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ハラスメント防止対策は事業主の義務!就業規則の書き方や解釈のポイントを解説
こんにちは、非営利組織とコンプライアンス研究会の代表世話人を務める弁護士・塙 創平(はなわ そうへい)です。
「ハラスメント対応」を学ぼうとすると、だいたい「どのようにハラスメントを防止するか」「起きてしまったら被害者をいかに守るか」にスポットがあたっています。
一方で、加害者対応に関する事前準備の機会は非常に乏しい。
この結果、加害者にいざ対応しようとすると「そんなつもりではなかった(ハラスメントの意図はなかった)」と言われてしまい、「ハラスメントにあたるのかどうか」に悩み、右往左往した結果、こじれにこじれる……そんな事例を嫌というほど見てきました。本当に嫌というほど。
そこでこのnoteでは、ハラスメントが起きた時、組織内で、加害者に対し「何に基づき」「どのような対応をするのか」について、お話しようと思います。
今回はまず、事業主が整備すべき組織内のルールについて説明します。
私が「すべき」ということは、「必ずやっておいて」ということですからね。この記事を読んだら、自分の職場が事前準備できているか確認し、していない場合は、「必ずやって」下さいね。
事業主が講ずべき「雇用管理上必要な措置」とは
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以前の記事でもお伝えしたとおり、事業主は、パワハラ、セクハラ、マタハラ等によって、労働者の就業環境が害されることがないように、「雇用管理上必要な措置」を講じる義務があります。これは、各種法律により定められています。
さらに、この「雇用管理上必要な措置」は、以下のように「厚生労働大臣の指針」によって具体化されています。
パワハラの場合:事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針
(令和2年厚生労働省告示第5号)【令和2年6月1日適用】セクハラの場合:事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針
(平成18年厚生労働省告示第615号)【令和2年6月1日適用】マタハラの場合:事業主が職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針
(平成28年厚生労働省告示第312号)【令和2年6月1日適用】
これらの指針では、以下の大項目が掲げられています。
(1)事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
(2)相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
(3)職場におけるハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応
(4)マタハラについては、「職場における妊娠、出産等に関するハラスメントの原因や背景となる要因を解消するための措置」
(5)(1)~(4)と併せて講ずべき措置
(1) 事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発について、もう少し具体的に言うと、次の2点がポイントです。
ハラスメントを行ってはならない旨の方針を明確化すること
ハラスメントを行った者については、厳正に対処する旨の方針及び対処の内容を、就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書に規定し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発すること
つまり、こういうことです。
「ハラスメントを許さない」という方針をしっかり打ち出してしてますか?
ハラスメントを行った者に対し、「厳正に対処する」旨の方針をはっきり(書面で)打ち出していますか?
単にルール化するだけではなく、全ての働いている人に、しっかりと伝え、正しく理解してもらってますか?
…法律が、事業主に対して、ここまでのことを義務として要求しているわけです。事業主が越えないといけないハードルは、とても高いのです。
就業規則におけるハラスメントの禁止
このように事業主の義務が定められていても、特に中小企業や非営利組織など、具体的にどうしていいかわからない事業主も多いかと思います。
そこで参考になるのが、厚生労働省労働基準局監督課が定める「モデル就業規則(令和5年7月版)」です。(外国語版や、やさしい日本語版もあり親切!)
モデル就業規則では、上記「厚生労働大臣の指針」を踏まえ、ハラスメントについて以下のように定めています。
(職場のパワーハラスメントの禁止)
第12条 職務上の地位や人間関係などの職場内の優越的な関係を背景とした、業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により、他の労働者の就業環境を害するようなことをしてはならない。
(セクシュアルハラスメントの禁止)
第13条 性的言動により、他の労働者に不利益や不快感を与えたり、就業環境を害するようなことをしてはならない。
(妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメントの禁止)
第14条 妊娠・出産等に関する言動及び妊娠・出産・育児・介護等に関する制度又は措置の利用に関する言動により、他の労働者の就業環境を害するようなことをしてはならない。
(その他あらゆるハラスメントの禁止)
第15条 第12条から前条までに規定するもののほか、性的指向・性自認に関する言動によるものなど職場におけるあらゆるハラスメントにより、他の労働者の就業環境を害するようなことをしてはならない。
「〇〇な言動をしてはならない」ではなく、「〇〇な言動により、他の労働者の就業環境を害するようなことをしてはならない。」となっているのが大切なポイントです。
以前の記事でも、「職場において、他の労働者の就業環境を害する、◯◯な言動は、全て、直ちに違法…とはいえません」ということをお伝えしました。これらは、法律が「何人も、職場において、他の労働者の就業環境を害する、◯◯な言動をしてはならない。」という形で定めていないことによるものです。
法律では、労働者に対しては「事業主の措置に協力するように努めなければならない」という努力義務にとどまっています。(「義務」という言葉はついていますが、いわゆる法的な拘束力のある義務ではないものです。)
条文をみてみましょう。
<パワハラの場合>
"労働者は、優越的言動問題に対する関心と理解を深め、他の労働者に対する言動に必要な注意を払うとともに、事業主の講ずる前条第一項の措置に協力するように努めなければならない"
<セクハラの場合>
"労働者は、性的言動問題に対する関心と理解を深め、他の労働者に対する言動に必要な注意を払うとともに、事業主の講ずる前条第一項の措置に協力するように努めなければならない。"
<マタハラの場合>
"労働者は、育児休業等関係言動問題に対する関心と理解を深め、他の労働者に対する言動に必要な注意を払うとともに、事業主の講ずる前条第一項の措置に協力するように努めなければならない。"
つまり法律上、ハラスメント対応が義務付けられているのは事業主だけです。
だからこそ、事業主と労働者の間の契約の一部となる就業規則に、ハラスメント防止を具体的に盛り込むことが大切なのです。
就業規則における懲戒規定
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就業規則で定めた内容は、事業主と労働者の間の雇用契約の内容となります。ですから、労働者は、事業主との関係では、就業規則で定める義務を負うことになります。
上記の「ハラスメントの禁止」や次に示す「懲戒の事由」を掲げることで、事業主は、ハラスメントがあったと判断した場合、行為者に対し、けん責、減給、出勤停止、懲戒解雇といった就業規則が定める懲戒処分をすることができるわけです。
「モデル就業規則(令和5年7月版)」では、懲戒の事由を次のとおり定めています。
(懲戒の事由)
第68条 労働者が次のいずれかに該当するときは、情状に応じ、けん責、減給又は出勤停止とする。
(中略)
⑤ 第11条、第12条、第13条、第14条、第15条に違反したとき。
2 労働者が次のいずれかに該当するときは、懲戒解雇とする。ただし、平素の服務態度その他情状によっては、第53条に定める普通解雇、前条に定める減給又は出勤停止とすることがある。
(中略)
⑥ 会社内において刑法その他刑罰法規の各規定に違反する行為を行い、その犯罪事実が明らかとなったとき(当該行為が軽微な違反である場合を除く。)。
⑦ 素行不良で著しく社内の秩序又は風紀を乱したとき。
⑧ 数回にわたり懲戒を受けたにもかかわらず、なお、勤務態度等に関し、改善の見込みがないとき。
⑨ 第12条、第13条、第14条、第15条に違反し、その情状が悪質と認められるとき。
*補足:第11条は一般的な遵守事項、12〜15条は上で紹介したハラスメント行為を禁止する定めです。
万が一就業規則にハラスメントについて定めていなかった場合でも、多くは「素行不良で著しく社内の秩序又は風紀を乱したとき」にあたるとして、懲戒処分は可能です。
ただ、既にお伝えしたとおり、事業主は、「雇用管理上必要な措置」として、「就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書に規定」することが求められています。まだ就業規則に定めがない場合は、すぐに追加をしておきましょう。
職場におけるハラスメントの防止に関する規定
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事業主によっては、「ハラスメントを行ってはならない旨の方針を明確化」するため、就業規則とは別にハラスメント防止規程を定める例もあります。就業規則に定める方法だとうずもれてしまうと考えたためですね。その場合、就業規則には、次のように定めましょう。
(職場におけるハラスメントの禁止)
第 条 パワーハラスメント、セクシュアルハラスメント及び妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントについては、第 条(服務規律)及び第 条(懲戒)のほか、詳細は「職場におけるハラスメントの防止に関する規定」により別に定める。
職場におけるハラスメントの防止に関する規程は、鹿児島労働局が掲載している例が参考になります。
別途規定を定めることは、就業規則に載せる場合と異なり、ハラスメントの相談窓口の設置なども盛り込める点はとてもよいです。
一方で、たくさん社内規程があると定めの内容を把握しきれなくなってしまうこともあるので気をつけましょう。
…実際、よく見かけます、そういう組織。
私は、ハラスメント禁止の詳細は就業規則に定めることを原則とし、相談窓口の設置等、組織の管理上定める事項については、コンプライアンス規程を別途定めることをお勧めしています。
まとめ
ハラスメント対応において、事業主が整備しなければならない組織内のルールと、労働者がハラスメント禁止に努めなければならない根拠についてお伝えしました。
次回は、実際にハラスメントが起きてしまった場合の、ルールに基づく懲戒処分の具体的な決め方について解説します。お楽しみに。
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