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Vol. 18 2024年12月 時事レポート「インテリジェンス〜見抜く力〜」 by 大伴審一郎

1. フェイク情報や詐欺の急増

ディープフェイクとは、機械学習の1つであるディープラーニングとフェイクを組み合わせた造語である。もともとは画像や動画を合成して新たなコンテンツを作成する技術だったが、現在ではAIを使い、本物と見紛うフェイクコンテンツ(ニセ画像・ニセ動画・ニセ音声)を作成して悪用するケースが増加傾向にある。

例えば、「アメリカ国防省の近くで爆発が起きた」とするフェイク画像が拡散され、ダウ平均株価が一時下落したり、「台風の豪雨により静岡県で水害が起きた際、町全体が水没した」とするニセ画像が拡散され、県が冷静な対応を取るよう注意喚起を行ったり、あるいは「フェイク音声で上司になりすました犯人からの電話」により、イギリスのエネルギー企業のCEOが現金を送金してしまったといった実害が発生している。

また、日本では特殊詐欺が急増しており、警察庁が発表した資料によると、2023年の特殊詐欺の認知件数は、過去15年で最悪となる19,033件で、2022年と比べて1,463件増加した(8.3%増)。その被害額も441.2億円で、こちらも前年比で70.4億円も増えている(19.0%増)。さらに、2024年の発生件数は、現時点で昨年の倍以上となっている。

しかも、この数字は警察が認知した件数であり、認知していない詐欺(被害届を出していない詐欺)を含めると、さらに数字は膨らむ。また、インターネットを悪用した詐欺被害額についても、2023年は約772億円に上り、2022年から倍増している。

こうしたフェイク情報や巧妙な詐欺は、ネット利用の拡大とAIの進化とともに増加しており、今後もさらに増加していくことが予想される。

2. 情報とは

情報とは、簡単に言えば「伝えられる内容」のことである。主に「伝達」という行為においてやりとりされる、事実、知識、データ、合図(信号)、等々、あるいは、その事実や知識を伝達するという行為そのものをいう。

そして、情報には次のような意味がある。
・発信される事象(information):本来的な意味の情報
・収集される事象(intelligences):知性や理解力を活かして情報を収集し、分析・評価して意思決定に活かす能力

インフォメーションとインテリジェンスは、どちらも英語で「情報」を意味する単語であるが、意味合いが異なる。従って、先述のようなフェイク情報や詐欺に対しては、インテリジェンスが重要となる。

その際、認識しておく必要があるのが、情報は人を介することで意思(意図)の影響を受けるということである。つまり、情報=情(人間の心の働き)+報(告げ知らせる)とも言えることから、事実と意思を切り分けて評価しなければ情報の本質を見極めることはできない。

例えば、ある政策に抗議する市民が官邸に100人集まったという事実があった場合、賛同する者がこの状況を発信すると「官邸に100人もの市民が集まり、抗議の声を上げた。こうした動きは今後拡大する可能性がある」となり、反対する者が発信すると「政策に反対する市民100人が官邸に集まったものの、全国的な抗議運動に発展する可能性はない」となる。

このように、事実+意思(発信者の期待等)で真逆の印象となるため、発信された情報について、発信者の意思(意図)を事実から分離して客観的に評価しなければ、情報の本質を見抜くことは難しい。

その一方で、受信者側の意図も情報の評価に影響を与える。つまり、情報を自らの都合のいいように解釈しがちであるということも、常に意識しておかなければならないのである。

3. 人は印象で判断する

アメリカの心理学者アルバート・メラビアンが提唱した「メラビアンの法則」では、人の印象は「視覚情報(見た目)」が55%、「聴覚情報(話し方)」が38%、「言語情報(話の内容)」が7%の割合で決まるとされている。

この法則は「7-38-55のルール」とも呼ばれ、コミュニケーションにおける非言語的要素の重要性を示している。

また、人は「認知バイアス(思い込みや決めつけ)」という思考のくせによって、印象によって判断しがちである。例えば、実績や結果が重要である評価の場面でも、印象によって判断されることは少なくない。

しかし、顔から受ける印象だけでは内面まで正確に判断することはできない。有能そうな印象を受けたからといって、本当にその人が有能であるかどうかは別の問題である。

4. エコーチェンバー現象

エコーチェンバーとは、SNSなどで自分と似た考えや価値観を持つユーザー同士でつながり、同じような意見ばかりを目にしたり発信したりする現象を指す。エコーチェンバー現象では、次のようなことが起こるとされている。

・自分と同じ意見や考えが正しいと信じてしまう
・世の中全般の意見が見えにくくなる
・フェイクニュースを信じ込んでしまう

日本のスマートフォン普及率は、2024年1月時点で97%に達しており、世界では2023年時点で約69%と推定されている。

多くの人々がスマホを手にし、いつでもどこでもSNSで情報を発受信できる環境に置かれている中、エコーチェンバー現象やフィルターバブル(自分の価値観や考え方と似た情報に囲まれる現象)、確証バイアス(自分の思い込みや願望を強化する情報に注目し、そうではない情報は軽視してしまう傾向)によって、情報の本質が歪められる危険に晒されている。

5. 情報の本質を見抜く力とは

写真:canva.com/Volodymyr

以上、述べたように情報は感情によって左右される。先日行われた兵庫県知事選では、公益通報者を保護しない「パワハラ知事」から、オールドメディアと既得権益を代表する議会から叩かれる「可哀想な知事」へと一気に印象が変わった。情報の特性である「残存性」「複製性」「伝播性」がSNSで発揮され、瞬時に世論が形成されたものと推察される。

そうすると、フェイク情報であってもSNSで発信された視覚情報(メラビアンの法則)は、情報の特性である「残存性」「複製性」「伝播性」によって拡散され、エコーチェンバー、フィルターバブル、確証バイアスという心理状態に置かれ、信じ込んでしまう危険性があるということになる。

このような現象を回避するには、自分自身を客観視し、多様な主義・主張に触れるため、あえて自分とは違う意見や思想を持った人が発信している記事や投稿を見に行くことも大切だろう。

また、ネット上の意見や情報に踊らされることなく、本当にそうか?と疑問を持ち、一次情報を見に行って事実関係を確認するなど、自身のメディアリテラシーを高めることも重要である。

こうしたことを一言で表せば、「事実と感情を切り離し、情報発信者の意図を推察するとともに、自分自身の感情を把握して本質を見極める」ということであるが、このことの詳細を文章で説明するのは極めて難しい。

また、情報が正しいか誤っているかの判断は、情報源を確認する術がない者にとっては不可能に近いと言わざるを得ない。

では、正誤入り混じった情報のシャワーに、私たちはどのように対処すれば良いのだろうか。そのことについては、いずれ機会があればご紹介したい。

12月のイベント情報

写真:canva.com/gettyimagespro


次回のイベントでは、皆さんお待ちかねの「インテリジェンスの真価」に焦点を当て、社会との関わりや「見抜く力」について掘り下げていきます。ぜひ、次回もご参加ください!

12月のイベント「社会との関わり / インテリジェンスの真価 ~ 見抜く力」
日時:12月17日(火) 20:00 - 21:00
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※ この記事の内容は大伴審一郎の個人的な見解です。

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