読響第626回定期演奏会 批評

読売日本交響楽団 第626回定期演奏会
サントリーホール(東京・赤坂)
指揮 鈴木優人
ヴィオラ アントワーヌ・タメスティ

鈴木優人:THE SIXTY(読響創立60周年記念委嘱作品/世界初演)
ヴィトマン:ヴィオラ協奏曲(日本初演)
シューベルト:交響曲第5番 変ロ長調 D485

八面六臂の活躍を見せる革命児マサトが、読響創立60周年記念委嘱作品を自作自演で初演!「協奏曲を再検討」すると掲げたイェルク・ヴィトマンの「ヴィオラ協奏曲」を日本初演。

60年へのオマージュが満載の鈴木優人新作

 まず最初に演奏されたのは、読響創立60周年記念で委嘱された鈴木優人の新作管弦楽曲、その名も「THE SIXTY」。
 音楽はまず、読響が創立された1960年代に主流だった現代音楽のオマージュから始まり、それが徐々に広がりを見せていく。それは読響が歩んだ60年を示すかのように。
 音の停滞が少し長いと感じた中盤を越え、打って変わって祝祭的雰囲気の音楽が流れたかと思うと、再び沈静化し、最後は消えいるように終了していった。
 多彩な顔を持つ鈴木の今回の新作は、作曲家としての作品の精度が高いとは言い難いものであった。しかし、その筆は今後の成長を感じさせる、まさに「成長途中」の感じがした。
 どちらにしても、その経過点とするならば非常に注目すべき作品である。

「協奏曲を再検討する」ヴィトマンの問題作が日本初演

 続いて演奏されたのは、1973年生まれのクラリネット奏者で作曲家でもあるイェルク・ヴィトマンが2015年に発表した「ヴィオラ協奏曲」だ。
 しかし、この作品は「協奏曲を再検討する」という作曲者の考えにより、通常考えられる協奏曲とはおよそ趣を異にしている。
 まず、ソリストは指揮者左の「いつもの」ポジションにはいない。第1ヴァイオリンの座るその後ろで突然現れる。最初はピチカート奏法のみで、しかもパフォーマンスを伴いながら、オーケストラ内を移動する。途中、弓を「発見」し、やっとここで弓を使った演奏になる。しかし、周りからは攻撃され(テューバの破裂音とやり合ったりする)、孤独なソリストに寄り添うようにバス・フルートが現れる。そのやりとりがしばらく続くも、勢いを増す管弦楽へ対して、途中ソリストの雄叫びがこだまする。最終的に、本来あるべきポジションへ移動し、死に絶えるようにその響きは消えていく。
 この作品では、このようにソリストがオーケストラの中を移動しながら、また身振り手振りを交えたパフォーマンスを要求される作品だ。よってソリスト用譜面台がいくつか設置されたり、奏者個人との協奏(または対立する演奏)が行われる。
 21世紀以降の音楽がどのようにあるべきか、ヴィトマンの今作はひとつの形を提示してくれた。
 そして何よりこの作品の質を高めているのは、ソリストのタメスティの演奏能力の高さに他ならない。彼は世界初演の時のソリストで、またヴィトマンから作品を献呈された本人でもある。作曲者が彼に絶対の信頼を置いていることがよくわかった。作品全体は、さもコントのようなパフォーマンスが魅力の諧謔的な雰囲気漂う前半と、厳粛な後半とに分かれているが、そのコントラストを最も表現していたように思う。

 演奏終了後には、指揮者・鈴木と熱いハグ。客席にいたヴィトマンも壇上へ上がるとタメスティとのハグを交わす。鳴り止まない中でアンコールが演奏された。

 子守唄のような穏やかで優しい音楽。鈴木優人の伴奏で行われたが、先ほどヴィトマン作品で使ったピアノを左手で、チェレスタを右手で弾くという離れ業をサラリと見せつける。非常に美しい曲で、ヴィオラの別の側面を見せてくれるとても美しい曲であった。

硬軟入り混じる不思議なシューベルト

 休憩を挟んで最後に演奏されたのはシューベルトの交響曲第5番。この曲は弦楽合奏とフルート、オーボエ2、ファゴット2、ホルン2というかなり小規模な編成で書かれている。
 読響はドイツ音楽をかなり重点的に取り組んできたこともあり、この演奏も非常に素晴らしいものであった。弦楽器の素晴らしいアンサンブルと、そこへ溶け込む管楽器の美しい調和を堪能。曲が進むと鈴木の指揮が徐々に熱を帯びてくる。
 しなやかな第2楽章に続くト短調の第3楽章。ここにユニゾンは圧巻だったように感じる。そして第4楽章。第1楽章同様、主調の変ロ長調へ回帰してくるが、前述のようにその演奏はさらに熱い。しかし、一糸乱れぬアンサンブルなのだが、そこに付き纏いがちな堅苦しさは全くない。むしろそこかしこに見られる遊びや、程よい緩みがとても心地よい。まさに鈴木優人流のお遊びであろう。この不思議な時間は、そんな緩急織り交ぜた演奏によって締められた。
 首席コンサートマスターが本日の講演で退任となるので、最後は花束の贈呈があった。

 この模様は後日日本テレビ「読響プレミア」で一部放送されるようである。個人的に非常に楽しめたコンサートで、満足感がとてもある帰り道であった。


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