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井上さんと一緒に、「もったいない子育て」をやめる旅に出た#4

(4)手段を目的化してしまうことのもったいなさ
「こんないい話を聞かないなんて!」と親がイラっとする場面

 「Co-musubiって何?」と知人などに聞かれると、正直言葉につまることが多いです。困ったあげく、「えっと、習い事ではなくてね、即効性を期待するものではないんだけど……」といった言葉が口をついて出てしまうこともあります。たぶんそれは、世の中にある習い事や塾の多くが、比較的短期間で成果を出すことを期待されているからだと思います。

 Co-musubiの場で起きていることを言語化するのは、とても難しいです。

 例えば、Co-musubiに関心を抱いている人に「Co-musubiってどんなものなの?」と質問されて、ざっと説明すると、こんな反応をもらうことがあります。

 「内容は素晴らしそうだけど、うちの子はちゃんと聞けないかも」
 「今の時代に必要な教育だと思う。でもそんな発表をちゃんとするなんてうちの子には無理かも」

 実は、私も当初はそこが気になっていました。多忙な仕事をしている人ほど、親である自分が子どもをフォローできるのかが気がかりです(親が物理的にその時間に家にいられないのはまた別の話です)。

 Co-musubiのミーティングは、Zoomで行われます。正直に言うと、Co-musubiにわが子が入会してから、「ちゃんと」できなかったらどうしようと不安になったり、「ちゃんと」できなかったことにイライラしたりしたことも実際あります。

 でも、この場合でも親自身が変わるべき点がある、と少しずつ理解できるようになりました。

 授業めいたものがあれば「ちゃんと」した態度で聞くこと
 課題めいたものが与えられたらそれを「ちゃんと」こなすこと

 親は往々にしてそれを最優先にしがちです。いえ、もちろん「ちゃんと」することは大事です。でも、「ちゃんと」することが目的ではありません。「ちゃんと」することは目的ではなく、子どもが豊かに学ぶための「手段」にすぎません。

 Co-musubiのミーティングは、基本的には低学年、中学年、高学年に分かれて行われます。高1のAくんが留学体験プログラムでの経験を話してくれたオンラインミーティング(#1参照)は、特別イベントだったので、小学生、中学生、保護者が対象でした。

 小1から中学生までの、年齢も違えば興味関心や個性も異なる子どもたちの反応には温度差がありました。全員が全員、背筋を伸ばして、一言ももらさずに食い入るように聞いていたわけではありません。

 その場の内容がよければよいほど、子どもがちゃんと聞いていないと「こんないい話をちゃんと聞かないなんて!」と親はイラっとしてしまいがちです。

 でも、「今すぐにすべて届かなくても、何か一つでもひっかかって残っていて、いつか何かのきっかけで思い出せればいいと思います」と井上さんは言います。

 もちろんCo-musubiでは、オンラインで相手の話を聞くときにはどういう姿勢が失礼でないのか、どういう反応であれば相手が気持ちよく話せるのかをみんなで考える機会はあります。でもいつもいつもそれができるわけではありません。

 反対に、親が「ちゃんと」にこだわりすぎてイライラすることで、子どもの「興味・関心の小さな芽」を見逃したり、つぶしてしまったりする可能性だってあります。

 つまり、冒頭の話に戻ると、「ちゃんと」することができなさそうだ、という不安があるのは当たり前だとしても、「ちゃんと」することが目的でない以上、それが出来なさそうだからといって試さないのはもったいないといえます。

 「子育ての中で、手段が目的化してしまう場面はしばしば目にします」と井上さん。

 例えば、自分の子どもは中学受験をするのか、高校受験にするのかということを迷っているとします。迷っている理由が、どちらのほうが大学受験に有利か、だったとしましょう。大学受験の成功を目的として、そこから逆算して今悩んでいるわけです。では、そもそもなぜ大学受験に成功したほうがいいのでしょうか。大学受験の成功は、幸せに生きるためのひとつの手段のはずです。それを常に忘れないようにしないと、いつのまにか手段が目的化して「生きる目的=大学受験合格」になってしまっています。

 「ものごとを大きな構造で捉えないと、目的と手段をはき違えてしまいがちです。例えば、日本の教育について、『受験制度が悪い』と制度そのものを批判する声はたくさんあります。でも、親が目的と手段をはき違えてしまっている可能性があるという点は見過ごされがちです。ほかにも日本の社会には、本来は手段だったはずのものが目的化してしまっているケースがしばしばあります」

 みなさんの周りにもありますか? 

(次回#5に続く)



書き手:小林浩子(ライター・編集者/小学生の親)

新聞記者、雑誌編集者などを経て、フリーランスのライター・編集者に。 自分の子育てをきっかけに、「学び」について探究する日々を重ねる。現在、米国在住。



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