りの技術が不足している人にキッチンを使わせて、その商品が世の中に出回ってしまうのは危険この上ない。シェアキッチンというのは、場所だけをシェアするのではなく、悪いこともシェアしてしまうのだ。万が一、事故があったら他の利用者も使えなくなってしまう。
これは、立ち上げ当初にはなく運営していくうちに出来た大事な項目になった。ちょいみせキッチンの運営者は全員、フードコンサルタントであり食に精通したメンバーで、一般の人から見ればプロ集団である。その人たちに食べさせることを尻込みして、何ヶ月も悩む人もいる。
だけど、お客さんはどんな人が来るかわからない。某有名料理人かもしれない。わざわざ身分を明かしてお客さんとして買いに来ることはない。偶然にも身分が明らかになったとして、買おうとしているのに、「あなたには売りません」何てことは出来ない。
この面談時に私たち食のプロに試食をしてもらう。というのが趣味のお菓子作りからビジネスとしてのステップだと考えている。
残念ながら、販売するレベルには達せず「もう少しお菓子作りの勉強してきてください」と言った人もいる。「キッチンを使ってもいいけど、販売はもう少し練習したあとにしましょう」と言い、一年後に再挑戦して今ではマルシェでも人気店になっている人もいる。
全責任を取るというのは、口では簡単に言えても
人が口にするものは、一歩間違えれば人を殺めることも出来てしまう。シェアキッチンは初期投資も少なく気軽に始められるけれど、諦めさせることも大事な責任だと考える。
5年シェアキッチンを運営して思うこと
5年間夢中でシェアキッチンを運営して、思うことは。ここ最近、さまざまな業態が参入してどんどん増えている。シェアキッチンの運営をずいぶん簡単に考えてるな。ということ。建物や機材を整えればお金があればおそらく簡単にハードは出来る。大事なのはその中身。そこで作られるお菓子がどんなもので、作り手はどんな悩みを抱え、どうしたらもっと美味しく、効率よくたくさん作ることが出来て、利益を取って継続していくか。
先にもあげた通り、利用者のほとんどは、菓子作りやビジネスに関してはまだまだズブの素人で、赤ちゃん。プロの作り手が入ってくるのは、ほんの数%。プロの作り手はシェアキッチンで販売という段階を踏まずに、融資などを受けて一気にお店を作る、考えてみればわかるはずだ。
食に精通した人がいないキッチンの場合、誰が衛生管理の事故を未然に防ぐのか。誰が真の意味での責任を取るのか。
赤ちゃんの作り手をフォローする。そこに飲食や菓子作りに精通したプロがいて、丁寧なアドバイスがなければ育っていかない。
やり方を知らないだけだとは思うけれど、安易に考えているシェアキッチンを知らずに利用して、うまくいかず諦める、最悪の場合は重篤な事故を起こして業界全体が失墜することが危惧される。正直怖いなと思っている。
シェアキッチン選びは慎重に!美味しいお菓子を世の中に出して夢を叶える人が増えて欲しいと思う。シェアキッチンの運営者のお悩みも受け付けますので、ご相談ください。
よろしければサポートお願いします。いただいたサポートは、これから飲食店や菓子製造の小商いをしたい人のためのシェアキッチンの運営に役立てます。