古代緑地 Ancient Green Bert 第14話 『剣闘士と牛鬼(うしおに)』
むかしむかし ある国に怪物がいました
人々はこの怪物を 牛鬼と呼んでいました
散々手こずらせた挙句 捕らえられ 最強の剣闘士による 公開処刑が決まりました 場所は大きな闘技場です
大衆は こういう正義の名の下の 暴力が好きです
その時が来ました
最初に怪物が鎖をつけたまま円形の闘技場に入れられました 汚い言葉が渦巻きヒートアップしています
続いて地鳴りのような大歓声とともに 剣闘士が入ってきました
盾は持たず その代わり美しい衣をマントのように羽織って 剣を携えています
相手はかの牛鬼 剣闘士といえども一歩間違えば 殺されてしまう可能性は高いのです
牛鬼の見た目はこの通り
7つの武器を持っています
その奇声は 聴覚を奪います
口から吐く炎は もの皆焼き尽くします
黒い翼は 激しい嵐を起こし 空を切り裂きます
破壊力のある尻尾
なんでも貫く大角
鋭い鉄の爪と
ギロチンのような牙
これらを無力化していかなくてはなりません
牛鬼は 口を開き 鼓膜を破るような奇声を 剣闘士に浴びせました
剣闘士は 八双飛びで交わしつつ マントに声を巻き取り 増幅して跳ね返したのです
牛鬼は それをまともに受けて 声と聴覚を失いました
どんよりした目をギョロッとさせ
今度は強力な尾を振り下ろしました
剣闘士は 目にも見えない速度で間合いに入り その剣は鮮やかな弧を描きました スフィン! 尾はクルクルと彼方へ飛んでいきました
牛鬼は 鼻息も荒く 角を突き立て 突進してきます
このパワーをまともに受けたらひとたまりもありません
剣闘士が マントを翻して鮮やかにいなすと
牛鬼は 闘技場の壁に ズドン! 突き刺さってしまいます
そこへ空高く舞い上がった剣闘士の剣がまっすぐに打ち下ろされ
角は壁に刺さったまま 断ち切られました
美しい切り口は 不思議とすぐにふさがってしまうのです
一番の武器を失った牛鬼
こんなことは初めてです
いよいよ狂ったように 今度は口から炎を吐きます
剣闘士はこれも事も無げにマントで祓い その火を剣に移しました
剣は紅蓮の炎をまといました
驚いた牛鬼は
黒い翼を広げ 飛び上がり すごい速さで飛び込んできます
掴みかかって 肉弾戦に持ち込み 爪と牙で 切り裂こうというのでしょう
剣闘士は 手に巻いたマントに 一回 牛鬼を噛みつかせ
その間に全ての爪を 炎の剣で瞬時に薙ぎ払いました
牛鬼が驚いて口を離したところ 再び フッと振るわれた剣の一閃
牙は すべて折られて 闘技場にバラバラと落ちました
刃こぼれひとつしない炎の剣を見て
さしもの牛鬼も 矢折れ刀尽き
戦意を失い どうっとそこに倒れました
観客は大興奮
殺せ殺せと叫びます
剣闘士は うつぶせに倒れている牛鬼の翼を マントでひと撫でし
優しく体にかけてあげました
さらに どんより白く濁った目を 拭ってあげました
すると悪魔のように黒かった翼は 白い羽毛の柔らかな翼に
瞳は洗われ 黒く輝き始めました
観客はぽかんと見ています
そのマントは天羽衣(あめのはごろも)と呼ばれたもので
牛鬼はそれにくるまれたため 本来の姿に戻ったのです
剣ももともとは魔を祓うもの 剣闘士が振るったのは布都御魂(ふつのみたま)の剣
衣と剣の力で
取り憑いた 物の怪や 嵩張ったゴワゴワの瘡蓋が 壊され
取り除かれたのです
意地悪な目で見ていたこの国の王族も貴族も商人も大衆も みんながみんな優しい気持ちになって 闘技場は大きな拍手に包まれました 大きな波が寄せるように広がり いつまでも鳴り止まなかったといいます
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