VCが社長をEXITしようとした話 〜起業のダークサイド-1【事件編】
ベンチャーキャピタルが投資先を上場させたり高値で買収したりすることをExitと言いますが、今回は、ダークサイドに堕ちたベンチャーキャピタルが、取締役と共謀して社長を「Exit」しようとしたお話。
【事件編】では出来事を物語風にご紹介します。
※これは、危機管理コンサルタントX氏が実際に対処してきた複数の事件を基にした、全ての起業家に起きうる寓話です。
起業の学びとして、事件の原因を分析し、予防・対策を明らかにします。
◆X 氏(危機管理コンサルタント、行政書士)
慶應義塾大学法学部卒業後、行政書士資格を取得し、法務務事務所を開設。リスクマネジメント業務を得意とし、各種士業者とも連携し、予防法務、知財防衛や情報漏洩対策、反社会的勢力排除、コンプライアンス体制確立などを行う。
危機管理コンサルタントとして、大手企業からスタートアップまでの様々な表に出せないトラブル処理や、その予防策の立案・運用に携わり続けてきたことを通して、企業や人の、必ずしもきれいごとだけではない本性の部分(ダークサイド)を見続けてきた。
◆登場人物
被害者:
【A】金融ITサービス業 X社 社長
ダークサイダー:
【D】X社の取締役
【E】金融機関系VCのキャピタリスト、Dの元同僚
関係者:
【F】X社の取締役
【G】X社の監査役。出資に伴いEの推薦で就任。
突然の解任提案
Aは自分の身に降りかかっていることを当初理解できずにいた。
株主総会の開始直前、外部の最大株主であるベンチャーキャピタルの担当者Eが、追加議題として「代表取締役Aの解任」を提案してきたのである。
その根拠としての調査報告書には、従業員へのパワハラなど様々なヒアリング内容が記載されており、取締役Fの証言もあった。
しかし、取引先と歌舞伎町の店に行ったこと以外、Aにはどれも身に覚えのないことであった。
「こいつらは、俺をこの会社から追い出そうとしている」
ようやく理解が追いつくと、やっと震えがこみ上げてきた。
発端
Aが業界中堅の3社を合併させて、X社を作ったのは3年前。
新興業界で、許認可も規制も緩かったが、急成長に伴い粗雑な新規参入者による不祥事が目立ち始め、監督省庁が規制強化を打ち出したことが、業界再編の引き金となった。
新規制の資本要件を単体では満たせない恐れがあり、また、規模が優劣に直結する競争環境も見えてきて、このままでは生き残りすら覚束ないことを認識したAは、手っ取り早く合併してくれる相手を求め、同じ危機感をもつ同業経営者の何人かに内々で打診した。
その中で、DとFが渡りに船とばかりに応じて慌ただしく合併話はまとまり、事業規模の割合に応じて株式を分配し、最大株主となったAが代表に就任した。
Dは、後発ながら積極的経営で会社を急成長させていたやり手である。やや荒っぽく、行政処分、取引先や従業員とのトラブルの噂があるところは気になったものの、時間も相手も限られていており、Aは目をつぶることにした。
合併に伴う多少の混乱は経営陣の強いリーダーシップで鎮め、新規制施行後の許認可審査も無事にクリアすると、急成長が始まった。
規制強化で弱小プレイヤーが市場から脱落して過当競争が落ち着いた一方、グレーゾーンがクリアになったことで大手企業顧客が増えて市場が拡大したからである。
3社のすみ分けもうまくいった。
形としては1つの法人にはなったものの、各社の顧客セグメントが絶妙に棲み分けられていたため、元の各社を引き継いだ3つの事業部は、それぞれが独立企業のように運営されていた。
3人の取締役も独立不可侵を暗黙の合意として、顔を付き合わせるのは月1回の役員会以外くらいとなっていったが、それはそれで、意思決定と実行のスピードを早め、急成長に貢献した。
異変
資金的な余裕ができたので、Aは新サービスを企画することにした。
人力に頼っていたプロセスを他社に先駆け自動化するもので、実現すれば同業他社に対して優位に立てる。
先行投資はかさむが、下位事業者が駆逐されれば、長期的には売上・利益率も大きく押し上げる。
Aは腹心のエンジニアと企画をまとめ、役員会で提案したが、思いがけず取締役Dの強い反対にあった。
費用の大きさやリスクなど理由を並べ立ててはいたものの、屁理屈にしか感じられなかった。
他の役員からもそんな雰囲気が漂い始めたのを察知したDは、一旦矛を鞘に収めた。
後日、Dと個別に話をしたところ、簡単な詫び言に加え、開発資金調達のために、キャピタリストを紹介する提案があった。
金融機関系VCのキャピタリストEは、Dの前職で一緒に仕事をしていた人間で、仕事もできるという。
実際会ってみると、業界理解が深くて話も早く、他VCも加え3ヶ月で資金調達を完了した。
そのタイミングで、Eの紹介の監査役Gも就任した。
Gには監査の経験も、公認会計士などの資格もなく、どことなく頼りないので疑問には思ったが、VCとの関係のためと飲み込んだ。
勃発
この頃からAは違和感を感じることが少しずつ増えていった。
元来オフィスで顔を合わせても挨拶くらいしかしなかったDが、積極的に話しかけ、開発の状況などを根掘り葉掘り聞いてきた。
内輪で話したことがVCにも伝わっていることもあった。
違和感が時々頭をよぎるも、開発が佳境であったこともあり、Aは深くは考えなかった。
そして、新システムのリリース直前の株主総会で、冒頭の「解任の追加動議」が起きるのである。
反撃
何も知らされてない他の株主は当然混乱に陥る。
利害関係者となる取締役・監査役は席を外し、Eを含めたVC数社で協議をした。
しかし、事前の根回しもなくこのような重要な決議はできない。
まずは内部でもう少し調査するように、との結論になった。
ここでAは、自身のメンターを通じて、ダークサイド案件に精通するコンサルタントのX氏に相談した。
Aは、X氏のアドバイスに基づき、Dからの(自分たちの息のかかった)監査役Gによる監査提案を「本件は双方が利害関係者であるため、外部弁護士による第三者委員会が妥当」と退けると反撃に転じた。
同じタイミングで、取締役Fから追撃の糸口を得た。
報告書にある自身の証言の少なからぬ部分が捏造だという。
確かに、Eに個別に呼ばれて2人で話はしたが、それは雑談というレベルのもので、報告書のための調査である旨も明かされていなかったし、録音もされていなかった。
X氏が、報告書に書いてある内容の裏取りを1つ1つ進めるにつれ、徐々にD・Eの手口が明らかになる。
証言の多くはFと同様、会って話しただけで録音などの証拠もなかったし、全員が「自分はこんなことは言っていない」と口を揃えた。中には会ってすらいない人もいた。
さらに、Eの上司は解任動議のことを知らなかった。
というのは、Eの上司は親会社の金融機関から3年程度出向するだけの、ベンチャー投資の素人であるため、Eは全く放任されていたのである。
実は、Eは会社に秘密で禁止されている副業をしていた。
合併前、Eが副業でAの会社と競合する事業を経営していたので、出資に際して会社を売却させていた。
しかしよくよく調べると、現代表はEの妻で、Eが実質的に経営していることが判明した。
同様に、Dも合併前に営んでいたAと競合する事業を、形式的には売却していたものの、実質的には継続的に経営して利益を得ていたことも分かった。
全容は見えた。
Aの始めようとする新サービスにより、Dが営む事業が厳しくなるため、同様の状況にあるEを引き込んでAを追い出そうとしたのである。
顛末
X氏はVCに対し、Eの不正行為の証拠を示し、担当から外させた。
Dに対しても一連の行為を認めさせ、次の株主総会で監査役と共に任期満了で退任することとなった。
多少の金額でDの持株を買い取ることにはなったが、禍根を断つためには致し方ない。
ことを公にすれば、Dは有罪になる可能性は高かったが、調査や裁判には数百万円の費用がかかる上に、視野に入ってきた上場も厳しくなる。
VCとしても不祥事を公表しなくて済む。
このように関係者の利害が一致して「穏便に」済ませる判断をした。
【解説編】では原因と予防・対処について詳説します(有料)
トークイベント「起業のダークサイド」
【危機管理コンサルタントが見た!起業の修羅場】
世に出る起業ストーリーの大半は、成功譚と小ネタ程度の失敗談ですが、表に出ない「事件」も数えきれないほど起きています。
多くは口外されず、「自分は大丈夫」と思っている人々が、次々闇に墜ちていきます。
"有名大学"を出て、大企業で働いてきたサラリーマン出身者が想像だにしない輩や事態に直面し、追い詰められると冷静な判断力を失うからです。
そこで、リスクコンサルタントとして、様々な「ダークサイド」案件に対処してきたX氏に、他では聞けない、起業家が直面する様々な修羅場の事例を、原因分析と予防・対策への示唆も含めてお話します。
これから起業する方は勿論、上場直前の地雷もあるので、既に何年か経営されている方もぜひお越しください。
==ダークサイド・トピック一覧==
<人(または修羅)にまつわる話>
○ビギナー起業家に寄ってくる修羅
・起業家の生き血を啜り歩く「顧問屋」
・無駄に話がデカいが具体性がない「連続起業家・エンジェル」
・「離婚を想定しない結婚」の結果としての、創業者間の修羅場(株主間契約)
・信用して一緒に頑張ってきたはずの「仲間」によるクーデター(実は、相手は元々そのつもり)
○「投資家=お金を増やしたい人」という基本を忘れると陥る魔界(投資家)
・会社に内緒の個人事業と競合する投資先を、裏から潰しにかかるキャピタリスト(金の管理は厳しいが人の管理はゆるいVCもある)
-投資先を危機に陥れる裏工作をしておいて、救済買収を提案する、エンジェルという名のデビル
-次ラウンドでは会社を手放すしかなくなる地雷入り出資契約を平然と提案するVC
○修羅をバスに乗せてしまう話(従業員)
・ショーンX(元GS社・Mc社・ハー○ード卒を称する詐欺師)
・信用力UPのために「顧問」にした人が、信用ではなく負債をこっそり増やしていた話
・免許剥奪されたことを隠していた元士業者
・ヘッドハントの持参金としての情報漏洩(顧客情報、非公開の知財、企画)
・実はホセインさんだったモハメドさんを雇ったために刑事罰を食らう(外国人を雇う落とし穴)
・ハラスメントゴロに示談金を払わせられる話(労務)
○起業と泪と男と女
・何で稼いでるか分からないけれどSNSがキラキラしている「プロ○○」にキン○○を握られる
・奥さんや彼女が手切れ金がわりに仕掛けるハニートラップ
・投資契約という名の愛人契約
・男女関係の地雷が爆発して上場が飛ぶ
<人を変えてしまう、お金の話>
○「既に死んでいる」資本政策
・多分IPOができない持ち株比率
・何もしてない株主から株を買い戻せない
・後で損害賠償となる地雷ストックオプション
○人を信じることとチェックが甘いことを混同していると陥る魔界
・契約や証拠保存を怠り売上を踏み倒される
・皮膚科医に脳外科手術をお願いするような士業・顧問選びの間違え方
・経費が認められず税金を払わなければならなくなる話(税理士選び)
・一部上場企業の経理担当が横領用の入金口座を指定してくる
・取り締まられたCOOはチーフ横領オフィサーだった
<事業、その他の話>
・修飾語を削ると「誰に何を売るか」が分からない事業計画書
・事業目的に漏れがあって許認可が取れず死ぬ話(定款)
・パテントトロールやパクリ屋に本家が負けてしまう知的財産の落とし穴
・起業してすぐなのに「芸能人が取材に行きます」という電話が来るカラクリ
(無知と不安につけこみ舞い上がらせるプロモーション業者)
・実は身近にありふれている、「いい人」にしか見えない反社会的勢力
・当世産業スパイ図鑑(社員・派遣、取引先、共同営業、業務提携先、など)
◆講師:X 氏(危機管理コンサルタント、行政書士)
慶應義塾大学法学部卒業後、行政書士資格を取得し、法務務事務所を開設。リスクマネジメント業務を得意とし、各種士業者とも連携し、予防法務、知財防衛や情報漏洩対策、反社会的勢力排除、コンプライアンス体制確立などを行う。 危機管理コンサルタントとして、大手企業からスタートアップまでの様々な表に出せないトラブル処理や、その予防策の立案・運用に携わり続けてきたことを通して、企業や人の、必ずしもきれいごとだけではない本性の部分(ダークサイド)を見続けてきた。