【内部相談窓口の作り方:前編】どうやって担当者を決める?人選とメリット・デメリットを紹介
こんにちは、非営利組織とコンプライアンス研究会の代表世話人を務める弁護士・塙 創平(はなわ そうへい)です。
前回の記事までで、ハラスメントについては語り尽くした!と達成感を覚えていました。
ところが、【前編|事業主必読!】ハラスメントを防ぐ・許さない文化を創るために今すぐやるべきことを読んだ方から、「実質的に機能する相談窓口」といわれても、何からやればいいかわからない!とありがたいご意見をいただきました。
これまでも、ハラスメントを防止するために組織をどう整備・対応したら良いかというのはお伝えして来たつもりでしたが、これは自分にとっての「つもり」であり、受け手(今回なら読者のみなさま)にとっては違うということを反省しました。この送り手と受け手のギャップはまさに、ハラスメントとも同じですね!(笑)
そこで、ハラスメント防止の第一歩である「より具体的な話をすること」に沿って、今回は、「実質的に機能する相談窓口」を作るために、そもそもどうやって相談窓口の担当者を選ぶのか(形式的相談窓口)についてお話をしようとおもいます。
事前に相談窓口「担当者」を決めなくてはならない
何度も紹介してきた条文です。
事業主は、「当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制」として、相談窓口をおく法律上の義務があります。
非営利組織だからいいでしょ、とか、うちはそんな規模ではないから…という話を未だに聞きますが、法律上の義務を果たさずに、重大な事件がおきたら、それはすべて事業主の責任になる、と思っておいてください。
ハラスメント対策の一丁目一番地は、「相談窓口をあらかじめ定めること」です。まずは、形式的にでも、相談窓口を置くことが肝心です(形式的相談窓口)。そのためにも、相談窓口「担当者」を定めましょう。担当部署名ではなく「個人名」です。
内部相談窓口における担当者の定め方
部署ではなく個人を任命する必要があるので、組織内で誰を相談窓口担当者にするか決めるのは、実はとても難しい話です。
候補にあがるのは、以下の部署の方でしょうか(他にもあれば教えてください!)
以下、順に検討していきましょう。
(1)リスクマネジメント部門
私は、組織の規模を問わず、リスクマネジメントの司令塔になるようなチームをあらかじめ作ることをおすすめしています。
ここでは、このようなチームのことを「リスクマネジメント部門」と呼びます。リスクマネジメント部門に、相談窓口を置くことが最もおすすめです。
組織内でコト(コンプライアンス違反)が起きた時、最初の役員会開催に漕ぎ着けるまでの壁は高いです。多くの人が、「この出来事は、そんなに重要ではない」と思い込みたいからです。
しかし、リスクが表に出たとき、様子を窺いながら悠長に対応していると状況がどんどん悪化するのは、多くの大企業が炎上している例をみれば明らかでしょう。
即座に意思決定して行動していくためには、コトが起きる前に「誰がリードして」「どんな流れで」対応しておくかを、あらかじめ決めておくことがとても大切です。
リスクマネジメント部門であれば、外に対する想像力も、業務執行のチェックも、役員との連携も可能ですから、相談窓口の役割を十分に果たすことができます。
非営利組織であれば、リスクマネジメント部門という名前ではなく、コンプライアンス規程に基づくコンプライアンス委員会がその任を果たすことになるでしょう。
そのメンバー又は事務局の誰かを、相談窓口担当者として任命しましょう。
(2)内部監査部門
一定規模以上の組織であれば、その名称はともかく内部監査部門があると思います。内部監査部門はもともと、内部から業務執行のチェックを行う部署ですから、相談窓口のような対応にも長けています。
内部監査部門を相談窓口担当者とするデメリットは、そもそも一定規模以上の組織でないと、そもそも内部監査部門を持つことが難しい点にあります。
また、内部監査部門は、書類の整備や業務をマニュアルに沿ってやっているかなど、「やらないといけないことをちゃんとできているか」チェックするのが得意なので、ハラスメントのように「やらなくていいこと(やるべきでないこと)をやった」場合の対応は、実はあまり得意ではありません。またリスクマネジメント部門に比べると、外に向けて芽を探すというより、内に向けて芽を潰すことに長けています。
(3)人事や総務の方
どこの組織にもあり、相談窓口担当者として、最初に候補になりやすいのは、人事や総務の方です。
人事や総務の方は、日常的にハラスメント防止を呼びかける部署になりがちですから、その一環として相談窓口担当者として指名されることが多いです。
人事や総務の方を相談窓口担当者とするメリットは、人事や労務のことについて所管している部署なので、相談窓口になっていても違和感がない点です。日常の人事・労務の相談の延長で相談窓口を使ってもらえる可能性があります。特に人事や労務について、古株の従業員の方がいる場合、その方が相談窓口担当者になっていると、相談する人にとって心強いかもしれません。
一方デメリットは、人事や総務の方は、退職の過程で従業員と対立する立場になることも多いという点です。その場合、相談者から見ると、相談窓口担当者は組織側の人間にしか見えませんし、相談窓口担当者本人も複雑な立ち位置に悩む可能性があります。
ですから、安易に人事や総務の方を相談窓口担当者とすることは避けたほうがいいと思います。
弁護士は「平場」と「修羅場」という言い方をしますが、コト(コンプライアンス違反)が起きる前の日常(事前準備)と、コトが起きた後の緊急対応(事後対応)は、大きく異なります。
まず、コトが起きる前の日常では、目の前の仕事を着実にやることが求められます。
一方で、コトが起きた後の緊急対応で必要なのは、想像力(妄想力)です。ゴール*を見据えつつ、行動の選択肢ごとに、それをやるのかどうコトが動くのか、詰将棋のように「すべてのパターンを検討して、最善の手を打つ準備をする」イメージです。
つまり、相談窓口業務は、そもそも人事や総務の方にとってはあまり慣れていない仕事である可能性も十分にあります。ですから、相談窓口担当者をお願いする際は、「人事/総務だから」で決めずに、その方の適性をよく見て頂ければと思います。
(4)社外役員
人事や総務の方だと都合が悪い場合は、事業部門にやらせるわけにもいかないので、利益相反の起きにくい社外役員の方に内部相談窓口をやってもらう、という考え方があります。
果たして、「社外」役員の方が、「内部」なのか、内部相談窓口として相談にのることは業務執行なので「社外」ではなくなるのではという疑問も起きるところです。ただ、経営の監督の為、情報収集手段として窓口を担うという解釈は充分ありえます。
たとえば東京証券取引所は、上場する会社に対し、企業統治のルールとして「コーポレートガバナンス・コード」(企業統治の指針)を定めています。非営利組織の場合にも参考になると思うので、こちらを紹介します。
このように、コーポレートガバナンス・コードは社外取締役と監査役が協力して「経営陣から独立した立場で、相談窓口を担うことが望ましい」と言っているわけです。
社外役員を相談窓口担当者とするメリットは、従業員が経営者に直接相談できる点にあります。社外役員は、情報に基づいて直ちに意思決定し、行動に移せるので、迅速な解決を期待できます。また、内部相談窓口とはいっても、日常の業務のラインからは外れているので、相談者からすると、第三者的に対応することが期待できる点も大きいでしょう。
デメリットとしては、社外役員は、組織の業務執行には関わっていない建前なので、事業や社風と密接に関わる問題については、理解に達するまでに時間がかかる可能性があることです。
何より、従業員からすると、社外役員と接する機会は、一定のポジション以外はほとんどないため、縁遠く、相談しにくいかもしれません。さらに社外役員は代表者と何らかの縁があることも多いため、従業員からすると、例えば「代表者のハラスメントについて、本当に適切に対応してくれるのか?」と思ってしまう場面もあるかもしれません。
また、社外役員を相談窓口担当者に任命する場合、先に述べた総務や人事と協力し、相談窓口を気軽に利用できるという普及啓発を行うと良いでしょう。
【まとめ】内部相談窓口担当者の定め方
今回は、内部相談窓口をつくるために、だれを窓口に担当者にするかといった点をお伝えしました。
ポイントをおさらいしましょう。
…内部の相談窓口担当者を定めるだけでも、ちゃんとやろうとすると、実際かなり考えることが多いですね。
しかし、ここで踏ん張ることが、すこやかな職場づくりへの大きな一歩につながるので、頑張りましょう。
次回は、相談窓口担当者の人数や適性についてお話ししたいと思います。お楽しみに!