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ハラスメントの事実認定(2)最短距離での解決に導く聴き取り方法|一次調査

こんにちは、非営利組織とコンプライアンス研究会の代表世話人を務める弁護士・塙 創平(はなわ そうへい)です。前回の記事で、ハラスメントの事実認定に必要不可欠な「ファクトベース」で聴き取る方法についてお伝えしました。

今回の記事では、実際の調査の流れと照らし合わせていきましょう。

一次調査は、対象事実の特定

過去の記事でもお伝えしましたが、ハラスメント問題を最短距離で解決するには、次の流れで検討することが肝心です。

(1)「被害者から話を聞いて、何が起きたのかを把握」
(2)「加害者とされる人物からも聴き取りを行い、何が起きたのかを把握」
(3)問題行動判断の4段階基準に従って評価

ハラスメント対応に必要なのは「3つの視点」!

まずは被害者から話を聞き、被害者は「何が起きた」と言っているのかを正しく把握することが、ハラスメント対応の最初の段階です。ここが、被害者の相談・通報の内容を特定する為に必要な最初の調査であり、私は「一次調査」と呼んでいます。

その後に行う「事実が本当にあったのか(存否)」という二次調査は、次回の記事でお伝えします。この2つの調査は役割が異なるため、明確に分けて行うことが大切だと私は考えています。
「ハラスメント対応は難しい」とよく言われますが、実は私はその理由について、この一次調査の段階で、8割がピントを外している(一次調査と二次調査を混同している)からではないかと思っています。

そこで、一次調査を担当する方にぜひとも心掛けてほしいことは、「一次調査の段階では、被害者の相談・通報の内容(対象となる事実)をはっきり(前回の記事でお伝えしたようにファクトベースで具体化)させることに集中し、その事実が本当にあったのか(存否)については、あまり意識をしない」ということです。

「それ、本当にハラスメントなの?」という心の声を徹底的に抑え、「事実として、どんな言動があったのか」を聞き出すことに集中せよ、ということです。

通常、一次調査は、被害者(もしくは周囲)から通報が入った直後、15分から30分程度、電話や対面でお話を聴くことからはじまります。このわずかな時間で、被害者との最初の信頼関係を構築し、何が起きたのかを、できる限り客観的に聞き出さなくてはなりません。だからこそ、まず、一次調査は、あくまで被害者の声を聞き、整理することに徹しましょう。

たとえば前回記事で挙げたケース「Bさんから『Aさんにひどいことを言われた。』と訴えがあった場合」を考えてみましょう。

通報を受けた担当者は、
「それはいつ、どんな場面でのことですか?」
「具体的にはどのような発言があったのですか?」
などと、あくまで、「Bさんが把握している事実(ファクト)」を聞き出していく必要があります。
聞き取り方の詳細は前回の記事を参照してください。>>こちら

この際、「本当にハラスメントがあったのか?」という事実があったかなかったか(存否)を意識すると、存否を判断する上で必要なことを尋ねたくなってしまいます。たとえば、次のような発言です。

「Aさんが何かミスをしたなど、Bさんが怒る原因に心当たりはありませんか?」

もしあなたがAさんだったら、この時点で「この担当者に話しても、無駄かもしれない」と思いませんか?
このように、Aさんにも原因があったんじゃないかとか、本当にそういうことがあったのかとか、疑いを持つスタンスで聴き取りを行うと、被害者の声を聞き落としやすくなります。

そうならないためにも、一次調査ではあくまで被害者の声を聞き、整理することに徹するよう、私は心がけています。

一般的には、この一次調査は弁護士等ではなく、事業主の担当者によって行うことも多いでしょう。
聴き取りに慣れていない人が一次調査を担当する場合、誤解を恐れずに言うと、聴き取り側の主観や思い込みが入りやすい点にも注意してください

たとえば上記の例であれば、「Bさんは確かに怒りっぽいけど、Aさんももう入社して3年も経つのに、ミスが多い。どっちもどっちじゃないの。」という思考が頭をよぎることは十分に起こり得ます。
しかし、このような思考は、解決から遠ざかってしまいます。そういう「原因」を解決する場ではないからです。

そうならないよう、繰り返しになりますが、一次調査では「それ、本当にハラスメントなの?」という心の声を徹底的に抑え、「事実として、どんな言動があったのか」を聞き出すことに集中しましょう。

時には、被害者が「つらかった」「ひどいことをされた」と感情的に繰り返し、なかなか具体的な話を引き出せない場面もあるかもしれません。
もちろん、被害者の受けとめ方や感情はとても大事ですし、寄り添って聞くことは、被害者との信頼構築のためにも重要です。

しかしその一方で、被害者は「適切な問題解決」も希望しています

問題解決のためにも、一次調査の段階で、ファクトベースでの被害者の相談・通報の内容(対象となる事実)の特定は必要不可欠です。
「つらかったですね」と寄り添いながら、被害に関心を持つ姿勢で「それで、誰が、誰に、いつ、どのようなことをしたのですか?」と行為を具体的に尋ねていきましょう。

具体的な訴えを把握してから二次調査に入る

一次調査において、無事に被害者の相談・通報の内容(対象となる事実)をファクトベースで特定したら、いよいよその事実の存否を明らかにしていきます

なぜなら結局、事実認定とは、「対象となる事実を明確にし」「その事実の存否を判断し」「存在する事実について法的評価を加える」ことだからです。

この「被害者の相談・通報の内容(対象となる事実)があったのかなかったのか(存否)」を判断するための調査を、私は「二次調査」と呼んでいます。

繰り返しになりますが、一次調査と二次調査は役割が異なりますので、私は明確に分けて聴取・調査することを心がけています。そこで、次元が違うという意味を加えて、「一次調査」「二次調査」と呼び分けているのです。

二次調査をどう進めていくかは、次回お伝えします。
まずは一次調査と二次調査の違いをはっきりと知り、ハラスメント対応の初動をミスしないよう、被害者に寄り添うイメージトレーニングをしておいてください。お楽しみに。



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