マタニティハラスメントの基本形は4つ!マタハラを弁護士が法律に基づき解説
こんにちは、非営利組織とコンプライアンス研究会の代表世話人を務める弁護士・塙 創平(はなわ そうへい)です。
前々回はパワハラ、前回はセクハラについて、起こりやすい場面や形をしてきました。
今回は、昨今急激に整備が進む一方で、現場での理解がまだまだ不十分であるマタハラについてご紹介します。
マタハラは、全員が当事者になりうるわけ「ではない」こと、経験者であっても人によって全く状況が異なることや、制度が目まぐるしく変わっていることなどに、パワハラやセクハラとはまた違う難しさがあります。
マタハラには4つの基本形がある!
マタニティハラスメント対策ネットワーク(マタハラNet)は、マタニティハラスメントのイメージがつきやすいように、「マタハラ4類型」を紹介しています。
いじめ型
追い出し型
昭和の価値観押し付け型
パワハラ型
この記事では、この4つ類型に沿って解説していきます。
いじめ型
マタハラNetでは、いじめ型マタハラを、「妊娠・出産で休んだ分の業務をカバーさせられる同僚の怒りの矛先が、妊娠や育児中の女性に向かってしまうマタハラ」と定義しています。
職場に妊婦がいる/いたことがあるという方は多いでしょうから、比較的わかりやすく、世間でイメージされるマタハラがこれでしょう。
ただ、イメージしやすいといっても、対応や解決は簡単ではありません。
まず、問題の根底には、妊娠や出産、その後の育児により、突発的な休みや時短勤務の増加、夜勤や休日出勤の免除による穴埋めを、新たに人員を補充せず、独身や子どものいない社員によってカバーさせているという組織の構造があるからです。
労働環境がきっかけで起きる問題と考えれば、事業主がある程度余裕を持って人材を確保していれば足りるはずですが、この人手不足で物価高の時代、余裕を持って人材を確保すること自体が容易ではありません。
さらに、人員補充だけで解決するとも断言できないのが、「いじめ型」の根の深さでもあります。
妊娠は、病気や介護と違い「自分が好きでその状態になったんでしょ」と思われてしまうことがあったり、同じ妊婦でも人によって全く状態が異なるため「〇〇さんは妊娠していても普通に働いていたのに、あなたは甘えすぎ」なんて言われたりすることも起こるわけです。
一方で独身者が一生懸命フォローしていたのに、当の本人が当たり前の顔をするどころか「独身は楽でいいね」なんてマウントをとってくるなんてトラブルも、インターネット上の相談には溢れていますね……。
人間関係は、本当に難しいです。
ではここで、毎度お馴染みの「問題行動判断の4段階基準」に照らしてみましょう。
>>詳しい解説はこちらの記事から
その態様によって、第1段階(その行為は犯罪)にあてはまることもあるでしょうが、第2段階(その行為は不法行為)にあてはまることが多いでしょう。少なくとも第3段階(その行為によって、労働者の就業環境が害される)にはあてはまることは間違いありません。
昭和の価値観押し付け型
マタハラNetは、昭和の価値観押し付け型マタハラについて、「女性は妊娠・出産を機に家庭に入るべき、家庭を優先すべき、それが幸せの形だと思い込んでいるマタハラ」と定義します。実は女性同士であっても、このあたりの価値観の相違は大きい上、非常にデリケートです。
家庭に入るべき、家庭を優先すべき、だけでなく、妊娠中の業務について、事業主側が配慮しすぎてしまう場合もこれに当てはまります。本人の意思を確認せずに重要な任務から外したり、簡単な労働に配置転換したりするケースです。つまり、「妊婦さん」を尊重しているようで、当の本人を全く尊重していないハラスメントです。
「大切にしようとしているのに、何が悪いんだ?」と言われることもありますが、気遣っているつもりでも、本人にとっては、「制裁」でしかないわけです。前回紹介したセクハラに置き換えると、「お茶汲みは女性の仕事だ」などという「制裁型セクシャルハラスメント」にあたるのです。
過度な気遣いは相手の負担になりますし、相手の自己決定を邪魔していることになる、ということを覚えておきましょう。
「問題行動判断の4段階基準」に照らすと、第1段階(その行為は犯罪)や第2段階(その行為は不法行為)にあてはまることはほとんどありませんが、第3段階(その行為によって、労働者の就業環境が害される)にはあてはまります。
いずれにしても、不当であることは変わりませんので気をつけましょう。
相手を尊重することが大事です。
追い出し型
マタハラNetは、追い出し型マタハラについて、「長時間働けなくなった社員を労働環境から排除するマタハラ」と定義します。
組織的に、当該労働者をいじめて追い出しちゃおう!というマタハラです。「うちでは産休や育休をとった前例はない」などと執拗に言い、直接/間接的に退職を促す場合などが当てはまります。
いじめ型が現場の同僚間で起きやすいマタハラなのに対し、追い出し型は上下関係を利用したいじめ(マタハラ)です。
「問題行動判断の4段階基準」に照らすと、第1段階(その行為は犯罪)にあてはまることはほとんどありませんが、断られたにもかかわらず、退職勧奨を継続することは違法ですから、第2段階(その行為は不法行為)にあてはまります。
人を歯車と思うことは大変な思い上がりですから、改めないといけませんね。
パワハラ型
マタハラNetは、パワハラ型マタハラについて、「長時間働けない社員に、長時間労働を強制するマタハラ」と定義します。
「つわりは病気じゃないんだから、休むなんて許さない」「時短勤務なんて取らせない」というような場面です 。「辞めろ」と言わない点では一見追い出し型とは真逆ですが、労働者を歯車だと考える根底の考えは同じです。
妊婦さんは「迷惑をかけている」という負目もありつい無理してしまいがちですが、
と定められていますから、母健連絡カードに記載された主治医等の指導も無視して、必要な措置を講じないのは完全に法令違反です。
「今まで通り仕事できないなら、辞めてもらうから」と言われたというのもよく聞きますが、実際には母健連絡カードがなくても、妊婦さんに請求されたら、「他の軽易な業務に転換」することが法律上の義務です。
そんなこと言ったら、直ちに違法ですので、事業主の方はお気をつけください。
マタハラへ悩む妊婦さんへ
法律を守らない組織は、残念ながらたくさんあります。
人でなしのいうことですから、人の言葉ではありません(!)。
妊婦さんにおかれましては、何かあってもショックを受けないようにして、お腹の中のお子さんとご自身を大事にしてください。
また、言われた言葉(生の言葉)は毎回、すぐにメモしておくことが大事です。その上で、すぐに専門家や相談窓口に相談して下さい。
「迷惑をかけているのは事実だし」「産休に入るまでの我慢だ」などと考える必要は全くありません。
まとめ
ここまで、マタハラの4類型について紹介してきました。
ただし、パワハラ、セクハラ同様、この類型がマタハラに当たりうるすべてを網羅したものではなく、これら以外は問題ないということでは全くありません。
また、どのハラスメントにおいても、大切なのは相手を思いやる心と日頃の良好なコミュニケーションです。
従業員がそのような関係づくりができる、心にゆとりをもてるすこやかな職場環境にするように、事業主は努めなくてはなりません。
3回に渡り、ハラスメントの類型について、詳しくお話してみました。
次回は、また抽象的な話に戻り、違法なハラスメントについて、お話をしようと思います。お楽しみに。
【目次はこちら】
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