【事業主必読!】ハラスメントを防ぐ・許さない文化を創るために今すぐやるべきこと【前編】
こんにちは、非営利組織とコンプライアンス研究会の代表世話人を務める弁護士・塙 創平(はなわ そうへい)です。
いよいよハラスメント編最終章です。ハラスメントを防止する施策について具体的にお話しましょう。
未だに、ハラスメントとはハラスメントを起こす「人」に問題がある。
だから「組織」としてできることはない(または少ない)。どこかでそう思っていませんか。何もしなかったら、足元で(場合によってはあなた自身が!)ハラスメントに直面すると思って、読んでいただければと思います。
組織としてハラスメント対策を「掲げる」意義
採用面接ではすごく感じが良かったのに、こんなにパワハラ気質だったなんて採用に失敗した……! どこの事業所でも、一度は経験があるでしょう。
もしハラスメント気質の人に来てほしくなければ、今から、事前対策・事後対応を率先してやりましょう。なぜなら、加害者はみな、ガードのゆるそうな事業者に、仕事への熱意をアピールして入ってこようとするからです。
事件が起きてから、いつもみんな、「熱意のある人だった」「評判のいい人だった」「採用時の面接でより一層注意して」……と口を揃えて言いますが、入ってきて欲しい人とハラスメントをする傾向の強い人を採用面接で見分けることはまずできません。残念ながら、人には、人を見る目なんてものはないのです。
やれることは、「うちでハラスメント問題を起こしたらこうなりますよ」「相談窓口などの制度を整えてあなたの行為を見逃しませんよ」「これだけ研修をやるくらい、うちはハラスメントにうるさいですよ」ということを普段からアピールしまくることです。
昨今コンプライアンスはかなり厳しく対処する企業や事業所が増えました。では、居場所がなくなったハラスメント気質の人はどこへ行くのでしょうか。もちろん、対策がゆるそうな事業者のところへ行きますよね?
きちんとハラスメント対応をしておかないと、「これまでより、格段に採用リスクがあがる」、というわけです。周囲が対応してからやる、では、他よりうるさい組織とは見てもらえません。是非、率先して進めるようにお願いします。
国が義務付ける事業主のハラスメント対応
今やハラスメントに関する数多くの条文とこれに対応する指針が生まれていますが、根っこにあるのは、男女雇用機会均等法第12条が定めたいわゆるセクハラについてです。
この条文に、厚生労働大臣は、「適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置」(義務)について指針を定める、と書いてあります。
これによって、平成18年に「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」(いわゆるセクハラ指針)が定められました。その後、順次、改正されています。
パワハラ、マタハラについても、セクハラと同じように「適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置」(義務)を定めた条文を受けて、厚生労働大臣が、これらの措置について指針を定めています。
詳しくは以前の記事をご参照ください。
それぞれのハラスメントについて、事業主が講ずべき措置が各指針に記載されているわけです。ただ、事業主は、全ての指針を読む必要は必ずしもありません。なぜなら、事業主が講ずべき措置は、ほぼ、セクハラ指針をもとに作成されている「コピペ」といえるからです(なお、悪い意味ではありません。)。
そこで、セクハラ指針をもとに解説していきます。
厚生労働省が作っているパンフレットでは、事業主がやるべきことを以下の10項目に整理をしています。
…ちらっと画像を見ただけで、こんなにやらないといけないことあるの、と読む前にすでに諦めたい気持ちになりますね(笑)。
ただ、指針をもとに項目立てするとこのような表現になるだけで、ひとつひとつの項目は相互に関連し合っていますし、特に大項目3に関してはこれまで対応の仕方を説明してきた部分です。ここで歩みを止めずに頑張りましょう。
以下、順に説明しますのでご安心ください。
【事前準備】
「方針の明確化」と「方針の周知・啓発」
上記10項目の(1)と(2)の内容となります。
ステップ1.方針の明文化
組織が、ハラスメントについて「どう臨むか」方針を明確にして下さい。ハラスメントを許すのか、許さないのか(許す、という選択肢はないですよね…)。許さないとして、実際に起きた場合、行為者に対してどのように対応するのか。就業規則やハラスメント・ポリシーに記載します。
ステップ2.周知・啓発
就業規則やハラスメント・ポリシーに記載するだけでは、絵に描いた餅ですから、ちゃんとそれを周知・啓発する必要があります。まずは、ポスターを貼ったり、相談窓口を案内したりすることになります。
ステップ3.研修
さらに、ハラスメントについては、このnoteでも何回にも分けて説明したように、法的評価を含むとても難しい概念です。つまり、「単に許さない」と発表しても、自分がやっていることがハラスメントになるという自覚のない人が多い。したがって、これを防ぐには、少なくとも実効的な研修を行う必要があるでしょう。
非営利組織であれば、塙などはいかがでしょうか!(笑)
基礎から実践までを網羅した非営利組織のハラスメント研修の実施回数は、私の右に並ぶ者はいないと自負しております!
過去の研修例>>
【事前準備】実質的な相談窓口の設置
上記10項目の(3)と(4)の内容となります。
事業所はまずハラスメントの相談窓口を置くことが定められています。
この窓口は形式的な名ばかり相談窓口ではなく、具体的に「内容や状況に応じ適切に対応できる」、「広く相談に対応する」、実質的に機能する相談窓口でなければなりません。
法律上も、「当該労働者からの相談に応じ、適切に対応する」ことが、事業主が講ずべき措置の代表例として例示されているように、この措置は最も重要です。
では実際に、相談件数はどのくらいあるのでしょうか?
実は、100人従業員がいる場合、年に1回以上、相談や通報があるのが適正水準と言われています(私はもっと多くあるべき!と思っていますが。)。
そのような規模の組織では、外部にも相談窓口を設置(委託)するという方法があります。
窓口担当者の育成にかかるコスト面でもオススメですし、小規模な組織では、相談した時点で面が割れてしまい(匿名性がない)そもそも相談しにくいという壁があるので、この壁を乗り越えやすい外部相談窓口の設置はオススメです。
(内部の人だと、一生懸命育成しても「辞めてしまう」というリスクもあります。その場合、また一からコストがかかります……。)
相談者のニーズの点から言えば、中規模以上の組織であっても、外部相談窓口の設置はオススメです。 少なくとも今(2024年)の時点では、外部相談窓口の設置の有無は、ハラスメント対策を本気でやっている組織か否かの目印になると思います。
ここまでのまとめ
長くなりましたので、(5)以降については次回の記事でお伝えします。
国の指針をもとに、事業主に義務付けられたハラスメント対応をお伝えしていますが、基本は、これまでにお伝えしてきたことと同じです。
事業主が講じる対策は、「ハラスメントを許さない」という気持ちを、言葉で終わらせず客観的で具体的な形にするという作業になります。
研修や相談窓口など、事業所内で抱え込まずに、どんどん専門家などに依頼して、外の風をいれることも、大切です。
ハラスメントが減り、みなが健やかに働けたら、職場の生産性も大幅に上がり、さらに良い人材が増えていくことでしょう。
それを目指して、事業主のみなさまも頑張っていきましょう。