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「世界で2番目に美しい駅」に行く

2番目とは

「世界で2番目に美しい」と形容される駅がある。2番目とはどういうことか、自称なのか、気になるところである。調べてみると、2012年アメリカの旅行サイトの美しい駅ランキングで、実際に第2位に選ばれたという。こんなランキングがあること自体驚きであるが、カテゴリを微妙に変えた他の調査もあり、結果は上位常連であるようだ。

駅名は「美麗島駅」。名前からして美しさが伝わってくる。後に述べるが、名前に美しいという字が入るには、理由がある。駅の場所は高雄市。人口が台湾で3番目に多い都市である。台北市から向かうには、台湾の新幹線、高鉄が便利だ。まず高鉄の終点、高雄市内にある左営駅に向かう。訪れた日は、屏東市に用があり、先にそちらに向かう。
(屏東市訪問の経緯については、以前の記事「『牯嶺街少年殺人事件』をめぐる冒険#2屏東市編」に記しています。よかったら、#1、#3と合わせて読んで下さい。)

屏東市から台湾鉄道屏東線に乗って高雄市内に戻り、高雄駅で降車する。ここでMRTの紅線(Red Line)に乗り換える。高雄市内には、紅線、橘線(Orange Line)の2路線のMRTが走っている。美麗島駅は、紅線で高雄駅の隣、しかも紅線、橘線が交差する位置にある。

しかし台北駅、左営駅、高雄駅、どれも広く、天井の高い大空間を擁する駅舎となっていて、解放感がある。施設も新しくて、気持ちがいい。

台北駅
左営駅
高雄駅


美麗島駅

美麗島駅

さて美麗島駅である。天井が色鮮やかなステンドグラスのドームで覆われている。2008年にMRT新線が建設される際、新しい駅舎の天井の意匠をイタリアのステンドグラスアーチストのナルシサス・クアグリータに依頼した。4年半の歳月をかけて完成したこのドームの名称は「光之穹頂(The Dome of Light) 」。天井が4つに区分され、それぞれが水、土、光、火のテーマを表している。赤と青のコントラストとグラディエーション。確かに見るものを圧倒する美しさとスケールである。訪れた2024年4月の一日、ドームの下にはガイドに引率された日本人観光客も訪れていた。

決まった時間になると、光のショーが行われるのだが、この日はいつになっても始まらない。

見ると赤と青の2本の柱の間に、天井まで届く足場が組まれている。本当のところは判らないが、メンテナンスなのかもしれない。そういえば高雄の駅舎にも足場がかかっていた。

このときは知らなかったが、ショーが中止の場合は、高雄MRTのサイトで情報が掲載されるようだ。訪ねることがあれば、事前に調べておくことをお勧めする。

美麗島とは

16世紀の大航海時代、アジアに進出したポルトガル人は台湾を見てFormosa(フォルモサ)と言ったといわれる。言葉の意味は美しい島。台湾の風光明媚な自然を前にして、率直な感想だったろう。これを台湾の言葉に訳したのが「美麗島」。台湾の別名として長らく用いられてきた。しかしこれだけでは、この駅が「美麗島」を冠することの理由にはならない。

美麗島事件

台湾では、1945年中華民国による統治が始まり、その後戒厳令が敷かれる。この間、一貫して国民党による支配体制が続いてきた。1979年、民主化を求める人々は、雑誌を発刊し、その誌名を台湾の別称「美麗島」にとった。これが台湾民衆に広く受け入れられ、発行主体とその支持者は、台湾各地で集会を開く。同年12月、国際人権デーに合わせ高雄市内で開催されたデモは、警官隊と衝突することとなり、多数のけが人と逮捕者を出す。戒厳令下にあるため、一般人も軍事法廷で裁かれ、主催者には、反乱罪により無期懲役の極刑が下される。この事件を美麗島事件という。台湾内部に大きな反発を招いただけではなく、国際社会の注目と非難を集めることとなった。民主化に向けた大きなマイルストーンとなり、1987年の戒厳令解除に向け、時代は大きく動いていく。この衝突が起きた地点が、現在の駅周辺である。反対意見もあったというが、正式なプロセスを経て、現在の名称が駅名に採用された。

歴史が土地に名を刻む。

ランキングは別にしても、行くべき価値のある場所だ。

※美麗島事件の経緯などについては、若林正丈氏「台湾の歴史」講談社学術文庫 を参照させていただきました。

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