穀雨 第16候・葭始生(あしはじめてしょうず)
「豊葦原の瑞穂の国」
「美し葦牙」と謳われた風土を持つ列島。人が住み始めた頃は湿地がとても多かったのだろう。
葦 芦 蘆 葭、、、たくさんの漢字を当てられ、「悪し」に通じるというのを忌み嫌われてヨシ 蘆 葦、、、となる。ややこしいが吉原は葦原だったのだ。
茅(かや)とも呼ばれるから 地方によって芒やオギなど陸生のものも使われるが、一般に茅葺き屋根も多くは葦が使われた。
武蔵野といえば雑木林というイメージは比較的新しい。国木田独歩が発見して以来と言ってもいいそうだ。古くは芒やオギが背の高さより生い茂り、それを漕いで歩くのは相当に難儀だったらしい。
其の芽は鋭く尖っている。地上に出て展開すればほどけて柔らかくなるが、地中で其の桃色の切っ先は植物とは思えないほどだ。一度ならず春先に草を引いていて手袋しないで芒のちょっとした原を掘ったところグサッと刺さったり、引っ掻いてしまったことがある。痛さと其の力強さと美しい桃色に魅入られた。
単子葉の若い芽は 牙でもある。 強く、猛々しく美しく 生命力が満ち満ちている。だからこそ竹にしても芒にしても葦にしても、尊ばれる。多くの穀物がイネ科だから 恵の兆しそのものでもあるのだから。
ものを掻く ペンにもなる
音を奏でる リードにもなる
稲はお月様に 竹は七夕様や歳神様に 立てられる
建材にもなる
まっすぐなこと 空洞があって軽いこと
空洞に何かが宿ると考えられること
会津の立木観音のあるお寺の茅葺き屋根を
茅の一本一本をくるくると水滴が伝わり落ちていたのは 本当に美しかった
集めて落とすのではない 自然の山のように 吸収もし 分散して 全体に流すとこんなに柔らかい
あの時もさみだれの季節だった