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清明 第14候 鴻雁北(こうがんきたへかえる)

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若い時見た いまの自分のどこかを作っている 忘れられない風景というのがあって そんな場所はいつか誰かに見せたいものでもある 
 候は「鴻雁北(こうがんきたへかえる)」 南から燕が渡ってきたら、雁が北へ帰っていく 
 人にも 帰りたい風景というのがあるのかもしれない

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作庭の現場が丸一日空いた時に いまなら あの頃見たあの風景が観れるかもしれないと 飛び出していた 
 20年も前だから多少は変わっているだろうけど お天気さえよければ、、、という思いで車を走らせた

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 そこは廃校を中心に 芸術家を中心としたコロニー「清春芸術村」というところ 校庭だったところは芝生が貼られ、小学校時代からの古い桜に囲まれている  20年以上前に行った時は 桜が満開 南アルプスが真っ白い壁のように目前にそそりたち 北は八ヶ岳の尾根が嶺まで続き 南に富士山を臨めるという ありがたい風景だった 立地する村の朝の風景をよく覚えている 春の朝陽を浴びてその集落は 穏やかで眩しかった 各戸で飼っている犬が順々に吠えていた 

アルプスは雪こそなく真っ白な威容は見られなかったが 青い山脈が春の散乱光で滲んでいた 桜はこちらが酸欠になりクラクラしそうなほどの満開 吸い込まれそうな蒼空と光の惑乱  


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 桜はまさに波が盛り上がり 砕けるごとく 彼方に見える雲湧き上がるにも似て ゆっくり爆発している

   大海の磯もとどろによする波 われてくだけて裂けて散るかも(源実朝)

 風が強かったので 群れた花は枝ごとに大きく揺れ 時々舞い散る花びらは 波の花のよう 空が青く澄みすぎている 夜が奥に透けている 

 鳥の声は間断なくあちこちから聞こえていたが これだけ盛りなのに虫を見ない そこが少し不穏だったのかもしれない

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 こんなにも果てしない青い空を シベリアまで飛ぶという雁 

 車で東京からここまで来る間も 山の様相がどんどん変わっていったが 

 彼らが空から見る日本からユーラシアの地上の春はどんな風に移ろい 瞳に映るのだろう 

 その景色がいつまでも受け継がれていくように 






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