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ハラスメントの事実認定(3)最短距離で解決に導く方法|二次調査〜報告書作成

こんにちは、非営利組織とコンプライアンス研究会の代表世話人を務める弁護士・塙 創平(はなわ そうへい)です。
前回記事では、ハラスメントの事実認定をおこなうための調査のうち、「何が起きたのか?」を被害者(通報者)から聴き取る「一次調査」の方法についてお伝えしました。(*もしまだこちらの記事を読んでいない方は、先に読むことをおすすめします。)

今回は、具体的な訴えを把握したあとの「二次調査」の進め方〜報告書の作成までをお伝えします。

調査対象事実の存否を検討する(二次調査)

一次調査において、無事に被害者の相談・通報の内容(対象となる事実)をファクトベースで特定した後は、その事実の存否も大事です。
なぜなら、結局、事実認定とは、対象となる事実を明確にし、その事実の存否を判断し、存在する事実について法的評価を加えることだからです。

この「被害者の相談・通報の内容(対象となる事実)があったのかなかったのか(存否)」を判断するための調査を、私は「二次調査」と呼んでいます。

繰り返しになりますが、一次調査と二次調査は役割が異なりますので、私は明確に分けて聴取・調査することを心がけています。そこで、次元が違うという意味を加えて、「一次調査」「二次調査」と呼び分けているのです。

1、客観的な資料集め

二次調査の際、いきなり加害者(調査対象者)から聴き取りをしてはいけません。
一次調査で被害者(相談者、通報者)から既に聴き取りをしていますから、つい、反対の立場の意見を聞きたくなってしまいますが、それは一番最後です。

まずは、客観的な資料を集めます

例えば、一次調査の結果明らかになった対象事実が、LINE等のSNSやチャットツールを通じて送信されたのであれば、その事実は履歴として残って(記録)されているはずです。これをまず確認するのが最も客観的です。

その他、行為そのものではなくても、日時や場所に関する情報は、客観的な証拠があることが多いですから、集めましょう。

「◯月◯日の会議において、ハラスメントが行われた」という訴えがあって調べてみたら、そもそも当該人物は出席していなかった……なんてことも、ないわけではありません。

2、第三者からの聴き取り

次に、一次調査の結果明らかになった対象事実が、第三者の前で為されたものであれば、この第三者は、加害者や被害者よりは客観的です。
そこで、この第三者から聴き取りをしましょう。この聴き取りの際、可能であれば、録音などを許可してもらうと、容易に証拠化することができます。

3、加害者(調査対象者)への聴き取り

最後に、当事者である被害者や加害者(調査対象者)の聴き取りです。
順番としては、まずは被害者、そして最後に加害者の順で聴くのが望ましいです。

特に加害者への聴き取りは、一発勝負だと心得ましょう。
人の記憶は曖昧な上に、誰しも、自分に不利になるようなことは話したがりません。最初からハラスメント行為を認める加害者など、まず存在しません。
よって、主観的な証言は、重要な事実が隠されていたり、内容が途中で変遷したりすることがあります。

そこで、こちらから客観的な証拠に基づいて尋ねたり、話すことで、記憶を整理させたり、証言との矛盾を指摘したりすることが可能となり、相手の反応を見て、対象事実の存否を判断しやすくなります。
もし客観的な証拠を集めることが後手に回ると、聴き取りからこのような確認をおこなえず、存否が判断できないばかりか、証拠を隠滅される恐れも生じます。
だからこそ、基本的には一発目の聴き取りが大事、一発勝負です。万全の体制で臨むためにも、客観的な証拠から集めるようにしましょう。

調査結果の書き方

調査が終わったら、結果をまとめた報告書を作成します。

簡潔に事実を記す

調査結果をまとめる時は、主語、目的語、日時、場所を明確にしましょう。
文章を書くときには、5W1Hが大事と皆習ってはいるはずです。今こそ実践の時です!
ただし、HowとWhyは後回しでOKです。4W(Who, When, Where, What)を徹底するようにしましょう。
その際、主語を、必ず、人にしてください。物や、状況等を主語にしてはいけません。

Aは、2025年7月5日、Bに対し、第1会議室で、右拳を振り上げ、Bの下腹部を殴りつけた

これでいいのです。あとは加えるとしても、接続詞くらい。
こういう味も素っ気もない文章を時系列順に並び替えることで、本来あるべき事実の見落としや、時系列的に起こりえないことが浮かび上がってきます。
調査結果をまとめる際に、文学的な表現は忘れて下さい。ファクトベースから離れていくので、修飾表現は最小限にしましょう

調査結果の「固さ」で濃淡をつける

最も、固い(確実であり、動かせない)事実は、過去に記録された客観的な証拠です。

たとえば、暴力行為を受けた際の診断書や、メッセージの記録そのものなどが当てはまります。

もし1つの証拠で調査対象事実の存否が判断できない場合でも複数の証拠の存在があれば、重なり合う限度で、そこから導かれる事実を判断することができます。その証拠を固いと評価するのか、固くないと評価するのかは、実のところ調査担当者の判断に委ねられがちです。

ただし、調査対象事実(ハラスメント)があると判断された場合、その後は通常、懲戒処分などの不利益処分が予定されます。そのことを踏まえると、安易に「その証拠を固い」と評価することについては、抑制的でなくてはなりません。

そのため私は、客観的な証拠の収集と、ファクトベースと時系列での対象事実の整理を徹底しています。調査対象者の認否にかかわらず、できる限り客観的な証拠から、調査対象事実の存否を判断できるようにするためです。

複数の証拠をもってしても調査対象事実の存否を判断しきれなかった場合でも、「調査対象事実がある可能性が高い」というあたりがつく時があります。
そこで一つ一つの証拠に基づいて聴き取りを行うことで、調査対象者が仮に否定したとしても、それぞれの証拠に対する言動から、事実の存否を判断しやすくなります。

客観的事実の収集は正直大変ですが、証拠評価に迷いが生じた状態で調査対象事実の存在を認定してしまわないように心がけています。

存在すると判断した調査対象事実について、法的評価を加える

さぁ、ここまできてようやく法的評価を加えます。長い道のりでしたね。

存在すると判断した調査対象事実については、問題行動判断の4段階基準などを用いて、法的評価を加え、結論を出すことになります。

この法的評価については、専門知識を要することもあるので、少しでも迷いがある場合は必ず専門家に相談して下さい。

ハラスメントのまとめ

まとめると、事実認定とは、対象となる事実を明確にし、その事実の存否を判断し、存在する事実について法的評価を加えることです。

各段階での、細かい注意点があることも、わかっていただけたと思います。

このように、ハラスメント対応はとにかく難しいです。
すこやかに働ける職場づくりは、一朝一夕にはままなりません。

しかし、簡単に実現できないからこそ、「すこやかに働ける職場づくり」という理想があるわけです。是非、一緒に、すこやかに働ける職場づくりを目指していただければ幸いです。

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