【第461回】『HK/変態仮面 アブノーマル・クライシス』(福田雄一/2016)

 郊外にあるマッハピザ店のレジ前、客に見える店頭で店長(新井浩文)の罵声が鳴り響く。かつては30分以内に届けることが至上命題だったピザ屋が、いつの間にか40分1時間が当たり前になっている現状に対し、このピザ屋は20分以内にお客様の元へ届けることをを売り文句にしている。それが達成出来ずにいるアルバイト店員の色丞狂介(鈴木亮平)は平身低頭で、おでこを地面にこすりつけ、ただひたすら謝るものの、店長はクビだと言って聞かない。常連のお客様からの注文に最後のチャンスだと命じ、色丞は今度こそはと20分以内の配達を心に誓う。バイクにまたがり、スピードを上げる彼の眼前に、現金輸送車強奪の瞬間が悪夢のように飛び込んでくる。男は散々悩んだ末、ピザの配達を断念し、スーパーヒーローになって犯罪を撲滅する。まるでサム・ライミの『スパイダーマン2』の導入部分のような3年前のダイジェスト映像の後、色丞狂介と愛しのヒロイン姫野愛子(清水富美加)は前作から3年間、順調に愛を育み、同じ大学に通っている。夢にまで見た2人一緒のキャンパス・ライフ。相変わらずの変態生活。度々愛子ちゃんのパンティの力を借り、世直しのために正義のヒーローとなる自己満足な日々に、いきなり最愛の人の横槍が入る。

『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』や『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』など、直近のアメリカン・ヒーローものがしばしば戦争の大義名分と犠牲者や甚大な被害の間で悩み、葛藤するのに対し、今作では開巻早々、意気揚々と世直しと称し、パンティを被って変態仮面となり、次々に悪を倒してきた主人公の慢心を、最愛の人のあまりにも腑に落ちる正論が木っ端微塵に打ち砕く。前作において、最大の宿敵だった大金玉男(ムロツヨシ)を葬り去った今、2人にとっての障害はなくなったはずであり、日本の治安の悪化は警察に任せるべきで、なぜ自分のパンティを被り続け、あなたは戦い続けるのか?と問うのである。冒頭の学生食堂での色丞狂介と姫野愛子のやりとりは、彼らが真面目に演じれば演じるほどあまりにも滑稽に映る。『テラフォーマーズ』同様に、大義名分を失い、ひたすらアメリカン・ヒーローものに憧れ、屈折し、10分の1ほどの制作費で作るしかない現状。極東の島国から冷笑する他なかった日本のヒーローものは、メタ映画としてアメリカン・ヒーローものを追走する。そこには諦念と開き直りがはっきりと滲み出ている。学生食堂でのシリアスなやりとりの後、学課棟の廊下に呼び出した愛子は、色丞狂介に対し、自身のパンティの返還を求める。それを一番奥の柱の陰で、真琴正(柳楽優弥)が見つめている。このあまりにも図式的な構図が今作の核となるのである。

前作から3年あまり、国民的俳優への道はまだ途上だとしても、鈴木亮平、清水富美加、ムロツヨシ、安田顕、片瀬那奈など主要キャストに関しては、それぞれが順調に役者としての階段を昇っているように思えるが、その華々しいキャリアに反比例するような、前作以上の嬉々とした怪演ぶりが非常に悩ましい。特に主人公を演じた鈴木亮平の今作に賭ける熱量には非常に心打たれた。彼がキレイなお尻を人前に晒し、おいなりさんのポロリも気にせず、この厨二病的な世界に一生懸命になればなるほど、勧善懲悪の構図はより鮮明になる。序盤の彩田椎名教授(水崎綾女)の初講義の場面の荒々しい息遣いのあまりの馬鹿馬鹿しさには、声を出して笑った。咬ませ犬的に登場するミスター・バキューム(皆川猿時)の見事な言い回しとやられっぷり、NY編の明らかな『スパイダーマン2』へのオマージュなど、要所要所にしっかりと見せ場を作る福田監督の見事な手腕。スーパー・ヒーローの葛藤克服のきっかけが、ヒロイン姫野愛子への過剰な愛ではなく、ただ単に、弾き語り少女とパンツ少年の承認欲求だけだったというのが笑えるが、勧善懲悪な物語を、あくまで破綻なく紡いだ潔さが心地良い。クライマックスの清水富美加のパンティ履き直しのあまりの馬鹿馬鹿しさには劇場がどっと湧いた 笑。2作目にして、変態仮面としての基本設定を色々と壊し過ぎたきらいはあるものの、はなっから名作など眼中になく、突き進んだ勧善懲悪の様式美とエンタメ化には、『テラフォーマーズ』並みの思いっきりの良さとアメリカン・ヒーローものへの強い冷笑、アメリカ映画の大きな物語への嫉妬を同時に感じる。

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