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「内面の成長とリベラルアーツ」荻野淳也×安居長敏 〜2024.9.29(日) リベラルアーツをコネコネするイベント 「リベコネ」第2部 分科会レポート〜

2024年9月24日(日)、気軽に、普段着のままでリベラルアーツに“コネコネふれる”ことができるイベント「リベコネ」が、東京都調布市の「ドルトン東京学園」で開催されました。
第1部のシンポジウム「子どもと遊ぶ、子どもに学ぶ、リベラルアーツ」に続く第2部の分科会の会場「ラウンジ3」では、「内面の成長とリベラルアーツ」をテーマにトークセッションが行われました。
(文章、構成:長島ともこ、写真:Gen Nakagawa)



IDGsとは? 内面の成長がなぜ必要なのか


リベラルアーツをコネコネするイベント「リベコネ」。
第2部分科会のトークセッション「内面の成長とリベラルアーツ」のスピーカーは、本イベント主催者の一人・「自由」と「協働」を教育理念に掲げる中高一貫校・ドルトン東京学園 中学・高等学校校長の安居長敏さん、


一般社団法人マインドフルリーダーシップインスティテュート(MiLI)代表理事で、第一部のゲストとして登場した荻野淳也さん。


 
2030年を目標年に取り組みが進められているSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)。
企業や自治体などで取り組みが進められていますが、社会は本当に持続可能な未来にむかっているのでしょうか。
 
先行きが不透明で将来の予測が困難な時代において、持続可能な社会を築いていくためには、私たち自身の「内面の成長」に目を向ける必要性があるのではないか。このような指摘から始まった議論は2019〜2020年にスウェーデン・ストックホルムを中心に展開されていき、「IDGs(Inner Development Goals:内面の成長目標)」というフレームワークが誕生しました。
 
「IDGsは、『1—自分のあり方(自己との関係性)』、『2-考える(認知スキル)』、『3-つながりを意識する(他者や世界を思いやる)』、『4-協働する(社会的スキル)』、『5-行動する(変化を推進する)』の、5つのフレームワークと23のスキルで整理されています。2の『2-考える(認知スキル)』には、批判的思考(クリティカル・シンキング)、複雑さへの認識、パースペクティブ・スキル(視点、見通すスキル)が含まれており、リベラルアーツと関わりが深いですね」と、日本でIDGsの普及活動に取り組む荻野さん。
 

※ 出所:INTER DEVELOPMENT GOALS(https://innerdevelopmentgoals.org/



「IDGsは、リーダーのスキル不足などが課題となっている現状を背景に誕生し、企業や教育機関など、さまざまな組織で活用されるようになっています。システム思考、成人発達理論、マインドフルネスなど既存のさまざまな理論や手法を統合したもので、私たち一人ひとりがより深く自分自身と向き合い、成長するためのツールボックスのような役割を果たしています。最近は、コスタリカで国をあげてIDGsのフレームワークに基づいた教育が始まろうとしているなど、世界的に注目されつつあります」(荻野さん)
 
荻野さんの話を聞き、安居校長先生は、こんな問いを投げかけました。
 
「子どもの成長は学校の学びと直結しますが、昔は『大人になってから学ぶ』という概念が今ほど明確になかったように感じています。大人になってからの学び、内面的成長の目的とは何でしょう」
 
荻野さんは、
「昔から、大人になっても学び続け、成長し続ける人はいました。それが理論づけされた形になったのが、IDGsであると解釈しています。いっぽうで、現代社会においては、企業の人材が二極化しているという問題が指摘されています。リーダーシップを発揮できる人材と、指示待ちで自ら考えようとしない人材に分かれてしまい、後者の人材が増えている、と。企業が『自分で考えて行動できる人』を求めるようになっていることから、IDGsが注目されているのではないでしょうか」と話します。
 

学校における内面の成長とは


 
「指示待ち」「自分で考えることができない」人材が増えてしまっているのは、自己主張や主体性がなく従順で均質化し、平均的な能力をもつ人材を育てようとしていたこれまでの日本の教育に、その一因があるのではないか。
 
「変わらないといけない」「変えないといけない」とわかっていながら、大学入試制度や企業の新卒採用制度が大きく変わらなかったために、「失われた30年」になってしまったのではないか。
 
これらの分析をふまえたうえで、安居校長先生は、
「ドルトン東京学園では、単に学力を高めるだけでなく、同校の教育理念である『自由と協働』に基づいて、6年間の学園生活の中で育成を目指す15のコンピテンシー(資質・能力)を設定しています。自主性、社会性、創造性の3つのカテゴリーに分類されたコンピテンシーは、学校行事や日々の課題をはじめとするドルトンプラン教育のベースになっており、いわゆる教科学力は、コンピテンシーを身につけるための『知識』や『素材』として位置づけています。
 
日本の大学入試は、この教育目標と矛盾する部分もありますが、本校は、個々の生徒に即した学びの支援やアプローチを重視しています。学びの過程で『自分はこうありたい』『こうやってみたい』と腹落ちした生徒は、自ら動き始めます。小さな成功体験の積み重ねが、中2の後半から中3、高1にかけての爆発的に成長につながる場面を目にしており、このような『成長が可能な仕組み』が本校には存在すると自負しています」とお話されました。


リベラルアーツやIDGsを周りの人に知ってもらえるには




お二人のお話を受け、参加者から、質問が次々と飛び出しました。
以下、対話形式でお届けします。
 
・参加者からの質問:
「IDGsのゴールは何ですか?」
 
・荻野さんからの回答
「従来の『ゴール』という言葉は、数値で測れるような具体的な目標を指すことが多いですが、IDGsは、個人の内面的な成長や発達といった、数値化が難しいものを指します。そのため、IDGsを『ゴール』(成長目標)と呼ぶよりも、『内面成長の指標』や『内面発達の物差し』といった表現がより適切なのではないかと考えられています。
 
これは、従来の『ゴールを設定して達成する』という考え方とは少し異なり、継続的な成長を重視しています。数値で測れる目標ではなく、質的な変化を目標とすることで、より柔軟な成長を目指すという考え方です」
 
・ 参加者からの質問:
「IDGsは、『スキル』ととらえてよいのでしょうか?」
 
・ 荻野さんからの回答
「内面の成長・発達は、少し前までは、『もって生まれた感性』のように捉えられている面もありましたが、最近では、だれでも習得可能な『スキル』のひとつとして考えられています。訓練したり、一定のアプローチをとったりしていけば身につけることができる面もあります」
 
・ 参加者からの質問
「リベラルアーツやIDGsを知ること、これらについて社会全体で、教育現場で考えることは、とても大切だと感じました。リベラルアーツやIDGsの大切さを周りの人に伝え、私たち一人ひとりが変化してくためには、どうすればよいのでしょうか」
 
・ 荻野さんからの回答
「人は、自ら変わりたいと思わない限り、なかなか変化できません。ただ、ちょっとした好奇心や、周囲からの声かけが変化のきっかけになることがあります。企業の人材育成では、このような変化のきっかけとなる『種』をまくことが大切です。しかし、最終的にその種が芽を出すかどうかは、本人次第です。
IDGsについても、周りの人に強制的に教えたりすすめたりすめるのではなく、ご自身が学び、楽しく豊かに生きることで、自然な形で興味を持ってもらえると良いですよね。気づかない人に気づかせるのは難しい。ただその気づきのきっかけの種を植えてあげることは、たくさんできるんじゃないかと。これは多分、学校教育も一緒なのではないかと思います」
 
参加者からの質問を通し、IDGsは「ゴール」ではなく「内面成長の指標・ものさし」であり、スキルとして身につけることができることがわかりました。また、リベラルアーツやIDGsを周りの人に伝えるためには、学んでいる人自身が楽しみ、その姿を見せること、企業や学校教育においてもIDGsに対する興味の「種」をまき、変化を促すきっかけをつくることが大切であること、IDGsは、個人だけでなく、組織や社会全体の成長にもつながる可能性があることを、皆で共有することができました。
 

自分で人生を選択できる子に



対話はさらに深みを帯び、参加者の方々から、ご自身の体験や現在の思いなどがご自身の言葉で語られました。



 
以下、いくつか紹介します。
 
「つまずきや失敗は、子ども、大人に関わらず誰しもが経験するものですよね。でも人はどうしても、自分のつまづきや失敗から目を背けがちです。片目をつぶって見逃すどころか、両目をつぶってなかったようにしてしまうこともある。でもそこで、頑張って自ら両目をあけ、自分の内側に何かあるのか、つまづきや失敗の大元に何があるのかを掘り下げていくことが、本当の意味での成長につながるのではないかと感じています」
 
「今日のお話を聞いて、社会と教育は密接に関わりあっていることが改めて実感できました。社会の基盤が教育であることを考えると、私たち一人ひとりはどう生きていきたいのか、この社会がどうあったらいいのかなどについて、じっくり対話をする場が必要だと思います。でも現状では、そのような場も、経験も少ないですよね。先行き不透明な時代を生きる子どもたちには、小さい頃からこのような対話の経験を重ねながら学び続けてほしいと思います」
 
最後に、発達に特性をもつお子さんを育てている保護者の方から、こんな言葉と問いがよせられました。
 
「3人の子どもがそれぞれ発達に特性をもっており、子どもたちに楽しませてもらったり、時に困ったりしながら子育てしています。子どもたちは公立小に入学したのですが、ルールが多すぎること、ルールに対する疑問が自分の中で解決しきれないことから、自ら学校に行くのをやめました。現在は、自由で校則がない私立の小学校に移り、楽しく生活しています。子どもたちの未来を考えたとき、性別、年齢、発達の凸凹のあるなしなどに関わらず、皆が楽しく豊かに過ごせる社会になっていればいいなと思うのですが、そのような社会はどうしたらつくっていけるのでしょうか」。
 
荻野さんからは、この方の子育てについて、
「お子さんの『学校に行きたくない』という感性が素晴らしいと思います。子どもたちには、本来『自ら(勝手に)育つ力』が備わっています。試行錯誤を続けながら、今のスタンスでお子さんたちと関わり続けられることが大切だと思います」と、お話されました。
 
安居校長先生は、こう続けました。
「私たち大人が、子どもが決めたこと、子どもがやることに極力口出ししないこと。これにつきるのではないでしょうか。
今や、お子さんがたとえいい大学に入っても、その大学ブランドが自分を一生守ってくれる時代ではないですよね。大学合格に向けて素晴らしい環境を用意したところで、常に誰かから何かを与えてもらうような状態では、子どもたちは、変化の激しい社会を生き抜くことができません。
 
『自分で人生を選択できる子』『自分で人生を切り開ける子』になるには、日々の生活を通して自分はどういう人間かを知り、社会とどう関わりながら生きていけばいいのかを、さまざまな体験や失敗を通して考えていくことが大切です。そんな子どもたちを見守る私たちもまた、学び続け、対話を続けることが、よいよい社会につながっていくのではないでしょうか」
 
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「リベコネ」第2部分科会では、「内面の成長とリベラルアーツ」をテーマに、荻野さん、安居校長先生のお二方の話から、IDGsが単なる目標設定ではなく、個人の内面的な成長を促すための包括的なフレームワークであること、リベラルアーツは、単に知識を詰め込むのではなく、自ら考え、行動する力を育む上で重要であることが改めて示されました。
 
参加者からは、つまずきを成長の機会と捉え、自分自身と向き合うことの大切さや、多様な子どもたちが共に学び合える社会の必要性など、多様な意見が出され、豊かな学びのひとときとなりました。


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