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シューベルト『野ばら』を分析してみる

こんばんは、吉田(@yoshitaku_p)です。

日頃、オンラインで作曲のレッスンをしているのですが、その中で扱った内容のいくつかを備忘録的にまとめていこうと思います。

今回はシューベルトの『野ばら』の分析です。楽譜はIMSLPからダウンロードしたものを使います。

この曲はシューベルトの歌曲の中でもよく知られている方だと思いますが、和声についての基本的な内容と応用的な内容(II巻以降の内容)がバランスよく含まれていて分析にもってこいです。

そして何より、1ページに曲全体がまとまっているというのも大きなポイントで、俯瞰して分析を進めることができます(有料部分に和声記号を書き込んだ画像を載せています)。

基本的には和声の分析をしつつ、適宜楽曲の構成や調についても考えていきたいと思います。

また、小節番号についてはドイツ語のTakt(小節)を使って、T.1のように表記します。

分析

1段目(T.1~4)

この曲はG-durで基本的に1小節単位で和音が変わっていきます、

1段目はI-II-V7-Iと進行します。音が4つあるので4声体として見ることができますが、T.4の1拍目がオクターブ配分になっていることからも分かります。

T.2ではII7という和音が出てきますが、これはII巻の最初に出てくる和音です。おおよそV7と同じものだと考えてもらっていいのですが、違う点は「II7の第7音は保留されていないといけない」という点です。ここではバスが第7音であるGを保留しているので問題ありません。

続くT.3はV7ですが、1拍目は[1転]、2拍目は[3転]になっています。これは内部変換と呼ばれ、ある和音の基本位置や転回位置を連結する方法です。III巻の内容ですが、I巻でもIの[基]→Iの[1転]の連結が可能だったはずです。

バスに動きを持たせることができるのでこの曲の中でも何ヶ所かで用いられているのですが、ここで使われている[1転]→[3転]の増4度進行は芸大和声ではNGです。

T.4のIの[1転]→Iの[基]もバスに動きを持たせるために使われているのでしょう(I巻ではこの順序での連結は出てこないはずです)。

2段目(T.5~10)

T.5はT.1と同じIの和音ですが、T.6ではCisの音が出てきます。これは属調であるD-durのV7であり、2段目は属調に転調しています。旋律線のCisの多さ、フェルマータがついているT.10の和音からもD-durだと判断できます。

流れで聞いていると転調に気付けないという方も多いかと思うのですが、それはT.5の和音がG-durにもD-durにもある和音だからです。つまり、2つの調にまたがる和音を使ってスムーズに転調をしているわけです。

さて、2段目で特筆すべきポイントはT.7~10の部分が3声で書かれているということです。ここまでは4声だったのに、D-durに転調してからはテノールが無いような形になっています。

その理由として、2つほど考えられることがあります。

まず1つ目、テノールの声部を補うと連続8度ができてしまうからです。

例えばこれはT.7~8の部分にテノールを補ったものですが、[1転]同士の連結部分で連続8度ができています。

これを避けるためIIの[1転]のテノールの音を変えるにはHの音にする必要がありますが、5度上にするとアルトと重なって結局3声になってしまいます。一方で4度下にすれば旋律線も綺麗になりますが、なぜかそのようにはされていません。

もう1つの理由、恐らくこちらの方が納得感があると思うのですが、それは曲の中間部の音域をあえて上げたかったからかもしれません。

和音にはトニック(T)やドミナント(D)という機能がそれぞれ割り当てられていて、主にドミナントは緊張感を、そしてそれがトニックに解決することで安定感をもたらします。

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