3. 実際の曲を和声分析してみる(Ave verum corpus)[全文無料です]
こんばんは、オーナーの吉田(@yoshitaku_p)です。
前回までの和声の話を踏まえて、今回はモーツァルト作曲の"Ave verum corpus"を分析してみたいと思います。
曲の歴史的な背景や歌詞の内容については他で調べてもらうことにして、この記事の中では純粋に楽譜だけをみて分析を進めたいと思います。
また「この分析は何の役に立つのか」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、今回はただ知的好奇心を満たすために分析することにします。
そして、前回の和声概論だけでは細かいことは全く分からないと思いますから、今回は「こういう話があるんだ」くらいの認識で大丈夫です(I巻とII巻の最初の方を勉強すれば分かるようになると思います)。
PDFの楽譜はimslp、もしくはNMAオンラインからダウンロードすることができます。また、セクションごとに段を分けて楽譜を起こしたので、こちらを見てもらっても大丈夫です。
分析
この曲はニ長調(D-dur)です。この調で使われる和音(固有和音)を並べました。
1段目
曲の響きを変えることなく音符を簡単な状態にしてみました(=還元)。
T.3はソプラノとテノールの音が同じAになっていますが、これは「配置・連結の一般的可能性(I巻p.118)」のオクターブ配分になっています。次の拍でソプラノが動くことを考えると、ハーモニーをしっかり形成するためにはこの配置の方が良いと思われます。
上3声の音は跳躍せずに緩やかに下行していき、T.7からはアーチ状に上下してT.10で完全に同じ配置に戻ります。
T.9は男声が保続され女声が解決する形になりますが、これは前の拍にあるV7が主音の上に乗っていて、解決が遅れていると考えられます(III巻p.143)。
このように解決が遅れる部分はT.4やT.6などに見られるように、曲中に頻繁に現れます。
2段目
1段目の最後のVを受けて、そのままイ長調(A-dur)に転調しています。これはGがGisになっていることからも判断できます。
T.12~13の部分は同じ役割である、イ長調のドミナントの和音が並んでいます(III巻p.75「内部変換」)。
T.15で跳躍してメロディーが出るところは和声を簡単にしても目立つ形になっています。V7を根音省略のオクターブ配分にして、さらに他の声部には休符を置くことで前半の山場を作っています(これが冒頭の跳躍と同じ音になっているのは偶然なのでしょうか…)。
3段目
フラットが付き始めたことと、T.22の和音でヘ長調(F-dur)に解決していることが分かります。T.20の減7の和音はイ長調、ヘ長調どちらの調でもドミナントになるので、この和音を通ってスムーズに転調しています。
T.23ではFの音が出てくるのですが、これはハ長調のV7で、ニ長調のV7にそのまま連結していると考えていいと思います。
T.25で減7の和音が2つ続いて、元の調であるニ長調に戻ってきます(T.25のバスはB-Gisでした、すみません)。
4段目
ここはカノンのように追いかけっこの形になっています。無理やり還元することもできますが、反復進行(III巻p.229)として考えた方がいいと思います。
T.32で見慣れないVI7の和音が出てきますが、これは反復進行の時によく出る和音です。その後V7になって反復進行が終わります。
T.33では典型的な終止形が現れますが、ここで終わらないのがモーツァルトのすごいところだと思います。
無理やりIVの第一転回位置に進んでもう少し曲が続きますが、これは偽終止のような響きになるからか、V-IVの進行なのに使われています。
5段目
ソプラノが半音階で上がっていってクライマックスを形成します。T.35~37までは1和音ずつ転調しているのでかなり忙しい印象です。
T.38では2拍目で一度Iに解決しますが、音が短い上に展開形なので大きな終止感はなく、この次のカデンツでニ長調のIに解決して終わります。
いかがだったでしょうか? II巻まで進めばおおよその部分を分析できると思いますので、ぜひどんな和声記号が当てはまるかを考えてみてください。
私なりの答えはページ一番下の有料部分に載せておきました。
ほぼII巻までの内容で書いた、ざっくりとした解答はこちらです。
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