古代緑地 Ancient Green Bert 第13話『蛙のなみだ』
おさないゆきちゃんが お散歩していたら 小さな真っ黒なおたまじゃくしを見つけました
おたまは芝の上に 飛び出してしまって 池に帰れないでいたのです
息ができなくて 今にも死んでしまいそうなところを
ゆきちゃんが救ってくれたのでした
おたまは嬉しそうに 池に帰って行きました
数日後 おさないゆきちゃんが 池のそばを通ると
でかいおたまが飛び出てきて言いました
「この前は 助かったよ ありがとう!!」
ゆきちゃんは大きなおたまにびっくり
でも すぐに仲良しになりました
きれいな池で スイスイ泳ぐおたまを見ながら お話をするのが毎日楽しくて仕方ありません
ある時なんて ゆきちゃんは 五月のいい匂いのする風に眠気を誘われ
後ろ足の生えてきた おたまと一緒に空を飛ぶ夢を見たりしたものです
二人はとっても仲良し
前足も後ろ足も生えたおたまは 陸へ上がれるようになったので 木陰の芝生で おままごとをしたり 楽しいおしゃべりを続けました
親には内緒です だっておたまがお友達って言っても きっと信じてもらえないし 病院へ行きなさいなんて言われかねないですからね
ところが しばらく経ったある日 池のほとりで待っていると 嬉しそうに池から出てきたのは 蛙でした
ぴょんぴょん ぴょんぴょん ゆきちゃんの方へ 跳ねてきます
ゆきちゃんは おびえました
「おたまじゃない!おたまはどこ?」
「ぼく おたまだよ!」
っていくら言っても ゆきちゃんは ちがうちがう! ってわかってくれません
「おたまはどうしたの?」
「だから僕がおたまなんだよ」
「絶対違う おたまはもっと可愛いもん!! 」
ゆきちゃんは 全く認めてくれません
蛙くんになったおたまは 大粒の涙をこぼしながら 泣きわめく ゆきちゃんのそばにしばらくいましたが
「僕たちは そんなに長く 子どもでいられないんだ」
って 言い残して 後ろを振り返りながら 池へ帰って行きました
よく聞くと 懐かしい声だって ゆきちゃんは気がつきました
ゆきちゃんが 「おたまちゃん!」って言ったのと
「ポチャン」と水に飛び込む音は同時でした
もう おたまちゃんは顔を出しませんでした
ゆきちゃんの前には 小さな水溜りができていました
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ゑ本『古代緑地』第13話は『蛙のなみだ』です。
生きとし生けるものそれぞれ異なる時間を持って存在しています
幼心にヒリヒリと残る
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