オンラインで一緒に食べること
前回の、食を共にすることでは、地域での食を通じたつながりと人間の共食についてのお話でした。現在、世界各国でロックダウンや自粛生活と言われ、自由に仲間と会うことはもちろん、一緒に食事をすることが難しくなりました。
一人で孤独に食事をすることが続けば、人は誰かと共に食事をしたいと思うことは本能的欲求であるといえます。そこで登場したのがオンラインを利用した飲み会や食事会です。
オンライン飲み会
オンラインでの飲み会は、もはや市民権を得たと言ってもいいほど、当たり前のものになってきました。
オンライン飲み会とは、ZoomやSkypeなどのビデオ会議システムやSNSアプリを使って、パソコンやスマホを前にして、好きな料理やお酒を各自準備して自宅にいながらにしてオンライン上で仲間と共に食事をすることが出来ます。
リモートワークなどで人との接触が極端に減り、同居の家族以外と話すことがない、ひとり暮らしであれば尚更、誰かと話したい、誰かと食事をしたい、食べるという行為の時間を共有することで、共食の代わりとして欲求を満たしているといえます。
しかし、同じものを食べることで得られる満足度とは違いがあると思います。それは味覚や嗅覚は共有出来ないことです。
霊長類学者の山際寿一さんは、以下のように言っています。
言葉ができる前は、人間も五感を通じて身体的につながっていたわけですよ。五感のなかで、一番リアリティをもたらすのは視覚と聴覚です。
「見る」「聞く」は共有できる感覚ですが、触覚や嗅覚、味覚は100%他人と共有することはできません。匂いや味は言葉で表現するのが難しいく、触覚に至っては触っている人は触られてもいるわけだから、その感覚はお互いに絶対共有できない。ところがおもしろいことに、この触覚や嗅覚、味覚という「共有できないはずの感覚」が、信頼関係をつくる上でもっとも大事なものなんです。
五感の中の触覚や嗅覚、味覚という「共有できないはずの感覚」が信頼関係をつくるのです。(山際寿一,2017,サイボウズインタビューより)
オンラインでは、身体的感覚の共有が出来ないことから脳内では、「つながった!」と感じます。リアルな場で、一緒に食べることとは差はあったとしても、新しい何かが生まれているように感じます。
一緒につくって食べること
わたしが運営するちょいみせキッチンでは、これまでにパエリアを一緒に作って食べる、「パエリアの日」や東北の郷土料理「芋煮の日」など、その日集まった参加者と一緒に料理を作り、食べる会を定期的に行っていました。
※芋煮の日の様子
ちょいみせキッチンでは、一緒につくって食べることを大切にし、その時に出会った参加者同士のコミュニケーションを図り、新たな何かを生み出す取り組みをしてきました。
しかし、現在誰かと一緒に料理することは疎か、一緒に食べることが自由に出来なくなってしまいました。先にあげたように出てきたのがオンライン飲み会や食事会ですが、オンライン上で食べる時間を共有することはできても、料理をシェアすることが出来ない。同じものを食べるにはどうしたらいいか。
「同じ材料で一緒に調理をして、一緒に食べたらどうか!」
という考えになり、ベーグルを作って食べる、ベーグル&フューチャーというオンラインイベントを開催しました。
小麦粉をはじめとする材料やクッキングシートやスケッパーなどの調理道具もセットしたキットを参加者に送ります。
今回はZoomを使いましたが、当日は各自スマートフォンやPCなどでZoomに接続します。
作り方のレクチャーを受けながら同時に作り始めます。
それぞれの家庭にあるオーブンなどの環境で多少の誤差は出ますが、生地を捏ねている時には、「手がベタベタする」。生地が発酵してきた時には、「膨らんできた」。オーブンで焼いているときには「いい匂いがしてきた」など、食べる段階になれば、出来上がった焼き立てのベーグルを食べることで「おいしい!」という言葉があがり、それぞれの場所で触感や嗅覚、味覚の共有ができました。
オンライン料理会のメリット
オンラインでのよさは、ちょいみせキッチンに興味はあったけど遠方で来られなかった方も参加出来ることで、これまで地域性を超えた考え方や環境についてを共有できたことです。
わたしたちは、当たり前と思っていたことが都心に住む人にとっては新鮮であり、贅沢なことであるという新しい発見がありました。
例えば、水の都と言われるちょいみせキッチンがある大垣市に住んでいる人は、一度も水に困るという体験をしたことがありませんでした。
それは、町中のいたるところに湧水があり、自由に水を汲み飲料水としていつでも飲むことができます。
これは、わたしたちにとっては当たり前の日常で、気付くことのなかった大きな価値として、自分が住んでいる街を見直すキッカケになりました。
オンラインでなければ得られなかった体験だったことでしょう。
オンラインでのよさリアルでのよさはあるのですが、オンラインで食を共にする行為は、リアルでの代替でしかないと考えます。
人間は仲間と共に食事を摂るという本能が備わっているために、わたしたちにとってリアルな場で、食事をするという機会は今まで以上に貴重で価値のある体験になるのではないでしょうか。
しかし、非常事態宣言が解除されたとはいえ、集まって食を共にすることは難しいと思います。オンラインでのイベントをしばらく続け、今後はオンラインとリアルでの参加両方が共存できるようにしていきたいなと考えています。(現在模索中...いいアイデアあったら教えてください。)
直近では、食パンとコーヒーで東海地区の喫茶店文化「モーニング会」を開催します。モーニングの定番小倉トーストも味わえます。
こちらも覗いてみてください。
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来月は、オンラインで南インドのカレーの日も予定しています。
リアルな場で会うことが難しくても同じものを作って食べ、語ることが楽しめることをぜひ体験してください。
次回はシェアキッチンのお話です。
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この記事は、著者の論文「シェアキッチンから生まれる繋がりに関する研究−「ちょいみせキッチンを事例として」−」から抜粋、改編しています。
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