井上さんと一緒に、「もったいない子育て」をやめる旅に出た #29
嘘をつかれても対話はできるのか(後編)
「もったいないイベント」対話ドキュメンテーション④
「子どもが嘘をついたときでも、親子で対話することは可能なのか」という問いについて、前回(#28)の続きです。
親子とも感情的に落ち着いた後、どんな工夫ができるでしょうか。「同じ場所に下りていくことで『対話』にできるのではないかと思います。親の意見を押し付けるのではなく提案する……例えば『あれからお母さんも考えたけど、やっぱりお母さんは嘘をつかれてショックだったんだよ』と素の自分の思いを伝える。そして『あなたはこうしたかったんだろうけど、、、。じゃあどうしたらよかったのかな』と、次の段階を一緒に考える」と参加者Cさん。
それに対しては、参加者同士でこんな深い対話にも至りました。
「親が提案しているように見えて、実のところ誘導になってしまうような感じもします。誘導せざるを得ないような気もするし、結果的に誘導しているようで気持ち悪くもあります」
「その場合は、そういった気持ちも含めて素直に伝えるのはどうでしょうか。『お母さんは今こう言いながら、あなたを誘導しているような気もして、ちょっと罪悪感もある』と。そのほうが親も楽かもしれません」。少なくとも、親が素直な気持ちを伝えようとしている姿勢は子どもに伝わりそうです。
また、子どもが正直な気持ちを言ってくれたときこそ、親は「ありがとう」と伝えたほうがいい、との意見も出ました。「10回に1回でも、たまたまでもいいので、子どもが正直に何かを言ってくれたときに『正直に言ってくれてありがとう、素直に言ってくれるとお母さん嬉しい』という言葉で受け止めるのがコツかなと思います。長い目でみると、嘘をつかないことにもつながると思います」
「その『ありがとう』は誘導ではないと思います。難しい思春期になってから本当に相談してほしいことが起きたときに、相談できる関係性を作るためにも大切だと思います」と井上さんも続けます。
対話に至るまでには準備段階が必要です。「対話にならなかった、残念。はい終わり」と親があきらめると、それこそもったいない。あきらめなければ、対話にならなかった出来事も、次の対話のための土台にすることはできると考えられます。
問題やタスクを迅速に処理することを、勉強や仕事などを通じて求められ続けてきた親は、「早く解決する=よいこと」という考えを抱きがちです。でも、親子で対話できる関係性をつくるためには、むしろ長いスパンで取り組むほうがいいのかもしれません。自戒を込めてそう思いました。
この点について「コンパッショネート・システムズ」の観点から書いた続編はこちらです。
(#30につづく)
書き手:小林浩子(ライター・編集者/小学生の親)
新聞記者、雑誌編集者などを経て、フリーランスのライター・編集者に。 自分の子育てをきっかけに、「学び」について探究する日々を重ねる。現在、米国在住。