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フィクションのフレームがゆらぎを見せるとき。「ベイビーわるきゅーれ ワンダフルデイズ」を見る(※ネタバレあり)。

目次
1.そもそも
2.格闘シーンの身体性
3.「ため」としての「ぐだぐだ」
4.世界観
5.殺しても、忘れない
6.試されるファン
7.笑うまひろ


1.そもそも


評価が高いのは、1作目から知っている。配信になって初めて見た。かさにかかったコンビニ店長と、バイトに応募した若い女性の要領を得ないやりとり。これがずっと続くのかと思ったのだが、急転直下の展開。さらにバックヤードから店内に舞台を移し、格闘シーンが続く。

2.格闘シーンの身体性


相手の攻撃をかわし、あるいはかわしきれずに受け、今度はこちらの攻撃に。攻撃は防御に転じ、防御はまた攻撃に転ずる。時にはフェイント。流れるように身をひるがえし、自分のターンと相手のターンを延々と繰り返す。この連続性によって、格闘シーンは、身体性を獲得する。接近戦は、必然的に長回しにならざるを得ない。闘っていたのは、まひろ。ちさとが現れけ決着をつける。
と、思ったら、よもやの「夢落ち」なのだ。だが、これだけで映画の性格は、観客に充分に伝わる。「ベビわる」の世界に一気に引きずり込まれる。

3.「ため」としての「ぐだぐだ」


闘いの後は、ぐだぐだとしたシーン。
このぐだぐだは、投球前のバックスイングのような「ため」を作る。この「ため」が闘いのシーンの瞬発力を高める。

4.世界観


同じ監督の作品に「最強殺し屋伝説国岡」がある。公式ホームページはドキュメンタリーと称しているが、フェイクドキュメンタリー、あるいはモキュメンタリーである。
「ベイビーわるきゅーれ」の脚本の執筆中に、殺し屋「国岡」の仕事と日常を取材するという趣旨である。この「ドキュメンタリー」の取材で語られる殺し屋たちの世界。殺し屋が①リーマン②フリー③野良(のら)の3種類に分類されることや、殺人後の死体処理業者が存在するなどが紹介され、この成果を「ベイビーわるきゅーれ」の脚本に生かすという設定である。

さて「ベイビーわるきゅーれ ワンダフルディズ」である。1,2作目を鑑賞し、3作目にして、映画館に足を運ぶ。

5.殺しても、忘れない


深川まひろと史上最強の殺し屋、冬村かえでの二度目の対決。
かえでは、「あんた強いな、俺と闘った中で一番だ。あんたが闘った中で、一番強かったのは誰だ?」と、まひろに語りかける。
この問いに、まひろは一瞬、言葉を詰まらせる。虚を突かれた。かえではストイックで、心理戦を企む性格ではない。無意識のうちに発したひとことが、ヒットとなり、まひろの動揺を誘う。
だが、一瞬間を置いたのち、まひろは思い出し、危地を脱する。

映画のキャッチコピーに「殺しても、忘れない」とある。まひろの20才の誕生祝のプレゼントの用意を忘れていたことを、ちさとが殺しの仕事の間に思い出すエピソードのことだろう。
だが、これまでの殺しの記憶を一瞬、まひろが失ったこと、また思い出したことを示唆しているように思えてならない。

6.試されるファン


さらに妄想をふくらませてみる。
まひろが答えに詰まるシーンは、ファンに投げかけた監督の挑発ではないか。

闘って一番強かったやつの名をあげられない。殺した相手のことを覚えていない。それは殺し屋とまひろの存在が、フィクションだからなのだ。

監督は、現実だと強引に信じ込ませていたものを、自らひっくり返す素振りをみせる。。

この挑発がファンに突き付けられる。このとき虚構の枠組みはゆらぎをみせる。監督は、突き放す。しかし、まひろが思い出すことによって、ファンは安堵する。居心地のよい、虚構の世界にこれまで以上に浸ることができる。

7.笑うまひろ


まひろは、闘いの中で、しきりと後ろを振り返り、足掛かりを見つけようとする。
格好の足掛かりと自分の位置関係、跳躍力を見極め、一瞬の判断ののち跳ぶ。足掛かりを蹴った反動で、かえでに必殺技の頭突きをくらわせる。だが、かえでは紙一重でかわし、攻撃は空振りに終わる。一度目の闘いと同じパターン。
しかし仰向けに落下しながら、まひろは笑みを浮かべている。

監督もまた、笑みを浮かべているのだろうか。


(※内容、セリフに正確性を欠くところがあるかもしれません。悪しからず。)


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