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社友会とアルムナイ
この3年くらいで企業による「アルムナイ」設立が増えているが、大企業にはでは昔からある退職者の集まりである「社友会」を持っていることが少なくない。
卒業生の集まりという点では共通するアルムナイと社友会はどう異なるのか。これを説明することで、最近流行っている「アルムナイ」の解像度を高めたいと思う。
「Alumni」という英語は本来、卒業生や同窓生といった意味のラテン語で、企業に限るものではないが、本稿では専ら企業の卒業生コミュニティについて述べる。
また、「社友会」「アルムナイ」ともに、あくまで説明のための便宜的な定義であり、一般的に確立した定義ではない。
"社友会"と"アルムナイ"の比較
両者の要素を、私なりの理解で比較すると以下のようになる。
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HPから概要を把握する
両方のHPを比較して見ると感じもつかみやすいだろう。社友会は、レトロなレイアウトで、内容もバスツアーなど趣味的な企画や訃報など退職後の人々向けだ。
一方、アルムナイ。アカウントを登録しないと閲覧できないが、入り口だけでもターゲットの違いが感じられる。そもそもアカウント登録自体、最低限のITスキルがないとできない。
社友会の内容
他社の社友会のHPも見ると、傾向を掴める。
目的:懇親と会社との関係維持が多い(=ビジネス的な実利は追わない)
会員相互間の親睦と福祉の向上を図り、併せてグループ各社との交流の維持発展に寄与することを目的(J-Power)
会員相互の心身の健康維持増進を助長しつつ、親睦を図ると共に活発かつ円滑な活動を通じて、シャープ株式会社とその関係会社に寄与すること(Sharp)
お互いに親睦を深め第二の人生を楽しく有意義に過ごすための集まり(パナソニック電送)
退職後の双日とのつながりの場を提供するとともに、世代を超えた会員相互の交流を促進し、親睦・交友関係の増進を図ることを目的として設立された公式コミュニティ(双日)
会員相互の親睦を深め、人生100年時代を迎えて社会・地域への貢献をめざすと同時に、会員と会社との連係を大事にする(富士通)
社友の相互親睦を目的とした会社公認の任意団体(三井物産)
平均年齢
高め:70.6歳(富士通)、72歳(丸紅)、73歳(シャープ)
運営
会社が関与しており、しっかりしている
規約、事務局、幹事組織があり、総会を実施
幹事は現役時代偉かった人がなりがち
活動
事務局企画:講演会、懇親会、ツアー旅行
クラブ活動(会員自主企画):囲碁・将棋、俳句・短歌、絵画、写真、散歩、ゴルフ、コーラス、ボランティア、など様々な余暇活動
コンテンツ
事務局メンバーによる記事、一般メンバーからの寄稿
訃報のページはほぼ必ずある。。
その他
社友室があるところも多い
年次や現役時代の役職を引きずっていそう
名前とともに年次が記載されている
(大半が新卒じゃないと成り立たない発想)幹事は現役時代に"エラかった"人がなりがち
社友会のバリュエーション
一方で、会社によっての違いも当然ある。
参加資格:一定の在籍年数が必要、現役時代に一定以上の役職の人のみ「社友」とする、など
年会費:有料の場合もある(2,000-3,000円程度と高くはない)
"アルムナイ"の特徴
社友会との比較で、アルムナイについて説明してみる。
まずは社友会についてまとめてみよう。
運営:基本は会社
目的:退職者への福利厚生
対象:終身雇用時代に定年まで勤め上げた人が主対象
平均年齢:定年以降に入る人が大半で、70代〜もザラ
階層がありがち:新卒入社年次や現役時代の役職など
設立:30年ほどの歴史があるところが多い印象
背景)戦後に入社した世代の定年退職が一定以上の数になった70年代後半〜80年代に作られているところが多い印象
活動:懇親を目的とした趣味的な同好会が主
連絡・告知:クラシックなHP、メール、郵送
ITが使えない層に合わせている
一方的なアナウンスの手段が主という印象
上記の切り口でアルムナイについて表すと以下となる。
運営
最近のアルムナイブームで立ち上げるところは会社主体が多い
それ以前からあるところは、卒業生が自主運営しているところが多い
目的:会社運営の場合、カムバック採用やオープンイノベーションなど、自社にとっても実利的なもの
対象:転職が当たり前の時代に、中途退職したビジネスで現役の人々が対象で、平均年齢は比較的若い
階層は比較的フラット(年次年齢、在籍期間、在籍時の役職など関係ない)
設立:早くても2010年代以降という印象
背景)実名SNSであるFacebookが大企業のビジネスパーソンに普及し、社外活動も一般化して以降
活動:会社にとっても、卒業生にとっても、最終的には実益に結びつくものが主
連絡・告知:SNS(Facebookが多い印象)やOfficial-Alumniなどの専用ツール、自主開発のツールやHP
卒業生も最低限のITが使える前提
メンバー同士が双方向にやり取りできることが多い
もちろんアルムナイにも色々なバリエーションがあるが、ここでは社友会との比較で理解を深めることが目的なので、この程度に留めておこう。
それぞれ、目的・対象・価値が異なる
誤解なきよう申し添えておくと、私は社友会に価値がないと言っているのではない。「昔は良かった」みたいな生産性のない文句ばかり言い合うだけの暇人の集まりは不毛だが、他愛のない昔話が楽しいのも人情で、それはそれで尊重すべきものだと思う。
また、年齢で差別するつもりもない。70代の会社経営者も普通におり、そういった人が、未来に向けた価値共創する場という文脈の場に参加するならば「アルムナイ」的な価値に繋がる。40代でも新卒の同期と数年ぶりに集まって、気軽な昔話で楽しむこともあるはず。
同じ人が、社友会的な集まりを楽しむ時もあれば、アルムナイ的な集まりを活用することもある、ということだ。
「混ぜるなきけん」
現役ビジネスパーソンが、無職の大先輩たちが昔話を懐かしむ会に参加しても手持ち無沙汰だろうし、気軽な会に意識高い話をされても面倒だ。前提や文脈の区別もなく「とりあえず卒業生を集めよう」では、お互いに不満が溜まる。目的・対象が別のものを安易に混ぜるべきではない。
補足
アルムナイも、実利一辺倒ではない
なお本稿では、両者を分かりやすく区別するために、社友会=福利厚生、アルムナイ=実利としたが、アルムナイは実利だけでもない。
実利だけなら、何も参加資格を同じ会社出身者に限定する必要もないし、世に山ほどある"短期的・直接的な自己利益"を目的としたビジネス交流会と何ら変わりがない。
卒業する企業が同じであることによる利点を活かさなければ、アルムナイである必要はない。主には以下だろう。
"品質":会社が人材を選別して採用し、育成しているので、一定以上の能力が期待できる
コスト:共通する文化・思考・言葉を体得しており、相互理解に対するコミュニケーション・コストが低い
信用:どこの誰か辿れるので、良からぬことをするリスクが低いと期待できる
また、これら機能的な利点ばかりでなく、自分を育ててくれた会社への感謝や、出身母体を同じくする人への親近感など、感情的な側面も、ポジティブに作用するだろう。
社友会も「現役シフト」でアルムナイ化していく
社会やビジネスの変化に伴って参加者の属性や意識も変わり、旧来型の社友会も変化を迫られている。
リタイア世代の意識やスキルの現役化
人生100年時代的な意識で仕事をし続けたい
ITが使える
中途の入社・退社が当たり前
→新卒入社・終身雇用が当たり前の時代の帰属意識を持たない現役時代から社外活動をしていて、コミュニティ的な思考や価値観を感覚的に持っている人も増える
40代や50代の現役世代の割合が高まる(参加資格による)
企業側の環境や意識も変わる
人的資本経営など新たな評価指標に晒される可能性
リターンの期待できない福利厚生的なコストは益々割きにくくなる
性質としてはより「アルムナイ」的にはなるだろうが、すると今度は、アルムナイとどうすみ分けるかも新たな論点となってくるだろう。どうなるか、それはそれで面白い。