局所共形ケーラー多様体への誘い

序文

本ブログでは、複素幾何学の色々な概念を振り返りつつ局所共形ケーラー多様体の入門から始めて、研究課題まで論じることを目的とする。入門といっても、たとえば、複素多様体の定義から述べたりすることはない、つもりであるが、なにか新しい知見でも思いついたら、かなり初歩的な概念についても述べたりすることがあるかもしれない。まだ何も決まってないが、要するに、複素幾何学に対して、なにか付加価値のある情報を提供することも目指したい。

局所共形ケーラー多様体とは、ケーラー多様体ではない、というと語弊があるが、研究テーマとして考える局所共形ケーラー多様体は非ケーラー多様体であるということである。局所的にケーラー計量に共形となるエルミート計量の入るコンパクト複素多様体を局所共形ケーラー多様体というのである。したがって、コンパクトケーラー多様体は、自明に局所共形ケーラー多様体であって、研究課題として挙がることはない。そういう意味で、局所共形ケーラー多様体は非ケーラー多様体であると述べたのである。

非ケーラー多様体というのはあまり馴染みがないかもしれない。その名のごとく、ケーラー計量の入り得ない複素多様体なのであるが、その例は、射影代数多様体とは違い、散発的にしか見つかっていない。散発的にと言っても、無数には見つかっているが、非ケーラー多様体の存在する世界に秩序というのは、いまだ茫漠としていると筆者は考えている。非ケーラー多様体というのは、あまり見つかってないだけで、複素多様体としてありふれているのかどうかよくわからない。またどういった理論的な縛りがあるのかもあまりわかってない。その中で、局所共形ケーラー多様体というのは、例外的に秩序だった理論のある非ケーラー多様体の一群であると思われる。

局所共形ケーラー多様体の理論に入る前段階として、非ケーラー多様体について面白い例をいくつか挙げてみよう。
ちなみに非ケーラー多様体というが、考える多様体はすべてコンパクト性を仮定する。非コンパクト複素多様体の場合も非ケーラー計量を考えることはできるが、その理論的な内容は、現時点では、ほぼ見られないからである。コンパクト性を仮定しても、非ケーラー計量の本質は、ケーラー計量の場合と違って、まだよくわかってないが、それでも、非ケーラー多様体のトポロジーを制限する定理が知られている。ある種の特徴的な非ケーラー計量の存在などを調べる際に、複素多様体のコンパクト性などを仮定したりもするので、本ブログでは考えている複素多様体はすべてコンパクトとする。なお非コンパクト複素多様体の研究も豊富にあることに注意しておこう。ただそれらは関数論的な動機に基づく研究結果であり、筆者には述べることはできない。

閑話休題、非ケーラー多様体の例を述べよう。

非ケーラー多様体として最初に存在が知られたのは、おそらくホップ多様体であろう。古典的なホップ多様体は、複素射影空間上の、楕円曲線束である。二次のベッチ数が消えるので、明らかにホップ多様体にはケーラー計量は入り得ない。複素射影空間には多くの部分多様体があるので、ホップ多様体の存在から、無数に非ケーラー多様体の例が生じることも明らかであろう。例えば、複素射影空間に埋め込まれたカラビヤウ多様体の楕円曲線束への引き戻しは非ケーラーであり、標準束が自明になる面白い例ではないだろうか。
また非ケーラー多様体で、計算を容易に実行できる冪零多様体というものも古くから研究されていたようである。これは冪零リー群を格子で割った多様体であり、実6次元までの冪零多様体で複素構造の入るものがすべて分類されている。冪零多様体は、計算の多くを線形代数に帰着できるので、幾何学的な量を具体的に手で計算できるメリットがある。面白い研究もあり、もし機会があれば、本ブログでも紹介したい。
では、非ケーラー多様体には、どういった計量を定義できるのであろうか。非ケーラー多様体の研究で、研究の一方向として課題になったのは、非ケーラー多様体の計量による分類であろう。

計量と簡単に言うが、古くから考察されていて、定義の簡明さにもかかわらず、複素多様体の構造に制約をつけることが多いようである。そこで、本ブログは、まず計量とは何なのかということから始めていきたい。非ケーラー多様体に特徴的な計量も多く定義されているので、それらも紹介する。また、計量とは、通常は滑らかさを仮定するが、特異性をもった計量、つまりカレントを考えることにより、非ケーラー多様体をとらえる面白さもあるようである。特異性を許した計量を考えることにより、射影代数多様体を特徴づけたホッジ計量を非ケーラー多様体の世界に一般化することができるからである。そういった多様体をクラスCのコンパクト複素多様体というが、ケーラー性を引き継ぎつつ、まだ未解明なことも多くあるように思われる。それらも、今後、述べていきたいと思う。述べる内容は、できるだけ研究レベルになる内容にしたいと思う。

先述したように、局所共形ケーラー多様体は局所的にケーラー計量に共形なエルミート計量の入るコンパクト複素多様体である。ケーラー計量に限らず、すべての計量概念に局所共形な定義を与えることができる。また局所共形クラスCなるコンパクト複素多様体も考えることができる。本ブログの目標としては、以上の複素幾何の諸概念について触れつつ、局所共形ケーラー多様体について調べ、できれば面白いことを書いたりして、最終的には局所共形クラスCの概念まで述べ、筆者に興味のある研究課題を書ききることとしたい。

本ブログの序文は以上である。本ブログでは、筆者の力不足にも関わらず、結構思い切ったことも書こうと思うので、不正確な表現や、時には間違ったことも書くかもしれないが、読み手としては面白いものの方が良いと思うので、ご容赦頂きたい。局所共形ケーラー多様体の専門家は日本にはほとんどいない。世界をみても、あまり研究者人口は多くないので、局所共形ケーラー多様体に関しては、基本的な事項を勉強すれば、すぐに研究課題に入っていけるであろう。本ブログで非ケーラー幾何や局所共形ケーラー多様体に関して興味を持ってくれる人が増えれば、筆者としては幸甚である。


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